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第二章 人形の怪
【参】ー4
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「君が噂の九尾の妖狐かい?」
被っていた烏帽子を脇へ置き、一人の男が珍客に向けてくすりと笑みを零す。
すっかり日も暮れて涼しくなった庭先では鈴虫たちがチリチリと心地よい音色を奏でている。
烏帽子から解放された長い髪を無造作に後ろへ払い退けた男は楽に腰を下ろしたまま相手を自室に招き入れた。
九尾の妖狐と呼ばれた若い男は人間の姿をしている。獣の耳や尻尾もないが気配だけは人間のそれとは違っていた。
彼は促されるまま向かいに腰を落ち着けて問う。「今日は護衛はいないのか?」と。
だから此処に入ってきたのだろうにと分かり切った答えを笑みに変えて部屋の主は首を振った。
「君は噂通りだな」
「噂?」
「飄々としているが非常に警戒心が強い。私の存在を感じると直ぐに姿を消していただろう? お蔭で対面するまでに時間を要してしまった」
そう言うと目の前の金色の瞳が僅かに眇められた。
「当然だ。あんたは人間でしかも祓い人。俺とは相反する存在なのだからな」
「……君のような存在でも陰陽師が怖いか」
「そうは言ってない。執拗に追い回される面倒を回避するためだ。必要とあらばあんたでも容赦はしない」
それが彼ーー妖という存在の習性。人間に忌み嫌われることが当たり前の世の中である以上一方的に警戒を解けとは言えない。
しかしこの陰陽師は違った。
「私のことは警戒してくれるな。妖だからと言って見境なく祓ったりはせんよ」
「どうだかな。警戒するしないは俺が決めることだ」
「ではこうしよう。まずは私のことを教えるから次に君のことを教えてもらいたい」
「……は? あんた頭大丈夫か?」
名案と言わんばかりに誇ったような笑みを浮かべる陰陽師に妖狐は深く項垂れた。
「あんた、偽物じゃないだろうな……?」
疑いたくなるのも無理はない。
祓う対象である妖に対して自己紹介を求める陰陽師など前代未聞だ。
「私は安倍晴明。歳は三十。陰陽道を極めている」
「……」
「ほれ、どうした? 君の番だ」
相手が答えることを微塵も疑っていない晴明はただじっと返答を待っている。
暫くの間鈴虫の鳴き声だけが耳を打っていた。
それを漸く破ったのは妖狐の深い溜息だった。
「……俺に名はない。あるのは妖狐という種別だけだ。歳は知らんがあんたよりは遙かに上だろうな」
鼻に掛けた言い方をした妖狐だったが晴明はまったく気にしない。
それどころか感心したようにしきりに頷いている。
「私より上なのは当然だろう。尾裂狐の中でも最上位に位置づけられる九尾狐。九本の尾を持つまでにはかなりの歳月がかかると聞く」
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