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 結婚、結婚?!
「それはっ、できない」
 頭をぎゅっと引き寄せられて彼のかたにわたしの顎が乗る。
「どうして?」
 さっきまでの感触と彼の声と息づかいがダイレクトにわたしを襲う。
「だ、って、借金、が……」
「そんなものないよ。存在しなかった」
 驚いて固まるわたし。
「ないって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。存在しない借金をなぜか背負わされていた。」

 彼は教えてくれた。
 どうやら今回の借金は架空のもので。
 お父様やその場にいたものの話によると借金をしたと思われる瞬間、誰かが来たような気がするけど覚えていない、ただ借金をした契約書だけ持っていたと言っていたそうだ。
 でも、そんなお金は我が家にはないし、何に使ったのか不明だ。贅沢をしているわけでもない。
 借りたはずのお金は行方不明で、契約書だけ残されている奇妙な状況だったらしい。



「どういうこと?全く理解が追いつかない……」
「俺もだよ。本当におかしいんだ」
 ……じゃあ、もうお金払わなくてもいいの? 家に帰れる?
「それはダメ。ローズはおそらくここにいた方が安全だ」
 なんでわたしの思ってることがわかるのよ。怖いわ。
「なんで?」
「それはまだ言えないけどおそらく家にいない方がいい。申し訳ないがしばらくここに住んでくれ」
 どうやらまだまだわたしは娼館にいないといけないみたいです。

「どうしても?」
「どうしても。約束破ったら閉じ込めるよ」
 本気の目で言われて、諦めて頷いた。



 その日からアウロさんについてって色々教えてもらった。
 ここには別館があって、そこに泊まるところがあるらしい。
 訳ありの貴族令嬢や他の人たちはここで生活してるんだって。
 それとは別に娼館のなかの秘密の通路を通ると、直通で別荘があってわたしはそこに住んでいいみたい。
 とても大きな別荘で、周りには何もない。
 まさに隠れ家的なところみたい。

 それと実は彼はすでにわたしと専属契約を結んでいるらしく、他のお客様は相手にしなくてもいいらしい。
 なので、呼ばれた時だけ向こうに行けばいいんだって。
 そんなの知らなかった。そもそも専属契約ってお互いの同意がないと無理なんじゃないの……
 そんなことを思いながら、案内された別荘の中に入ると、とても綺麗に手入れされていて。
 きょろきょろ見渡していたわたしは一人の女性に声をかけられる。
「初めまして、お嬢様。今日からお世話させていただくタバサと申します。御用の際は何なりとお申し付けください」
 わたしの親くらいの年代だろうか。タバサさんはわたしの生活を手伝ってくれるみたい。
「こちらこそよろしくお願いします」

 挨拶を済ませて部屋へ向かう。
 なんと言うか部屋はとても豪華だ。
 キラキラしすぎて傷をつけないか心配になる。
「あ、あの……ここに住むんですかね?」
「そう伺っております。お嬢様のお部屋はこちらを使うようにと」
 開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。
「ちょっと、豪華すぎません……?一体誰がここを」
「俺だよ」
 颯爽と現れたのはウィルだった。さっき帰ってなかった……?
「ちょっと工事に時間かかってね。遅くなった」
「遅くなったってあなた、私ここに来て二日目よ?一体いつから……」
「んー、君とマクルトと話した後から?」
 絶句した。そんなすぐに用意できるもんなの?こんな屋敷ポン買ってさらには内装もいじって掃除して使用人まで雇って。
「あなたいったい何者なの……」
 彼はすっとわたしの手をとって人差し指をすっと唇に当てて。
「秘密」
 きらきらエフェクトが見えそうなくらいの怪しげな笑みを浮かべて言ってのけた。
 は、破壊力が半端じゃない。思わず俯くわたしを彼はくすくす笑っていた。



 当たり前のように屋敷のわたしの部屋に入り浸る彼。
「あの……」
 思わず声をかけると、閉じていた瞳を開けてわたしの顔を見て。
「なに?」
 もう、寝顔から寝起きからわたしの心臓がもたない。
「寝づらくないですか」
「いや。最高だけど?」
 わたしの膝に頭を乗せてソファに横たわる彼。平然と言ってのける彼にわたしは何も言わないことに決めた。
「大丈夫だよ。この屋敷何もしない」
 妙に強調されたその言葉にわたしは両手で頬を覆ってしまった。
 ではって何?
 ここじゃなきゃするってこと?!
 ああ、もう考えるのをやめよう。わたし倒れそう。
 一気に疲れたわたしは、いつの間にかそのままうとうと眠ってしまった。 
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