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結婚編
3.重要なのは情報集め
しおりを挟むサロンから自室へ戻ったイサイアスは珍しく長い間考え込んでいた。
今回のノンナ王女のエスコートの件、やはり何度考えても仕組まれたことのように感じる。
ノンナとは幼馴染と言っていいような気軽な関係であることは事実だが、皇太子を差し置いてイサイアスが彼女をエスコートをするというほど特別親しいわけでもない。
以前留学に行った際お世話になったし、その借りがあったせいで今回は引き受けざるを得なかったが、婚約者のいる身で他の女性をエスコートをするなどおかしな話だ。
それに最近やけに広がっている嫌な噂も気になる。
イサイアスが心変わりするなど満が一つにもないと断言できるが、あの噂がレティシアを不安にしているのも事実だ。
レティシアが気にするのなら、その原因は何が何でも取り除かなくれはならなかった。
噂と王女のエスコート。タイミングがいいというだけでは少し気にかかる。
調べてみるか、とイサイアスは立ち上がってあの人物を呼びつけることにした。
「やあ、イサイアス。そろそろ呼ばれる頃だと思っていたよ。」
相変わらずの能天気さを装って、ヘンリックが屋敷にやってきたのはその日の夕暮れだった。
「遅かったな、ヘンリック。」
「おいおい、これでも急いできたんだぜ?」
いつも通り、断りもなく向かいに腰かけるとテーブルに書類を出した。
「イサイアスが知りたいことはこれでしょ?」
ヘンリックから渡された書類に書かれているのは気がかりだった噂の出どころ、種類、伝達経路などなど。
おそらく噂が流れ始めた頃からすでに調べまわっていたのだろう。知りたかったことが全て詳細まできっちりとまとめられている。
ヘンリックはイサイアス付きの諜報員だ。ヘンリックの家は代々アルハイザー家に従事する諜報員を輩出する家系。幼少期から特別な訓練を受けており、彼らに調べられないものはないといって過言ではない。
ヘンリックのように主人について主人の望む情報を手に入れる人物の他に、王宮や各地の要所に入り込んで情報を手に入れる人達もいる。
分家の末端まで全員が訓練されアルハイザー家に仕えてくれているのだ。情報屋に頼むよりも確実で、情報の漏洩も少ない。
そんなヘンリックが集めてきた報告に目を通しながらイサイアスは本日何度目かのため息をついた。
「お姫様、よっぽどイサイアスを気に入ってるみたいだね。流石色男、モテるね~」
「はぁ、面倒な。」
なるほど、エスコートした際にやけに距離が近いと感じたのは気のせいではなかったか。と、イサイアスはあの時のことを思い出した。
「『会いたかったわ、イサイアス』でしたっけ」
「妙な物まねをするな。だが、うまいな」
ヘンリックが裏声でっそっくりなノンナの物まねをして見せる。
そう、確か再開したときに同じことを言われた。
色んなところに潜入するからか、声を変えるのが妙にうまい目の前の男はケタケタと笑っている。
「相変わらずなんでも知ってるな。それこそ、その場にいなけりゃ知らないような情報まで。」
「まあ、うちの情報網は帝国一を自称していますから。」
「自称なのかよ。」
「で、どうします? 噂の操作くらいならすぐにできるように準備してますよ。」
「流石。それじゃあ手始めに......」
それから、イサイアスとヘンリックは夜中まで話し込み、作戦を練り上げていった。
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