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Story10 二人の先に見えるもの
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「タミオの事…お願い」
「えっ…?」
この間までのユリとは違い、時々切なさも窺える表情で話してきた。
「私には、彼を変える
事は出来なかったわ。
やっぱりあなたの事、
忘れてないのよ」
「どういう事ですか?
今だって記憶は戻って
いませんでしたよ?」
「あなたの事を忘れて
欲しくて頑張った。
でも、マンションで
2人が会った、あの日
から…彼は忘れた何かを
取り戻すみたいに、
いつも必死に思い出そう
としてた。結局…私の事
なんて、最初から都合の
良い友達くらいにしか
見てなかったのよ。
そんな人の隣にいても
つらいだけだわ。
だから、これからは
あなたが彼を支えて
あげて」
「私が隣にいても同じ
です。彼には迷惑な
だけで、出来ること
なんてもう…」
「意地悪した事は謝るわ。
本当にごめんなさい。
でも、あなたの想いは
その程度?そんな事
ないでしょう?彼は
必ずあなたの事を
思い出すわ。その時に
隣にいるのは、私じゃ
ないのよ。そばにいて
支えてあげて!お願い」
「ユリさん…」
ユリは涙を流していた。
彼女も碧に負けないくらいタミオを愛しているのが分かった。
「彼には連絡しておくから
家まで送ってあげてね。
車で待ってて」
「待って…ユリさん」
「なに?」
「本当にありがとう」
「タミオのためよ。もう
彼を離しちゃダメよ。
それじゃあね…」
そう言うと、ユリは帰っていった。
そして数分後…。
タミオが走って戻ってきた。
「ユリが先に帰るから
あなたに送って
もらってって…。
どういうこと?」
ユリはタミオに何も言わずに去っていったのだ。碧への最後のチャンスをくれたのだと思った。
「とりあえず…
乗りませんか?」
「あっ…ハイ」
タミオが助手席に乗ると、碧は車を走らせた。しばらくすると、タミオが碧に話しかけた。
「こっちは、家と
反対なんだけど…」
「連れて行きたい所が
あるの…」
到着するとタミオは驚いた。
「ここは…」
以前、タミオに連れて来てもらった絶景の場所だった。
「私が落ち込んでいる
時に、タミオさんに
連れて来てもらった
事があるんです。
今日は一緒に見たくて
来ちゃいました。
ここは、いつ来ても
本当に癒されますね」
「そうだね…この景色を
見ると何か元気になる。
でも…僕が連れて来た
って事を思い出せない
のが残念だけど…」
「私が覚えているから
良いんです。タミオ
さんが私にくれた、
ステキな思い出は
全部…私が覚えて
おきます」
「碧さんは不思議な人だ。
何故かあなたといると
落ち着くんだよね。
この景色のせいかな…
今日一緒にいる、この
時間は忘れたくないな」
「ムリに思い出す
必要はありませんよ。
私も支えるなんて
偉そうなことは
言えません。でも
いつも隣にいます。
とりあえず今は、
新しい時間が始まる
と思ってユックリと
この時間を楽しみ
ましょう」
時間がゆっくりと流れていた。2人とも、この時間が続いてほしい…と思っていた。
そして1年後…。
碧は結婚式場にいた。
音楽と共にバージンロードを父と歩く花嫁…。
今日は、ユリの結婚式だった。
碧の前を通るユリに「おめでとう」と小声で伝えると、涙と共に笑顔で返してきた。遅れてやって来たタミオが碧の隣に座り、手を合わせてゴメンと合図する。ユリは、あれから間もなく実業家と知り合い…1年の交際の後に、今日を迎えたのだ。ユリは本当に幸せそうだった。
「ユリ。それじゃあ
私達はそろそろ…」
「今日は来てくれて
本当にありがとう」
「こちらこそ…近親者
のみの招待なのに、
私達まで…ありがとう。
披露宴までいられなくて
ごめんね」
「あの披露宴は、主人の
取引先の為に開いた
披露パーティーの様な
ものだから、気に
しないで。それより碧。
あなたとは色々あった
のに、こうして仲良く
してくれて今は本当に
嬉しいの。だから
2人には、どうしても
この式を見届けて
欲しくて招待したのよ」
「オレは何だかオマケ
みたいだな」
「そうね。一番に呼んだ
のは碧だわ。でも私の
結婚式に遅刻してくる
くらいだからオマケに
されても仕方ないわね」
「道が混んでたのー!
式はちゃんと見届けた
から許してくれよー」
3人で顔を見て笑い合っていた。
そして帰り道、2人で歩いているとタミオが話し始めた。
「碧さん…」
「ん?なぁに?」
「この1年、本当に色々
ありがとう」
「何?突然…」
「ちゃんと、お礼を
言わなきゃ…って
思って。記憶がない
オレと今でもこうして
一緒にいてくれて感謝
してるんだ」
「私の方こそ、タミオに
感謝してるんだよ。
新しい時間って言った
けどムリさせてない
かな…って。私と
一緒にいるのは不安
なんじゃないかって」
「そんなことないよ。
碧さん…いや、碧と
一緒にいると、いつも
落ち着くんだ。上手く
言えないんだけど、
帰るべき場所に戻って
きた様な…そんな感じ」
良かった。記憶はなくてもあの時と同じ様に好きになってくれた事…それが碧には嬉しかった。
「タミオはこれから
どんな事をしたい?」
「うーん。音楽の記憶は
残ってるから、今の
オレのままで新しい
音楽が作れるのか
試したい気持ちはある。
でも碧を守りたいって
気持ちもあるんだ」
「もう守ってくれてる
じゃない。一緒にいる
だけで安心だよ。私は
タミオの新しい音楽、
聴いてみたいな…」
「新しい時間も始まった
事だし、試してみるか!
キャンプも行きたいし
やりたい事は沢山ある」
「キャンプいいねー!
あの絶景の場所で
キャンプしたいな。
あっ…話してたら
お腹空いちゃった。
帰ったら何か作るよ。
何食べたい?」
「オムライス!いや、
ハンバーグもいいな…」
「子どもみたい」
「だって、碧の料理どれも
旨いんだもん。でもさ、
今朝はバタバタしたから
疲れてない?作るのが
面倒だったら何か食べに
行ってもいいんだよ?」
「いや、明日からまた
忙しくなりそうだし
色々作り置きする!」
「じゃあ手伝う!」
「ありがとう」
「そういえばさ、
明日の会議の資料を
まとめるとか言って
なかった?」
「あっ!それも
やらなきゃ!」
「オレが作るから、碧は
会議の資料まとめて」
「せっかくロマンチックな
雰囲気だったのに…。
オムライスは作るね」
「これが良いんだよ。
日常に碧がいてくれる…
こんな幸せなことないよ。
ねぇ、手を出して」
碧が手を出すとタミオがその手を握り、碧もタミオの手をギュッと握り返した。
「これからもこの手を
離さずに、いつも碧が
笑っていられる様に
するから」
「うん」
新緑の季節、木々の隙間から陽射しが2人を照らしている。
心地よい風を感じながら、タミオと碧は、その手を離すことなく並木道を歩いて行った…。
「えっ…?」
この間までのユリとは違い、時々切なさも窺える表情で話してきた。
「私には、彼を変える
事は出来なかったわ。
やっぱりあなたの事、
忘れてないのよ」
「どういう事ですか?
今だって記憶は戻って
いませんでしたよ?」
「あなたの事を忘れて
欲しくて頑張った。
でも、マンションで
2人が会った、あの日
から…彼は忘れた何かを
取り戻すみたいに、
いつも必死に思い出そう
としてた。結局…私の事
なんて、最初から都合の
良い友達くらいにしか
見てなかったのよ。
そんな人の隣にいても
つらいだけだわ。
だから、これからは
あなたが彼を支えて
あげて」
「私が隣にいても同じ
です。彼には迷惑な
だけで、出来ること
なんてもう…」
「意地悪した事は謝るわ。
本当にごめんなさい。
でも、あなたの想いは
その程度?そんな事
ないでしょう?彼は
必ずあなたの事を
思い出すわ。その時に
隣にいるのは、私じゃ
ないのよ。そばにいて
支えてあげて!お願い」
「ユリさん…」
ユリは涙を流していた。
彼女も碧に負けないくらいタミオを愛しているのが分かった。
「彼には連絡しておくから
家まで送ってあげてね。
車で待ってて」
「待って…ユリさん」
「なに?」
「本当にありがとう」
「タミオのためよ。もう
彼を離しちゃダメよ。
それじゃあね…」
そう言うと、ユリは帰っていった。
そして数分後…。
タミオが走って戻ってきた。
「ユリが先に帰るから
あなたに送って
もらってって…。
どういうこと?」
ユリはタミオに何も言わずに去っていったのだ。碧への最後のチャンスをくれたのだと思った。
「とりあえず…
乗りませんか?」
「あっ…ハイ」
タミオが助手席に乗ると、碧は車を走らせた。しばらくすると、タミオが碧に話しかけた。
「こっちは、家と
反対なんだけど…」
「連れて行きたい所が
あるの…」
到着するとタミオは驚いた。
「ここは…」
以前、タミオに連れて来てもらった絶景の場所だった。
「私が落ち込んでいる
時に、タミオさんに
連れて来てもらった
事があるんです。
今日は一緒に見たくて
来ちゃいました。
ここは、いつ来ても
本当に癒されますね」
「そうだね…この景色を
見ると何か元気になる。
でも…僕が連れて来た
って事を思い出せない
のが残念だけど…」
「私が覚えているから
良いんです。タミオ
さんが私にくれた、
ステキな思い出は
全部…私が覚えて
おきます」
「碧さんは不思議な人だ。
何故かあなたといると
落ち着くんだよね。
この景色のせいかな…
今日一緒にいる、この
時間は忘れたくないな」
「ムリに思い出す
必要はありませんよ。
私も支えるなんて
偉そうなことは
言えません。でも
いつも隣にいます。
とりあえず今は、
新しい時間が始まる
と思ってユックリと
この時間を楽しみ
ましょう」
時間がゆっくりと流れていた。2人とも、この時間が続いてほしい…と思っていた。
そして1年後…。
碧は結婚式場にいた。
音楽と共にバージンロードを父と歩く花嫁…。
今日は、ユリの結婚式だった。
碧の前を通るユリに「おめでとう」と小声で伝えると、涙と共に笑顔で返してきた。遅れてやって来たタミオが碧の隣に座り、手を合わせてゴメンと合図する。ユリは、あれから間もなく実業家と知り合い…1年の交際の後に、今日を迎えたのだ。ユリは本当に幸せそうだった。
「ユリ。それじゃあ
私達はそろそろ…」
「今日は来てくれて
本当にありがとう」
「こちらこそ…近親者
のみの招待なのに、
私達まで…ありがとう。
披露宴までいられなくて
ごめんね」
「あの披露宴は、主人の
取引先の為に開いた
披露パーティーの様な
ものだから、気に
しないで。それより碧。
あなたとは色々あった
のに、こうして仲良く
してくれて今は本当に
嬉しいの。だから
2人には、どうしても
この式を見届けて
欲しくて招待したのよ」
「オレは何だかオマケ
みたいだな」
「そうね。一番に呼んだ
のは碧だわ。でも私の
結婚式に遅刻してくる
くらいだからオマケに
されても仕方ないわね」
「道が混んでたのー!
式はちゃんと見届けた
から許してくれよー」
3人で顔を見て笑い合っていた。
そして帰り道、2人で歩いているとタミオが話し始めた。
「碧さん…」
「ん?なぁに?」
「この1年、本当に色々
ありがとう」
「何?突然…」
「ちゃんと、お礼を
言わなきゃ…って
思って。記憶がない
オレと今でもこうして
一緒にいてくれて感謝
してるんだ」
「私の方こそ、タミオに
感謝してるんだよ。
新しい時間って言った
けどムリさせてない
かな…って。私と
一緒にいるのは不安
なんじゃないかって」
「そんなことないよ。
碧さん…いや、碧と
一緒にいると、いつも
落ち着くんだ。上手く
言えないんだけど、
帰るべき場所に戻って
きた様な…そんな感じ」
良かった。記憶はなくてもあの時と同じ様に好きになってくれた事…それが碧には嬉しかった。
「タミオはこれから
どんな事をしたい?」
「うーん。音楽の記憶は
残ってるから、今の
オレのままで新しい
音楽が作れるのか
試したい気持ちはある。
でも碧を守りたいって
気持ちもあるんだ」
「もう守ってくれてる
じゃない。一緒にいる
だけで安心だよ。私は
タミオの新しい音楽、
聴いてみたいな…」
「新しい時間も始まった
事だし、試してみるか!
キャンプも行きたいし
やりたい事は沢山ある」
「キャンプいいねー!
あの絶景の場所で
キャンプしたいな。
あっ…話してたら
お腹空いちゃった。
帰ったら何か作るよ。
何食べたい?」
「オムライス!いや、
ハンバーグもいいな…」
「子どもみたい」
「だって、碧の料理どれも
旨いんだもん。でもさ、
今朝はバタバタしたから
疲れてない?作るのが
面倒だったら何か食べに
行ってもいいんだよ?」
「いや、明日からまた
忙しくなりそうだし
色々作り置きする!」
「じゃあ手伝う!」
「ありがとう」
「そういえばさ、
明日の会議の資料を
まとめるとか言って
なかった?」
「あっ!それも
やらなきゃ!」
「オレが作るから、碧は
会議の資料まとめて」
「せっかくロマンチックな
雰囲気だったのに…。
オムライスは作るね」
「これが良いんだよ。
日常に碧がいてくれる…
こんな幸せなことないよ。
ねぇ、手を出して」
碧が手を出すとタミオがその手を握り、碧もタミオの手をギュッと握り返した。
「これからもこの手を
離さずに、いつも碧が
笑っていられる様に
するから」
「うん」
新緑の季節、木々の隙間から陽射しが2人を照らしている。
心地よい風を感じながら、タミオと碧は、その手を離すことなく並木道を歩いて行った…。
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