Blue ride

Repos〜ルポ

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Story9 忘れられない偶然

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タミオのマンションから碧が帰った10分後…ユリが戻ってきた。

「お邪魔しまーす。
 お待たせ!ご飯食べに
 行こ。…どうしたの?」

「今、帰った、
 お手伝いさんとか
 言ってた人…。
 どこかで会った様な
 気がするんだ…」

「似てる人なんて
 たくさんいるのよ。
 気にする事ないわ!
 それより、ご飯行こ!
 お腹空いちゃった!」

タミオは、記憶をなくしてから頭の片隅に、大切な何かを忘れているのでは…と思っていた。

「本当に私の事…覚えてない?」

涙を浮かべて話していた碧の事が気になって仕方なかった。


そして、帰り道の碧は涙が止まらなかった。
久しぶりに会えたはずのタミオの言葉は、あまりにも残酷だった。ショックで、どうやって家まで帰ったのかも…わからなかった。

忘れたくても、忘れることはなかったタミオと、異国の地で3年ぶりに奇跡の再会を果たし、本当にこれが運命と思えたのに…。

「もう碧ちゃんを
 失いたくないんだ…」

その言葉を、どれだけ待っていたか…ツアーの終わる1ヶ月後を待つなんて、苦ではなかった。
それなのに…。
帰って来たタミオには碧の記憶が1ミリも残らず、よりによって今は隣にユリがいる…。
支えるどころか、離れることになるなんてつらすぎる。
明日から仕事に集中できるだろうか…さすがに自信がなかった。

次の日…。

やりきれない思いを心の奥底に沈めて、何とか切り替えて会社に向かった。

スタッフからの報告書に目を通すと、碧が契約を取り付けた新規海外事業の案件が軌道に乗り、業績を伸ばしていた。

会社が大きくなっていく中で、スタッフが誰一人、企業理念を忘れることなく確実に成長していることが嬉しかった。

私には同じ気持ちで目標を持ち、この仕事に向かう優秀なスタッフが揃っている。

仕事は私を裏切らない。そんな事を考えていると少し安心できた。すると、創業当初から一緒に仕事をしてくれているスタッフから声をかけられた。

「碧さん…碧さん」

「えっ…何?」

「大丈夫ですか?
 顔色悪いですよ?」

「ゴメンね、大丈夫!」

「ちゃんと食べてます?
 最近またスケジュールを
 詰め込み過ぎてしまって
 ホント、スミマセン。
 海外事業部も軌道に
 乗ってきた事だし…後は
 私達に任せて、しばらく
 リフレッシュして下さい。
 あっ!でも、睡眠と食事は
 ちゃんと摂って下さいね」

「わかった。ありがとう。
 確かに、最近ちょっと
 疲れてるのかもね…。
 それじゃあ、あとは
 よろしくね」

スタッフの言葉に甘えて、しばし休むことにした。本当は…仕事に集中できる気力は残っていなかった。だから助かった…。

ここまで自分が落ち込むと思わなかった。
仕事だけでなく、食欲もなかった。
それだけタミオの事が好きなのだと改めて感じた碧は、心配でたまらなかった。

数日後。
気分を変えるためにドライブに出かけた。ところが、車を走らせた先はバイカーの立ち寄るあのカフェだった。

もちろんタミオの姿はない。でも気づけば来ていた。長居はせず、いつも飲んでいるコーヒーを車のドリンクホルダーに置いて、また車を走らせた。

次に来たのは海だった。タミオと同じ日に2度の偶然を果たした、あの場所。

コーヒーの入っている紙コップを持ち、しばらく海を眺めながらコーヒーを飲んでいた。

あの日に戻りたい。碧は、まだ何も起こっていないあの日に戻りたいと思っていた。

すると、誰かが声をかけてきた。タミオだった。

「あのー、あなたは
 この間の…先日は
 失礼しました」

「いえ、こちらこそ…」

何と返事をして良いのかわからなかった。

「偶然…ですね。
 この場所お好き
 なんですか?」

「はい。この場所に来ると
 落ち着くんです…」

前にも同じ事を言われた気がする…。

「わかります。ここって
 人も少なくてユックリ
 海が見られる、穴場…
 ですよね」

「そう…ですね」

出会った頃と一緒だ。何だか時間が戻ったみたいだった。

「僕、昔…バイクに
 乗ってたんですよ。
 その時にバイカーの
 立ち寄るカフェに
 寄ってから、ここに
 来て、しばらく
 海を眺めてから
 帰るっていうのが
 好きなんです」

「私もです。この景色、
 落ち着きますよね…」

懐かしそうに語る、その思い出の中に私はいない。それがたまらなく切なくなり、その場にいられなくなった。

「それじゃあ、お先に…」

「お気を付けて…」

「タミオさんも…」

帰っていく碧の後ろ姿を見て、タミオは何故か懐かしさを感じていた。駐車場に戻った碧は見た事のある1台の車に目が止まった。運転席には…ユリがいた。

「やっぱりいた。車を見て、    
    もしかしたら、あなたが
 いるんじゃないかと
 思って待ってたの」

今更、何の話があるというのだろうか。次にユリの口から出てくる言葉が怖かった。

「何でしょうか…」

「彼に会ったでしょ?
 ドライブに誘って、
 ここまで連れて来たの。
 会えて良かったわ。
 彼の事だけど…やっぱり
 あなたにお任せするわ」

「えっ…どうして?」

今さら言われても…という気持ちと同時に、この間までの彼女とは明らかに違う表情に戸惑う碧だった。

最終話に続く…。
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