Blue ride

Repos〜ルポ

文字の大きさ
8 / 10

Story8 消えゆく想い出

しおりを挟む
タミオが帰国した。
松葉杖を使う彼の隣には、寄り添う様にユリがいた。

迎えに行かなかった碧はネットやTVのニュースでしか内容を知らない。タミオからは何も聞いていない。早く顔を見て話をしたかった。数日後、タミオのマネージャーが碧の会社を訪ねてきた。

「突然スミマセン。
 ご無沙汰しております」

「こちらこそ、ご無沙汰
 しております。実は私も
 事務所にお電話しようか
 ずっと迷ってました…」

「ニュース、ご覧になり
 ましたか。どこから
 話せば良いのか…
 お話したいことも
 色々ありまして」

ユリのことだろうか…心の準備をしておいてよかったと、覚悟して聞くことにした。

「実は一緒に帰国した
 ユリさんですが、元々
 別の仕事で海外にいた
 そうで、タミオとも偶然
 会ったみたいなんです」

「そうだったんですか」

「碧さんが帰国した後、
 ユリさんがライブに
 いらして…楽屋にも
 挨拶に来て、そこで
 タミオと再会しました。
 楽しそうに碧さんとの事を
 話していましたよ。私も
 それは聞いていました」

それなのになぜ…碧は不思議だった。すると次の言葉で絶句した。

「でも、例の事故でケガは
 大したことないんですが
 記憶が…」

えっ…?何…?聞き間違いかと思った。

「一時的なものだと
 向こうのドクターは
 話していたんですが 
 いつ戻るかはわからず
 抜けているのはここ
 最近2~3年の記憶で、
 碧さんとの事も…」

3年前…出会う前に戻ってしまったんだ。やり直し…というか、もうユリさんが…無理だと思った。

「ユリさんがいらっしゃる
 なら安心ですね」 

思ってもいないことを言っていることはわかっていた。

「いや、一時的な事ですから
 気にされなくても良いかと…」

「いえ、私にも仕事が
  ありますから…」

「せめて一度だけでも…
 タミオに会いに来て
 いただけませんか?
 タミオが碧さんを
 思い出すきっかけに
 なるかもしれませんから」

ぜひにと勧められて一度お見舞いに行くことにした。
後日、タミオのマンションのインターホンを押すと、出たのはユリだった。

「ビックリしたでしょ?
 どうぞ、入って」

何でユリに出迎えられるの?訳が分からないまま中に入っていくと、タミオの香りを感じながらなぜか部屋には碧とユリしかいなかった。

「彼はどこに…」

「今日は病院なの。
 どうぞ。そこにかけて」

「そう…ですか。あの…
 ユリさんはナゼ…まだ
 一緒に?」

「アナタお忙しそうだし
    それに…記憶のこと、
 聞いてますよね?
 思い出そうとすると
 体調崩すんです」

「これからは私が…」

「いえ、今はやめた方が
 良いと思うわ。無理に
 思い出すより、身体を
 治すことを第一に考え
 ないと。私も、今は
 時間があるから碧さんの
 代わりに付き添います」

ユリの考えはわかっていた。代わりに…だなんて、とても信用できるとは思えない。

「ユリさんは彼の事、
 タミオの事が今でも…
 好きですよね?」

本当は…まだタミオと呼べないのに、どうしてもユリの前では使いたかった。

「…好きよ。今なら彼も
 昔のままのタミオだわ」

「気安くタミオなんて
 呼ばないで!これからは
 私が彼を支えます。
 貴方は帰って!」

思わず考えるより感情が先に出てきた。このままだと積み上げてきたものが壊されてしまう…。

「良いけど、彼は必ず
 私の所に帰って来るわ、
 必ずね。それじゃあ…
 今日は帰るわ。タミオ
 さん…によろしく。
 フフッ…」

余裕の笑みに、より腹が立った。
ユリが帰って間もなく、タミオが帰宅した。

「ただいま。ユリ、
 腹減ったから外に
 食べに行く?えっ!」

碧を見たタミオは驚いた。

「タミオ…さん。おかえり」

「キミ…だれ?
 ユリの知り合い?」

「えっ…何言ってるの?」

やはり碧の事は全く覚えていなかった。この3年…何もなかったかの様なタミオの返事にショックで泣きそうなのを耐えていた。

「わかった!ユリが
 頼んだお手伝いさん
 でしょ?だから1人で
 大丈夫だって言ってる
 のに…」

「あの…私の事、本当に
 覚えてない?」

「えっ…?」

「碧です。ア・オ。バイクで
 一緒にツーリングとか…
 あの山からの景色、キレイ
 だったよね…」

タミオはポカンとしたまま、考え込んでしまった…。

「ご一緒しましたっけ?
    スミマセン…。
 ユリにはオレから
 話しておくんで、
 今日は帰ってもらって
 いいですか?あっ…
 ちゃんとお断りの連絡
 して料金も払うので」

もう私は記憶から消えているのだと涙が静かに頬を伝って流れていた。

「ごめんなさい。人違い、
    かな…今日の分のお代は
 結構です。何もして
 おりませんので。
 それでは失礼します」

その場を離れ玄関まで行くと、タミオはユリに電話をしていた。

「あっ…もしもしユリ?
 だからお手伝いさん
 なんて要らないって
 言ったろ?1人で
 平気だからさ…え?
 その人なら今、
 帰ってもらったよ…」

電話のユリに向かって話している言葉が、自分の事だとわかるだけに涙が止まらなかった。

玄関を出ると、ユリがいた。

「そっちへ向かってる。
 もうすぐ帰るから…
 待ってて。それじゃ」

碧がお辞儀をしてその場を離れようとすると、ユリが声をかけてきた。

「言ったでしょ?今の
 彼にはムリなのよ。
 私が、ちゃんと面倒
 見るから安心して」

碧は何も言わずに、その場を去った。

タミオとは、やっぱり縁がなかった…そう思うことにしよう。でも時間が必要だ、今はつらすぎる。止まらない涙を拭いながら涙と同じくらい溢れ出るタミオへの想いと、2人の過ごした時間を思い出し、碧は今…どうしたらよいかわからなくなっていた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

処理中です...