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Story8 消えゆく想い出
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タミオが帰国した。
松葉杖を使う彼の隣には、寄り添う様にユリがいた。
迎えに行かなかった碧はネットやTVのニュースでしか内容を知らない。タミオからは何も聞いていない。早く顔を見て話をしたかった。数日後、タミオのマネージャーが碧の会社を訪ねてきた。
「突然スミマセン。
ご無沙汰しております」
「こちらこそ、ご無沙汰
しております。実は私も
事務所にお電話しようか
ずっと迷ってました…」
「ニュース、ご覧になり
ましたか。どこから
話せば良いのか…
お話したいことも
色々ありまして」
ユリのことだろうか…心の準備をしておいてよかったと、覚悟して聞くことにした。
「実は一緒に帰国した
ユリさんですが、元々
別の仕事で海外にいた
そうで、タミオとも偶然
会ったみたいなんです」
「そうだったんですか」
「碧さんが帰国した後、
ユリさんがライブに
いらして…楽屋にも
挨拶に来て、そこで
タミオと再会しました。
楽しそうに碧さんとの事を
話していましたよ。私も
それは聞いていました」
それなのになぜ…碧は不思議だった。すると次の言葉で絶句した。
「でも、例の事故でケガは
大したことないんですが
記憶が…」
えっ…?何…?聞き間違いかと思った。
「一時的なものだと
向こうのドクターは
話していたんですが
いつ戻るかはわからず
抜けているのはここ
最近2~3年の記憶で、
碧さんとの事も…」
3年前…出会う前に戻ってしまったんだ。やり直し…というか、もうユリさんが…無理だと思った。
「ユリさんがいらっしゃる
なら安心ですね」
思ってもいないことを言っていることはわかっていた。
「いや、一時的な事ですから
気にされなくても良いかと…」
「いえ、私にも仕事が
ありますから…」
「せめて一度だけでも…
タミオに会いに来て
いただけませんか?
タミオが碧さんを
思い出すきっかけに
なるかもしれませんから」
ぜひにと勧められて一度お見舞いに行くことにした。
後日、タミオのマンションのインターホンを押すと、出たのはユリだった。
「ビックリしたでしょ?
どうぞ、入って」
何でユリに出迎えられるの?訳が分からないまま中に入っていくと、タミオの香りを感じながらなぜか部屋には碧とユリしかいなかった。
「彼はどこに…」
「今日は病院なの。
どうぞ。そこにかけて」
「そう…ですか。あの…
ユリさんはナゼ…まだ
一緒に?」
「アナタお忙しそうだし
それに…記憶のこと、
聞いてますよね?
思い出そうとすると
体調崩すんです」
「これからは私が…」
「いえ、今はやめた方が
良いと思うわ。無理に
思い出すより、身体を
治すことを第一に考え
ないと。私も、今は
時間があるから碧さんの
代わりに付き添います」
ユリの考えはわかっていた。代わりに…だなんて、とても信用できるとは思えない。
「ユリさんは彼の事、
タミオの事が今でも…
好きですよね?」
本当は…まだタミオと呼べないのに、どうしてもユリの前では使いたかった。
「…好きよ。今なら彼も
昔のままのタミオだわ」
「気安くタミオなんて
呼ばないで!これからは
私が彼を支えます。
貴方は帰って!」
思わず考えるより感情が先に出てきた。このままだと積み上げてきたものが壊されてしまう…。
「良いけど、彼は必ず
私の所に帰って来るわ、
必ずね。それじゃあ…
今日は帰るわ。タミオ
さん…によろしく。
フフッ…」
余裕の笑みに、より腹が立った。
ユリが帰って間もなく、タミオが帰宅した。
「ただいま。ユリ、
腹減ったから外に
食べに行く?えっ!」
碧を見たタミオは驚いた。
「タミオ…さん。おかえり」
「キミ…だれ?
ユリの知り合い?」
「えっ…何言ってるの?」
やはり碧の事は全く覚えていなかった。この3年…何もなかったかの様なタミオの返事にショックで泣きそうなのを耐えていた。
「わかった!ユリが
頼んだお手伝いさん
でしょ?だから1人で
大丈夫だって言ってる
のに…」
「あの…私の事、本当に
覚えてない?」
「えっ…?」
「碧です。ア・オ。バイクで
一緒にツーリングとか…
あの山からの景色、キレイ
だったよね…」
タミオはポカンとしたまま、考え込んでしまった…。
「ご一緒しましたっけ?
スミマセン…。
ユリにはオレから
話しておくんで、
今日は帰ってもらって
いいですか?あっ…
ちゃんとお断りの連絡
して料金も払うので」
もう私は記憶から消えているのだと涙が静かに頬を伝って流れていた。
「ごめんなさい。人違い、
かな…今日の分のお代は
結構です。何もして
おりませんので。
それでは失礼します」
その場を離れ玄関まで行くと、タミオはユリに電話をしていた。
「あっ…もしもしユリ?
だからお手伝いさん
なんて要らないって
言ったろ?1人で
平気だからさ…え?
その人なら今、
帰ってもらったよ…」
電話のユリに向かって話している言葉が、自分の事だとわかるだけに涙が止まらなかった。
玄関を出ると、ユリがいた。
「そっちへ向かってる。
もうすぐ帰るから…
待ってて。それじゃ」
碧がお辞儀をしてその場を離れようとすると、ユリが声をかけてきた。
「言ったでしょ?今の
彼にはムリなのよ。
私が、ちゃんと面倒
見るから安心して」
碧は何も言わずに、その場を去った。
タミオとは、やっぱり縁がなかった…そう思うことにしよう。でも時間が必要だ、今はつらすぎる。止まらない涙を拭いながら涙と同じくらい溢れ出るタミオへの想いと、2人の過ごした時間を思い出し、碧は今…どうしたらよいかわからなくなっていた。
松葉杖を使う彼の隣には、寄り添う様にユリがいた。
迎えに行かなかった碧はネットやTVのニュースでしか内容を知らない。タミオからは何も聞いていない。早く顔を見て話をしたかった。数日後、タミオのマネージャーが碧の会社を訪ねてきた。
「突然スミマセン。
ご無沙汰しております」
「こちらこそ、ご無沙汰
しております。実は私も
事務所にお電話しようか
ずっと迷ってました…」
「ニュース、ご覧になり
ましたか。どこから
話せば良いのか…
お話したいことも
色々ありまして」
ユリのことだろうか…心の準備をしておいてよかったと、覚悟して聞くことにした。
「実は一緒に帰国した
ユリさんですが、元々
別の仕事で海外にいた
そうで、タミオとも偶然
会ったみたいなんです」
「そうだったんですか」
「碧さんが帰国した後、
ユリさんがライブに
いらして…楽屋にも
挨拶に来て、そこで
タミオと再会しました。
楽しそうに碧さんとの事を
話していましたよ。私も
それは聞いていました」
それなのになぜ…碧は不思議だった。すると次の言葉で絶句した。
「でも、例の事故でケガは
大したことないんですが
記憶が…」
えっ…?何…?聞き間違いかと思った。
「一時的なものだと
向こうのドクターは
話していたんですが
いつ戻るかはわからず
抜けているのはここ
最近2~3年の記憶で、
碧さんとの事も…」
3年前…出会う前に戻ってしまったんだ。やり直し…というか、もうユリさんが…無理だと思った。
「ユリさんがいらっしゃる
なら安心ですね」
思ってもいないことを言っていることはわかっていた。
「いや、一時的な事ですから
気にされなくても良いかと…」
「いえ、私にも仕事が
ありますから…」
「せめて一度だけでも…
タミオに会いに来て
いただけませんか?
タミオが碧さんを
思い出すきっかけに
なるかもしれませんから」
ぜひにと勧められて一度お見舞いに行くことにした。
後日、タミオのマンションのインターホンを押すと、出たのはユリだった。
「ビックリしたでしょ?
どうぞ、入って」
何でユリに出迎えられるの?訳が分からないまま中に入っていくと、タミオの香りを感じながらなぜか部屋には碧とユリしかいなかった。
「彼はどこに…」
「今日は病院なの。
どうぞ。そこにかけて」
「そう…ですか。あの…
ユリさんはナゼ…まだ
一緒に?」
「アナタお忙しそうだし
それに…記憶のこと、
聞いてますよね?
思い出そうとすると
体調崩すんです」
「これからは私が…」
「いえ、今はやめた方が
良いと思うわ。無理に
思い出すより、身体を
治すことを第一に考え
ないと。私も、今は
時間があるから碧さんの
代わりに付き添います」
ユリの考えはわかっていた。代わりに…だなんて、とても信用できるとは思えない。
「ユリさんは彼の事、
タミオの事が今でも…
好きですよね?」
本当は…まだタミオと呼べないのに、どうしてもユリの前では使いたかった。
「…好きよ。今なら彼も
昔のままのタミオだわ」
「気安くタミオなんて
呼ばないで!これからは
私が彼を支えます。
貴方は帰って!」
思わず考えるより感情が先に出てきた。このままだと積み上げてきたものが壊されてしまう…。
「良いけど、彼は必ず
私の所に帰って来るわ、
必ずね。それじゃあ…
今日は帰るわ。タミオ
さん…によろしく。
フフッ…」
余裕の笑みに、より腹が立った。
ユリが帰って間もなく、タミオが帰宅した。
「ただいま。ユリ、
腹減ったから外に
食べに行く?えっ!」
碧を見たタミオは驚いた。
「タミオ…さん。おかえり」
「キミ…だれ?
ユリの知り合い?」
「えっ…何言ってるの?」
やはり碧の事は全く覚えていなかった。この3年…何もなかったかの様なタミオの返事にショックで泣きそうなのを耐えていた。
「わかった!ユリが
頼んだお手伝いさん
でしょ?だから1人で
大丈夫だって言ってる
のに…」
「あの…私の事、本当に
覚えてない?」
「えっ…?」
「碧です。ア・オ。バイクで
一緒にツーリングとか…
あの山からの景色、キレイ
だったよね…」
タミオはポカンとしたまま、考え込んでしまった…。
「ご一緒しましたっけ?
スミマセン…。
ユリにはオレから
話しておくんで、
今日は帰ってもらって
いいですか?あっ…
ちゃんとお断りの連絡
して料金も払うので」
もう私は記憶から消えているのだと涙が静かに頬を伝って流れていた。
「ごめんなさい。人違い、
かな…今日の分のお代は
結構です。何もして
おりませんので。
それでは失礼します」
その場を離れ玄関まで行くと、タミオはユリに電話をしていた。
「あっ…もしもしユリ?
だからお手伝いさん
なんて要らないって
言ったろ?1人で
平気だからさ…え?
その人なら今、
帰ってもらったよ…」
電話のユリに向かって話している言葉が、自分の事だとわかるだけに涙が止まらなかった。
玄関を出ると、ユリがいた。
「そっちへ向かってる。
もうすぐ帰るから…
待ってて。それじゃ」
碧がお辞儀をしてその場を離れようとすると、ユリが声をかけてきた。
「言ったでしょ?今の
彼にはムリなのよ。
私が、ちゃんと面倒
見るから安心して」
碧は何も言わずに、その場を去った。
タミオとは、やっぱり縁がなかった…そう思うことにしよう。でも時間が必要だ、今はつらすぎる。止まらない涙を拭いながら涙と同じくらい溢れ出るタミオへの想いと、2人の過ごした時間を思い出し、碧は今…どうしたらよいかわからなくなっていた。
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