Blue ride

Repos〜ルポ

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Story1 奇跡?運命?

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新緑の季節、木々の隙間から陽射しがこぼれている。
心地よい風を感じながら、碧(アオ)はバイクを走らせた。

20代から乗っている相棒。
仕事や喧騒から離れ、リフレッシュしたい時には欠かせない相棒だ。 風を切ってコントロールしながら、風とバイクと自分が一体になる時…全てを味方につけていると確信する。

かつては、この鉄の馬が馬車に変わり王子様が迎えに来てくれるんじゃないか…なんて乙女な事を考えた時もある。しかし夢は夢。迎えに来る事もない。男勝りな碧に相手が甘えてくる事はあっても碧が甘えたことはなかった。

そんな碧は現在、会社を経営している。

20代の頃…今の仕事に無限の可能性を感じ、勤めていた会社では型にハマった事しかしないと早々に見切りをつけ、30歳になる頃には独立して自分の会社を立ち上げた。すると碧の考えに共感したスタッフが1人…また1人と増え、今は支店が出来るほどになっている。

家にいても仕事のアイデアが浮かぶので頭から離れることはない。そんな仕事人間の碧をスタッフは定期的に『今日こそ休んでください』とストップをかけてくれる。その時だけは、頼もしいスタッフに感謝して任せることにしている。

…とは言えのんびりする質ではない。そんなときはバイクを走らせる。家から離れ喧騒から離れれば、仕事に気持ちが向くこともない。

しばらく走るとバイカーが立ち寄るカフェがある。
駐車場も広く眺めも良い。

バイクを停めてヘルメットを脱いだ…その瞬間。空気を吸い込む前に、ため息をついた。
すると隣でエンジンを温めていた男性が驚いて碧を見た。目が合うと男性は思わず声をかけてきた。

「大丈夫??」

「あ…ハイ、大丈夫です」

見た目は同年代…といったところだろうか。碧が見上げる背の高さの男性は吸い込まれるようなキレイな瞳をしていた。

「天気も良いから、たまには
   コイツも動かしてやろうかな…
   と思ってさ」

「いいですね。私もです」

「さて。俺はそろそろ行くかな…
    お互いに今日は楽しもう!
 それじゃ、お先に」

左手をさりげなく上げて男性は去っていった。平静を装っていた碧だが、走り去るバイクを目で追いながら心の中ではドキドキしていた。

しばらくカフェで休んでから再び走り出し、目的地の海に到着すると先ほど話をした男性がいた。

「あっ!さっきの…」

「先ほどはどうも。キミも
    ここが好きなの?」

「ハイ、静かでいいなと思って。
   1人でココにいると穏やかな
    時間が流れるので、落ち着く
 んですよ」

「あーわかる。落ち着くよね。
    オレもよく来るんだよ。
    あっ…ひとり時間を邪魔して
    ゴメン」

「いえ…そんな事ないです。
    休日楽しんで下さいね」

「ありがとう。キミもね」

碧はその場を離れると、いつも行くお気に入りポイントへ向かった誰もいないその場所では全てを忘れて何も考えず過ごす事にしている。海を眺めて気分もスッキリしたところで、バイクを停めていた場所に戻ると…さりげなく2つに折ったメモが挟まっていた。開いて読んでみると先ほど会った男性からだった。

 " 思いがけない2度の偶然に
   感謝。3度目があったらまた…。
   タミオ ”

『タミオさん、って言うんだ…』

書いてある文字を優しく撫でると、いつかの偶然にほんの少し期待して家に帰ることにした。

その日の夜…。

碧は、いつもの様にラジオを付けた。お気に入りの番組を聴きながらの入浴タイム。これが碧のルーティンである。心地よいテンポで流れる音楽も話し方も碧は好きだった。

「それでは本日のゲストを
    ご紹介したいと思います。
    まだ、デビュー前にも
 かかわらず、その歌声が
    SNSで拡散され、人気
    急上昇中の、この方です」

「皆さんこんばんは。
 タミオです。本日は、
 よろしくお願いします」

『えっ?!』

まさかさっきの…。碧は半信半疑でラジオを聞いていた。

「タミオさんはデビュー前から、
    いくつかのレコード会社からも、
 お声がかかっているのだとか…」

「ハイ。応援してくれるファンの
   皆さんのお陰で、ここまで
   来れたので、本当に感謝です。
   事務所とも相談しながら、
   決めていくつもりです」

「デビューが楽しみですね。
   そんな人気のタミオさんに
   質問が、多数届いています。
   早速ご紹介していきましょう!    
 『タミオさんは、オフの時
   どんな風に過ごされますか?』
…という質問ですが、タミオさん
    いかがでしょう?」

「そうですね…実はバイクが好きで
 長年付き合っている相棒みたいな
    ものなんですけど、結構色々な
    場所へ行くんですよ…今日も
    朝早く走らせてきました」

「そうなんですか。どんな所に
   行くのがお好きなんですか?」

「海が多いですね。何も考えず
    景色を眺めている時が、一番
    穏やかな気持ちで過ごせるから
    好きなんですよね。そういえば
    今日…初めて会った方に2度も
    会う偶然があって…」
 
『やっぱりあの時の人』

今日の事を思い出しながら、あの時の男性なのだと
確信した。

「カフェに行った後…海へ行ったら
    またお会いしたんですけど、
 その方も海を見ると落ち着くから
    好きだと話されていました。
 自分だけじゃないと思ったら、
    ちょっと嬉しかったんですよね」

「2度の偶然なんてあるんですね。
 もしかしたら3度目の偶然…と
    いうのもあるかもしれませんね」

「あったら奇跡ですね。帰りに
    懐かしい歌を聴いたんですけど 
 このくらいサラッと言えたら
    いいかもな…と思いながら
    帰って来ました」

「その方も、このラジオを聴いて
 くださってるといいですね」

「そう…ですね。でも本当に
    聴いてたら、今の話は、
    恥ずかしいですけどね」

話しながら照れ笑いをしているタミオの声を聴いた碧も少し照れながら…ちょっと嬉しいと思っていた。

「そういえば!そろそろライブが
   あるそうですね」

「はい。今は日々忙しいですね。
    でも皆さんと会えるので楽しみに
 しています」

「今日初めて知ったという方も、
    是非一度タミオさんの音楽を
    聴いてみて下さいね。それでは
 そろそろエンディングです。
    タミオさんも聴いた、こちらの
    曲を聴きながら、お別れしたいと
    思います。タミオさん、ライブ
 頑張ってくださいね。今日は、
   ありがとうございました」

「ありがとうございました」

"また会えるかな…♪
 また会えるかな…♪“
エンディング曲の歌詞を聴きながら今日のタミオとの事を思い出していた。2人だけにしかわからないエピソードにもドキドキしながら…碧は少し嬉しくなっていた。いつもより長くお風呂に入っているということも忘れて、その歌を聴いていた。
         
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