【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎

文字の大きさ
28 / 39

夢を見るし、紅茶も飲む

しおりを挟む

 エマの夢は、ルソーネ領の田舎町での出来事、あの日をきっかけに明確に決まっていた。

『魔力がなくても使える魔法』を作ることがエマの夢である。
 厳密にいうと、『魔力がなくても使える魔道具』作りなのだが、エマとしては『道具』というより『魔法』そのものを保存する術を見つけ出したいのだ。

 魔力と等価交換で生み出される魔法の発動時間は瞬間的なもので、永続させる場合はまた相応の魔力が必要となる。
 魔法には魔力が必要不可欠。そのため持たざる者は扱えないもの、とされているのだが──エマは相応の器と素材があれば変わるのではないかと考えていた。

 魔石や魔草などのように生物以外にも魔力を持つ存在はある。
 そんな無機物に、魔法自体を保存する。
 そうすれば、魔力を持たない人にも魔法を届けられるのではないか。

(今思えば、あの超高難易度ミニゲームって、奇跡だったんだよね……)

 エマの夢のルーツとなった『小瓶の中の魔法イベント』だが、あの成功率が0.03%──実質無理ゲーという事実は製作側にしか知られていないことである。
 それはさておき。

 前世風にいえば、現存する魔道具は電池の抜かれたおもちゃである。
 当然動力が無ければウンともスンとも言わない。
 そして肝心の電池に相当するものは、この世界には出回っていない。
 あったとしても、以前飾られているのを見掛けた高額な魔石くらいで、簡単に手を出せる代物ではなく、大方国が回収してしまうような、とっておきである。
 同時にそれらは、一般的には必要のないものでもある。

 魔力保有者は、自身が自家発電する動力となれる。
 己が電池なのであれば、わざわざ他に求める必要もない。
 そして皆が一様に思うのは、魔法という神秘は、選ばれた者にだけ許された特権であるということ。
 平民の魔力持ちが嫌われるのは、貴族たちにその考えが強く根付いているからである。

 同種でさえ別物に扱う人間を、エマは時々恐ろしく思う。
 そして、腹の底から咽せ返ってくる心当たりのない憎悪を、奥へ奥へとしまいこんでいる。

「魔法がもっと、みんなの身近なものになればいいなって思う」

 また、にょき、と生まれた謎の感情を誤魔化すように笑って、エマは言った。
「なんか語ってしまってお恥ずかしい」と照れながら頬を掻く。

「不可能だって、笑われても仕方ない内容だしね……」

 そんなエマの言葉に、リュカは「笑いませんよ」と直ぐに返答した。

「──なんつーか……俺は教養がないんで、上手いこと言えないですけど……立派だと思いましたよ。ていうかちょっと驚きです。思ってた以上にちゃんとした研究者ですね」
「リュカは私のことなんだと思ってたの……」
「んー…本食い虫?」

 ブスッと不機嫌な視線を向ければ、リュカはへらりと笑った。

「真面目に答えると、最初はよくいる偉そうな貴族令嬢で、今は──」

 トントン、とリュカが自身の左胸の辺りを指差した。
 エマは意味が理解できず小首を傾げる。

「ユーリとアンタは、俺のここら辺ですかね」

 大胸筋? と素っ頓狂なことを考えているエマに、リュカは生温い視線を向ける。

「まぁ、アンタは出会った時から俺の目、真っ直ぐ見てくるんで、色んな意味で印象的でしたよ」
「──出会った時から?」
「はい」

 出会った時、ということは、前世の記憶が戻る前の険悪な関係の時だ。
 嫌な意味で印象深かったんだろうとわかっている。わかっているが──何故かどうしようもなく胸が苦しくなった。

 エマにとって自分とは、いつも朧げなものだった。
 人間でもなく、魔女にもなりきれない、この世界のものなのか、そうでないのか。生きていていいのか、駄目なのか。
 悪でありたくないが、皆の思う善を振舞えるのかも自信がなく、自分の根っこには不安ばかりが巣くっている。

 そんな自分が、どんな感情であれ誰かの中で思われていることが、どうしようもなく嬉しい。
 生きている心地がする。
 自分では証明できない自分自身の存在を、確立させてもらえるような気さえするのだ。

「──エマ?」

 名前を呼ばれて、伏せていた顔を上げた。
 リュカに名前を呼ばれるのは珍しい。
 動揺が表に出てしまっただろうかと、エマは誤魔化し笑いを浮かべた。

「ごめん、大胸筋が痛くて……」
「筋肉とは無縁のアンタが何言ってんですか」

 呆れた息を吐くリュカ。
 エマはいつもと変わらぬ調子で冷めた紅茶を飲み干した。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

処理中です...