【完結】脇役令嬢だって死にたくない

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22.交わらない


 誰にやられた、そう訊きながらグレンはおおよその検討を付けている風だった。

「ち、違うの、これはただのわたしの不注意で「また嘘か」

 決めつける言い草に、これまで戸惑いばかりだったミアも怒りを覚えた。
 睨むように見上げ、鋭い視線同士が交わる。

「君は心配さえさせてくれないのか」

「心配? 少なくともわたし、今そんな扱いを受けてるようにはこれっぽっちも感じられないわ」

「強がりはもういい、偶には素直になったらどうなんだ」

「強がってなんていないし、生意気で嫌だと言うなら放っておいて。貴方には確かに、淑やかで従順な子が合うんでしょうね」

「君こそ、ベルマン講師の前でならしおらしくするのか。彼相手には弱音を吐けるのか。こんなことをされても──好きなのか」

 グレンは苦し気に表情を歪めてミアの首元を見下ろした。
 その表情に少し瞠目し、

「…………グレン、何か勘違いしているわ。わたしは魔法史は好きだけど、先生に特別な感情なんて抱いてない。この首の痣だって、大したことじゃないの。もう全部解決したから、貴方が気にすることじゃないわ」

 はっきりとそう伝えても、グレンの瞳から疑いの色が消えない。
 流石のミアも、痺れを切らして溜め息を吐いた。

「嘘だと思うならそれでもいいわ。嘘だろうと真実だろうと、どっちにしたって貴方には関係のないことだもの」

 心配している、そう言ってくれている相手に対して、言うべき言葉ではないと頭ではわかっているのに。
 他でもないグレンにこんな風に疑われ攻め立てられることが、ミアは中々に堪えていた。
 だからこそ、冷静さを欠いていた。

「どうしてそう突き放すんだ」

 ヒュっと息を呑んだ。
 ミアが口をついて出た言葉を後悔するよりも先に、噛みつくように唇が重ねられた。

「……ッ、グレ…ぁ、なに……んぅ」

 存外熱い舌がミアの口内を荒らし、教室には不釣り合いな水音が響いた。
 息つく暇もなく深く重ねられ、上顎を舌で撫でられるとゾクゾクと背筋を這うような感覚が頭の先まで昇りつめ、ミアの思考力を奪っていく。

 生まれて初めての感覚だ。思い出せないが、前世でだってこんなの知らないままだったと思う。
 その想像を裏付けるような不慣れさに、グレンの攻め手が止むことはない。
 初めは微かな抵抗を示した身体も、くったりと力を無くしていく。
 まるで溶かされるような──

「…はぁ……ッ、ぅ」

 途中漏れた息が自分のものでないような熱を持っていたことに、ミアはぼんやりとしていた意識を一気に引っ張り戻された。

 魔力を込めた渾身の力で自分に覆いかぶさる男の肩を押し返し、体と体が離れた隙間に足を持ち上げて、グレンの顎目掛けて蹴り上げる。

 それを後ろへ引いて避けたグレンを、ミアはくるりと後転して態勢を立て直して睨む──が、視界が滲んで彼の表情も見えなかった。

 ボロボロと涙が溢れて止まらない。
 拭っても拭っても大粒で流れ出し、呼吸が整っていない上に泣きしゃっくりまで引き起こしてしまっていて、もう塞がれているわけでもないのに息が苦しい。
 顔を覆って声を上げて子どものように泣き喚いてしまいたかった。

 逃げ出すように扉へと走った。
 自分を呼び止めるグレンを振り返り、

「もう絶交だからっ!!!」

 そう半狂乱気味に叫んで、部屋を出た。
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