優しい君に恋をする~この関係、気にしないではいられない、だけど、それでも

芙月みひろ

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6.彼の誕生日

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 俊一と約束し直して会うことになったその日、私は念入りに身支度を整えて家を出た。いつもより少し大きめのバッグを持っているのは、そこに彼へのプレゼントが入っているためだ。
 ケーキは途中で買って行こうと考えていた。本当はホールケーキの方が誕生日のお祝いらしくていいのだけれど、彼は一人暮らし。食べきれずに持て余すことになるだろうから、何種類かのカットケーキなどを見繕う予定だ。
 駅に着き、電車に乗る。俊一が暮らすアパートの最寄り駅で降り、近くのスーパーでちょっとした食材を買う。さらに途中でケーキも買って、彼のアパートに向かった。両手の荷物を持ち直して、彼の部屋のインターホンを鳴らす。しばらくして、俊一が顔を出した。

「この前は悪かったな。……怒ってるよな」

 申し訳なさそうに顔を歪ませて詫びる俊一に、私は首を横に振った。

「怒ってないよ」

 私の言葉に俊一の表情が和らぐ。

「とりあえず入れよ」

 俊一は私を玄関に招き入れて、ドアを閉めながら訊ねる。

「飯、一緒に食べるだろ?適当に買って来ておいた」
「ありがとう。俊一君の誕生日のお祝いに何か作ろうかと思って、私もちょっとだけ買い物してきたの。あとはケーキも」

 俊一は私の両手に目を落とした。
 
「大荷物だな。重かっただろ」
「こう見えて、私って結構力あるから。とりあえず、キッチン使うね」
「あぁ」

 私は荷物を持ったまま俊一の後に続き、キッチンに向かう。シンク脇のスペースに買い物袋とケーキの箱を置いた後、リビングのソファ脇にバッグを下ろす。再びキッチンスペースに戻りかけた時、背後から俊一に抱き締められた。

「俊一君、どうしたの?」
「なぁ、先にまど香を食べちゃダメ?」

 彼は耳元で吐息交じりに囁く。

「ま、待って。その前に」
「なんだよ。焦らすのか?」
「そ、そうじゃなくて」

 私は彼の腕に手を掛けた。

「先に渡したい物があるの。あのね、プレゼントを買ったの。俊一君がほしがってた物なんだけど」
「俺がほしがってた物?」

 俊一は腕を解き、首を傾げて私を見る。
 私はソファ脇に置いたバッグを開けて、そこから綺麗にラッピングした箱を取り出した。
 彼はソファに座って、私の手元を興味津々に見ている。
 私は微笑みながら、その箱を彼の前に差し出した。

「はい。これ。お誕生日おめでとう」
「えっ、何、これ?」

 俊一は私の手から箱を受け取り、目を見開いた。

「なんだ、重いな。開けていい?」
「うん。どうぞ」

 俊一は箱を膝の上に置き、ラッピングを丁寧に剥がし始めた。そこに現れた箱を見て驚いた声を上げる。それはノートパソコンにもなるタブレットだった。

「え、うそだろ。これ、マジで買ってくれたの?」
「うん。このタブレット、ずっと欲しがってたでしょ?奮発しちゃった」

 いつだったか、一緒に見ていたSNSの間に出てきた広告に目を止めて、俊一がつぶやいたのだ。

 大学の授業を受ける時なんかに、一台あれば便利だよな――。

 それ以降も何かとこのタブレットのことを話題にしていたから、余程ほしいのだろうと思っていたのだ。
 俊一は心配そうな顔で私を見ている。

「これ、無理したんじゃないのか?」
「そんなことないよ」
「ほんとか?」
「うん、ほんとよ。それよりも、俊一君が喜んでくれて良かった」

 これを手に入れたくてアルバイトを増やそうとしていたわけだったが、これも家庭教師の話を引き受けたおかげだ。

「まど香、ここに来て」
「うん」

 私は素直に立ち上がり、俊一の隣に座った。彼の腕が腰に回る。

「ありがとな。すっごく嬉しい」

 腰に回された腕に力がこもり、俊一の顔が近づいてきた。
 私はそっと目を閉じた。
 柔らかく熱い彼のキスは、何日か前に頭をよぎった不安や疑いを、私の中からあっという間に溶かしていった。
 こんなにも優しく私に触れる俊一のことを少しでも疑ってしまったことに、罪悪感を覚えた。やはりあれは私の思い過ごしだったと反省しながら、彼の背中に腕を回す。
 その時、テーブルの上に置かれていた彼の携帯が鳴り出した。
 彼は渋々キスをやめて、苦笑した。

「いったい誰だよ、邪魔するやつは」
「出ていいよ。私、ご飯の用意するね」
「あぁ、悪い」

 俊一は伏せていた携帯を手に取った。その面を返した途端に、はっとした顔つきになった。
 その表情が目に入り、私は彼に訊ねる。

「どうかした?」
「あ、いや、なんでもない。ちょっと向こうで話してくるな」
「うん」

 俊一は勢いよく立ち上がり、廊下との境のドアを閉めて玄関の方へ向かった。その向こうからぼそぼそとした話し声が聞こえるが、内容はよく分からない。私の前で電話に出なかったことを怪訝に思ったが、集中して話したいような内容なのだろうと、それ以上は深く気にしないことにした。
 買ってきた食材と冷蔵庫の中身を使って料理に手を付け始めて間もなく、俊一が戻って来た。

「電話、大丈夫だった?」
「あぁ。ひとまず解決した」
「そう。良かった」

 私はにっこり笑い、彼に訊ねた。

「ねぇ、お皿、出してくれる?」
「あぁ、分かった」

 俊一がテーブルの上を片づけ、食器を用意している間に、オムライスとサラダができた。それらを盛りつけてテーブルの上に並べ、隣り合って食事をした。最後にケーキを食べて、彼の誕生日を祝う。
 後片付けを終えた私は、時計を見てはっとした。もう十時近い。今は両親もいないし、特に門限もないけれど、弟の手前帰宅があまり遅くなるのはまずい。

「そろそろ帰るね」
「え、もう?」
「あんまり遅くなると弟が心配するから」
「遅くなるって連絡入れておいたら?」
「うん。だけどもう、家に着くと、結構遅い時間になるから」
「ちぇっ、なんだよ。デザートにまど香を頂こうと思ってたのに」

 私はくすっと笑って、床に座る俊一の元へ行き、膝をついてその唇にキスをした。

「また今度ね」

 言って立ち上がりかけたところを、俊一の手につかまる。

「なぁ。もう少しくらい、いいだろ?」 

 俊一は私に答える隙を与えることなく、深く口づける。
 そのまま床の上に押し倒された私は、あっという間に抵抗できなくなる。服の下から入って来た彼の手が肌を探り始めたが、キスで唇を塞がれているために、やめてと言えない。彼の指が下着の中に潜り込んできて、敏感な部分に触れた。気持ちいいと感じる一方で、まずいと思った。このままでは「少し」どころか最後までいってしまう。
 身じろぎして俊一の動きから逃げようとした時、玄関のインターホンが鳴った。
 俊一は動きを止め、不満げな顔つきでむくりと体を起こした。

「ったく、こんな時間に誰だよ。ちょっと待ってて。見て来るわ」
「う、うん」

 俊一は立ち上がり、廊下に続く扉を閉めて玄関に向かった。
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