道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
19 / 114

19、不吉な空間

しおりを挟む




「それでは、新たに監督生となった皆を歓迎する」

 帰りてーぇぇえ。

 アルベルトの挨拶に皆がわーっと拍手する中で、私は一人だけ死んだ目をしていた。
 監督室に集められた九人の監督生。三年生の三人は嫌というほど知っている。

「俺は三年Aクラスのアルベルト・トキオートだ。よろしく」

 言わずとしれたアルベルト野郎。

「俺はBクラスのヒョードル・ホーカイドだ」

 見慣れた美形のお兄様。

「ジェンスロッド・サイタマー。レイシールの婚約者だ!」

 余計なことを言うなセクハラ野郎。

 続いて二年生が自己紹介を始める。

「俺はガウェイン・オッサカー。よろしくな」
「僕はナディアス・ナワーキオです」

 出たよ。
 関わりたくなかったなぁ。大阪と沖縄。

「ヒューイ・ギフケン。Aクラスだ」

「そのままだな」

 思わず呟いてしまった。

「レイシール嬢、なにかな?」
「あー、いえいえ。何でもないです」

 ギフだけだと語感が悪いとスタッフは思ったんだろうか。県付きだ。そういうこともあるのか。
 考えてみればトキオートも都がついてるといえるしな。

「では、一年生の皆。自己紹介をしてくれ」

「ルイス・ミヤッギ」
「ティアナ・カーナガワと申します。光栄ですわ」

 クソ義弟になりそこねたルイスが愛想のない名乗りをし、赤毛のツンとした美少女がふわりと挨拶する。

「レイシール・ホーカイドっす……です」

 やる気がなさすぎるのがあからさまに態度に現れそうになって、私は背筋をただした。
 攻略対象四人と元凍死要員二人が集まった不吉な空間ではあるが、選ばれた以上はちゃんと監督生の仕事をしなければ。

「まずは来月に行う朗読会の準備だ。これは一年生三人にメインで企画してもらいたい」

 うわあ、早速いやだ。
 もちろん、ゲームでも朗読会はあった。ニチカが攻略対象ときゃっきゃうふふしながら準備をして仲を深めるんだよね。アルベルトの言葉通り、一年生が主導で企画するということでルイスと何度も話し合って仲を深めていくのよ。
 突っ込みポイント1。「ルイスとばっか話し合ってるけど、ティアナとは協力しなくていいのかよ」

 そんで、各学年から二人、朗読者を選ぶんだけど、一人は公爵令嬢という地位を使ってしゃしゃり出てきたレイシール・ホーカイドになる。しかもオオトリ。
 もう一人は、中庭でひっそり本を読んでいた大人しい女生徒Aをみつけたニチカが強引に朗読者に選ぶ。女生徒Aは「自分には無理」と断るんだけど、ニチカは「勇気を出して!」とか励まして半ば無理矢理決定しちゃうんだよね。
 突っ込みポイント2。「本を読むのが好きだからといって、人前で朗読したいとは限らない」

 しかも、女生徒Aが読もうとしていた詩が地味だからと、ニチカが偶然図書室でみつけた素敵な詩を読むようにごり押しする。
 突っ込みポイント3。「好きな詩を読ませてやれよ」

 ニチカがごり押ししているのを見かけたレイシールが「女生徒Aが読もうとしている詩は皆が慣れ親しんでいるものだから朗読会にふさわしい。彼女が英雄に捧げる乙女の詩を読むのなら、自分がその返詩である英雄の詩を読む」と申し出るのよ。
 突っ込みポイント4。「悪役令嬢の方が親切に見えるし筋が通っている」

 そこへ湧いて出た攻略対象達がなぜかニチカの選んだ詩を絶賛して「古くさい詩など皆飽きているだろう」とレイシールと女生徒Aの好きな英雄サーガを全否定する。
 突っ込みポイント5。「おまえらなんなんだよ」

 で、朗読会当日、全校生徒の前で、緊張して声が出なくなってしまう女生徒A。みかねたニチカが壇上にあがり、素敵な詩を暗唱する。会場は拍手喝采。
 突っ込みポイント6。「お前がごり押しして出したくせに、フォローするならともかく出番を横取りすんの!?」

 ニチカの詩に感動した生徒達は次のレイシールの朗読を聞いても白けるだけ。
 婚約者のアルベルトに至っては朗読が終わる前にニチカの肩を抱いてさっさと帰ってしまう。
 突っ込みポイント7。「アルベルトがクズすぎる。つーかお前ら後片づけとかしないの?」

 以上、ざっと述べただけでもこれだけの突っ込みどころのあるイベントである。細かいところを上げればさらに突っ込みどころがあるだろう。

 思わず頭を抱えたくなった。
 あー、ニチカが何をしようと興味ないし、攻略対象どももどうでもいいけど、かわいそうな女生徒Aだけは守ってあげたいな。

 よし。ニチカの魔の手から女生徒Aを守る。それを目標にしよう。

「がんばりましょうね!カーナガワ様……と、ミヤッギ様」

 目標が定まった私はティアナに向かってにっこり微笑んだ。




しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜

As-me.com
恋愛
 事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。  金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。 「きっと、辛い生活が待っているわ」  これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。 義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」 義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」 義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」  なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。 「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」  実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!  ────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

処理中です...