タンブルウィード

まさみ

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Miracle perfume

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テレビじゃハンサムな社長さんが喋ってる。名前は確かフェニ……フェラ……フニクラ・I・フェイトだったかしら。
『ということは、PPの新薬に副作用はないと?』
『我が社の商品は安全です。念入りに治験を繰り返しましたからね』
『断言できますかね』
ニュースキャスターの鋭い突っ込みに社長さんは気取って脚を組む。
『挑発なさってるんですか?私から失言を引き出そうとしてるようですがその手は食いませんよ、現に我が社の株価は上昇の一途、経営体制は極めてクリーンで順調。現にPPは市場に広く浸透している、今やミュータントの生命線です』
「ほんと色男よねえ。竿役で一本撮らせてくんないかしら」
「クックドゥルー!」
元気な声に振り向けば、白くてふわふわの同居人がケージの中で羽ばたいて餌を催促する。
「わかってるわよンもお、食いしん坊さんね。また一段と肥えたんじゃない?」
ケージの扉を開けて世界で一番綺麗な牝鶏、シュガー・ルゥを抱っこする。
シュガー・ルゥはとってもおりこうさん、アタシの言葉がわかるみたい。今も翼を振り立て、円らな目を吊り上げて抗議する。
「クック」
「気に障った?反省。乙女に体重の話はタブーよね、アナタはお腹のたまごの分も加算されるんだからフェアじゃないし」
「クー」
わかればよろしいとふんぞり返る。態度がデカいのは誰に似たのかしら。まさかアタシ?嘘、もっと謙虚よ。きっと元の主人の片割れに似たのね。
シュガー・ルゥは真っ白でふわふわでお砂糖のかたまりみたい、もとはダサい名前だったわ。キャサリンなんてノンノンナンセンス、石を投げれば当たる名前じゃない。百歩譲って本名は譲るけど、芸名付けたって悪くないでしょ。
髪にカーラ―を巻き付け、バスローブの胸にシュガー・ルゥを抱っこして生あくび。壁のカレンダーを一瞥。
「今日は集金日ね。301号室のコンラッドさん、飲みに出てないといいけど……踏み倒されたらたまったもんじゃない、用心棒呼んどこうかしら」
シュガー・ルゥをやさしくなでなでぼやく。
家賃の滞納分は身体で払ってもらうことにしている。
けどね、アタシにも好みがある。
「ぶよぶよに酒太りした中年オヤジなんてさすがにお呼びじゃないわ。まあそういうのが好きなマニアの存在は否定しないけど、節制を欠いた肉体ボディを撮るのは美学に反するの。せめてもうすこし脂肪を落としてくれなきゃ肝心のアレが三段腹に埋もれて見えないじゃない」
誰彼構わず店子をスカウトしてるって思われるのは心外、ビデオのモデルはじっくり選んでるの。ポルノで収益が見込めない子はショップの店番や工事現場に回して実入りをガッチリゲットする、それがマダムリーの集金術よ。
そんなわけで今日もアタシは大忙し。
ドレッサーの櫛をとってシュガー・ルゥをブラッシング、ルームシェアする女友達に見立て語りかける。
「家賃は払うのが礼儀。アナタもそうおもうでしょ」
「クック」
「返せないなら脱いでもらうわ。幸い店子シリーズは売れ行き好調、根強いファンに支えられてるの。企画が大当たりでカメラマンも喜んでるわ、いい子を斡旋してるんだからもうちょいマージン上げてもらわないと。アナタの元ご主人様、うぶな顔した小鳩ちゃん。どうにかゲットできないかしら」
「ク?」
「ツバメちゃんとセットでゲットできたらいうことないんだけど。兄弟丼シリーズ、きっと売れるわよ」
「クケー」
「ツバメちゃんのお友達のチャイニーズの子もイケそうね。不健康そうなジト目がたまらないっていうか、とってもいじめたくなるっていうか……乳首にお灸プレイしてみたい」
おっと、アタシとしたことがうっかり欲望だだもれ。気のせいかシュガー・ルゥが怯えている。
「嘘、冗談!SMは嫌いじゃないけど合意がないならやらないから安心して、やっぱセックスは愛があってこそよ」
テーブルにブラシをおきシュガー・ルゥにキスをする。
その時だ。
部屋のドアが乱暴にノック、もといキックされる。
「乱暴しないで!」
思わず声を荒げ、目をぱちくりするシュガー・ルゥを抱いたまま玄関へ急ぐ。片目を眇めて覗き穴から確かめれば、意外な人物が廊下に立っていた。
「今開けるわよ」
チェーンを外して開錠するなり、スタジャンにジーンズスタイルの男の子が詰め寄ってくる。
「おらよ」
ジンジャエールを太陽に透かした髪、おそろしく綺麗な顔立ち。年齢はせいぜい十代半ばだけど四肢のバランスがとれた素晴らしいスタイルの持ち主……ツバメちゃんだ。
ツバメちゃんがアタシの足元に投げたのは一通の封筒。中を検めれば今月分の家賃が入っていた。
「珍しいわね、自分から持ってくるなんて殊勝な心がけじゃない」
「予定が詰まってんだよ」
「ふぅん」
紙幣を指で弾いて全部揃っているのを確認、バスローブの懐にしまいこむ。そわそわ落ち着かない態度ですぐぴんときた。
「あててみましょうか。お兄さんに会うんでしょ」
ツバメちゃんが最高にバツ悪そうな顔をする。図星ね。アタシは悠然と腕を組んでドアの裏面に凭れ、頭のてっぺんから爪先までツバメちゃんを値踏みする。
「だからなんだってんだ。用は済んだから帰るぜ」
長居は無用とばかり踵を返すツバメちゃん。小鳩ちゃんは現在ボトムで修行中、離れ離れのお兄さんと久しぶりに会えると来て気合が空回らずにはいられない。
「毎月ギリギリなのに今回に限って自分から持参するなんて偉いじゃない。アタシに訪問されちゃ不都合なわけ?」
「帰りが遅くなるかもしんねーし」
「ふぅーん?」
「どのみち巻き上げられんなら早ェに越したことねえ」
「人聞き悪いわね、部屋貸してあげてるんだから家賃は耳そろえて納めるのが店子の礼儀でしょ」
「じゃあ週に一度の停電やシャワーの出の悪さ直せよ」
「再三頼んでるけど業者がきてくんないのよ」
「値切り倒すからだろ」
「水浴びは好きでしょ、バードだけに」
水盤バードバスとそー変わんねーバスタブだもんな」
ツバメちゃんは一刻も早くお兄さんのもとへ飛んでいきたそうにスニーカーで足踏み。
まったく、待てができない子ね。あと五分延長してくれてもいいじゃない。
せっかちに爪先ぱた付かせるツバメちゃんを引き止め、もったいぶって続ける。
「もう随分よね、半年だっけ?恋しさが募るわね」
「せいせいしてる」
「もっと会いに行ってあげたらいいのに」
「わざわざボトムくんだりまでトラム乗り継いで?ざけんな」
「たいした距離じゃないでしょ、その気になればすぐよ」
「教会は嫌ェなんだよ、湿疹が出る」
「カソックはストイックでそそるじゃない。シスターの服もいいわよね」
「いるかもわかんねーもんを集って拝む連中の気がしれねえ。お祈りだ何だ堅っ苦しいし、あげくカネまで毟りやがる」
「お布施は自由意志でしょ」
ツバメちゃんの教会嫌いは筋金入り。いえ、神父が嫌い?
「アンタ今『子供の頃神父にイタズラされたのかしら』ってクソ失礼なこと勘繰ったろ」
「やだエスパー?わざわざ裏声使ってまねして、そっくりじゃない」
「クックッ」
アタシの腕の中で存在を忘れられてたシュガー・ルゥが声をたてる。
「この子も会いたがってるのね。連れてったげたら」
「却下」
「即答?」
「牝鶏抱いてトラムに乗れっかアホくさ」
「コココッ!」
シュガー・ルゥが鋭く鳴いて、尖ったくちばしでツバメちゃんを突こうと乗り出す。怒りで羽毛をふくらませたシュガー・ルゥを見下ろしてドヤり、ツバメちゃんが宣言。
「るすばん残念だな。お前の分も遊んできてやっからいい子にしてろ」
「牝鶏にマウントとってどうするのよ」
ツバメちゃんはスタジャンのポケットに両手を突っ込み、さっさと行こうとする。ご機嫌にハミングする背中。悪ぶっていても期待感を隠せないあたり子供ねと微笑ましくなる。
「ちょっと待って」
「あァ?」
「あんたね、そのかっこで行くの」
盛大なあきれ顔で呼び止める。廊下半ばで立ち止まったツバメちゃんがドッグタグを弾ませ振り向く。
「ンだよ、文句あんのか」
「半年ぶりの再会でしょ、普段着のままなんて味けない。大体なによその上下とも古着屋ユーズドショップで揃えましたって家出少年スタイル、スタジャンとジーンズの合わせが許されるのはティーンエイジャーだけよ」
「十代ど真ん中だよ」
「お兄さんに大人になったとこ見せたくなの?ていうか煙草とお酒の匂いすごいけど、自分じゃ気付かないわけ?」
「デマだろ」
「今ここで確かめたら」
ツバメちゃんが渋面を作り、さも疑い深げにスタジャンの袖を嗅ぐ。それからタンクトップの胸元を掴んで顔に近付け、二日酔いがぶり返したようなしかめっ面になる。
「全身に染み付いた匂いで自堕落な生活がバレバレね。半年ぶりに再会するのにこの体たらくじゃお兄さんもがっかりよ」
「シャワー浴びたのに」
ツバメちゃんが忌々しげに舌打ちする。ほらね、お兄さんと会うのに体の裏も表も洗ってるじゃない。アタシはてんでわかってないツバメちゃんに老婆心からお小言をたれる。
「身体だけキレイにしたってだめよ、服に染み付いてるんだから。どうせ昨日脱いだまま、床に散らばってたの着てきたんでしょ」
舌打ちで区切り人さし指を振れば、ツバメちゃんが初めて焦りを顔に出す。待ち合わせの時間が迫ってるのにどうしようって表情。
「部屋に帰って着替えてこようって思ってるかもしれないけど、ぶっちゃけ全滅でしょ」
「読むなよ」
「今から洗濯してたら遅れるわよ」
これだから男ってヤツは……お兄さん任せで脱ぎ散らかしてたツケが回ってきたのね。アタシは器用に肩を竦め、ツバメちゃんのピンチを見下してドヤるシュガー・ルゥの羽を梳く。
「半年ぶりに会うってのに安酒の匂いがぷんぷんしたらきっと幻滅ね。等身大のチョコレートボンボンが歩いてきたかと思うわよ」
「一緒にいるだけで酔えんだからお得だろ」
「素面で会いなさい」
意味不明な強がりを口走るツバメちゃんに突っこんだあと、にんまりほくそ笑んである提案を投下。
「いい手があるわ」
ツバメちゃんの顔に露骨な警戒心が過る……けど、背に腹は代えられないと見えて渋々やってくる。アタシはシュガー・ルゥを小脇に抱え、ツバメちゃんの腕を掴んで部屋に連れ込む。
「カネは払ったろ」
「ええそうね、いい子だからご褒美あげる」
寝室へ行ってドレッサーの抽斗をかきまわす。あった。きらびやかなコスメがひしめくドレッサーに埋もれた小瓶を掴み、疑心暗鬼のツバメちゃんの方へ持っていく。
「何それ」
「香水」
「かけんのか」
「匂いを消すにはこれしかないでしょ」
「冗談、上塗りするだけじゃん」
「今より断然マシよ、煙草とお酒の匂いで鼻が曲がりそうだわ」
「男が香水なんて臭くてちゃらちゃらしたの付けられっか」
「何それ保守的ね、まさか初めて?使ったことないの?意外、耳に穴開けるよりハードル低いでしょ」
「ガキの頃飲んでこりた」
「よく死ななかったわね」
「舌と喉が焼け死んだ。しばらく小便からいい匂いしてまいったぜ」
子供の頃に飲んだ香水の味を反芻、死ぬほど嫌な顔をするツバメちゃん。トラウマは根深そうね。
だからって等身大チョコレートボンボンを出荷する訳にはいかない、アタシのお城に足を踏み入れたからにはルールに従ってもらわないと。
「時間がもったいねェ、聞いた俺が馬鹿だったよ」
アタシの手を邪険に振り払い、さらに追いすがれば蹴飛ばしてドアへ引き返すツバメちゃん。ひどい。
アタシの手から転がり落ちたシュガー・ルゥが廊下を駆け抜け、よく弾むラグビーボールさながらツバメちゃんの足に纏わり付く。ナイスフォロー。
「どけよアホドリ、脛かじっても連れてかねーよ痛ッで!?」
ツバメちゃんの脛を啄むシュガー・ルゥに心の中で親指立て、小瓶を掲げて食い下がる。
「勘違いしないでちょうだい、これは男物。ブランド物で高いのよ。特殊な成分を調合してて、フェロモンを高める効果があるの」
シュガー・ルゥのくちばしと格闘してたツバメちゃんが口からでまかせに反応を示す。
「上質なオードパルファム、うなじや耳の裏っかわに数滴ふりかければ色気にくらりな魅惑の匂いがふわりと広がって小鳩ちゃんもいちころよ。香りはスパイシーな中に甘さを秘めたオリエンタル系でき・ま・り」
「……耳の裏に数滴?」
かかった。
「頭のてっぺんから爪先までぶっかける必要なんてノンノン。ちょびっと塗り込めば完璧よ、濃縮されてるの」
饒舌に押し切られたツバメちゃんが悩ましげに眉根を寄せ、顔に飛び付き暴れるシュガー・ルゥをひっぺがす。頬っぺにくっきり爪痕が残ってるのはご愛嬌。
「…………貸せ」
ツバメちゃんがぶっきらぼうに片手を出す。
「やったげる」
「二度言わせんな。自分でやる」
「イケズ」
低い声で凄まれて仕方なく香水を貸す。ツバメちゃんは小瓶を目の位置に持っていき、さらに頭上に翳し、物珍しそうにひねくり回す。
それからきゅぽんと蓋を外し、指にたらした雫をうなじと耳たぶの裏に刷り込んでいく。
「熱が集まる先端に塗るといいのよ、発汗に乗じて匂いが広がるから」
「アドバイスどーも」
しなやかな肢体を包む黒いタンクトップの上にスタジャンを羽織り、擦り切れたジーパンを穿いた少年が、うなじに手を回し、耳たぶを摘まんで素肌に香水を塗り込んでいくのは妙に官能的な光景だった。
香水を塗したツバメちゃんが再び体の匂いを嗅ぎ、満足げに呟く。
「ちったァ紛れたな」
「でしょ?言ったとおりでしょ」
「クケッコ―!」
アタシは得意げに顎を引く。
噎せ返るように立ち込める香水の匂いに興奮したのか、シュガー・ルゥがハイテンションに走り回る。
ツバメちゃんは小瓶をお手玉しながら思案げな顔付きをし、自分の股間のあたりを凝視。
神妙な視線の意味を勘違いし、うっかり余計な一言を口走る。
「熱が集まる先端とは言ったけど下半身はおすすめしないわ、炎症起こしたら大変」
「手が滑った」
わざと瓶を逆さにし、足元で鳴き喚くシュガー・ルゥに中身をぶちまける。
「クックッケッコ―――――!!」
「シュガー・ルゥ!?」
瓶の中身を全部かぶったシュガー・ルゥが、全身から強烈な匂いを撒き散らしキッチンへ駆け抜けていく。
「ちょっとアンタなんてことすんのよ可哀想じゃない、アレじゃ牝鶏で型とった匂い袋よ!大丈夫よシュガー・ルゥ、シャワーできれいきれいしましょうねちゃんと全部落ちるから」
舌を鳴らしてシャワー・ルゥをなだめすかすアタシの背後、ツバメちゃんが鼻歌を奏で出ていく気配がする。
「そんなに楽しみならスーツ一式そろえときなさいよ、スタジャンとジーンズに世界が終わっても譲れないこだわりあるの?」
「アイツの為にめかしこむなんてかったりィ。勘違いさせたかねェだろ」
ツバメちゃんが鼻白むけど、真意は別の所にあるとわかってしまった。それすなわち浮かれているとバレるのが恥ずかしい、見栄っ張りな男心。
「小鳩ちゃんに会えるってだけで舞い上がって、身嗜みに手間かけてるのバレたら屈辱?」
ノブに手をかけた恩知らずが振り返りざま不敵な流し目をよこし、幸福の王子と漸く逢瀬ができるツバメさながら惚気る。
天にもSeventh昇る心地Heavenってヤツ」
小生意気に中指を立て、意気揚々とアパートを去っていく。
「動物虐待なんて酷い店子」
「クケ……」
「よーしよし。怖かったでしょシュガー・ルゥ、もうだいじょうぶだからね。悪いツバメちゃんはしっしっしたから」
シュガー・ルゥをバスルームに連れて行って、シャワーで綺麗にしてあげる。序でによく泡立てて洗ってあげれば、あちこちシャボン玉をふりまいてはしゃぎまくる。
その後。
アタシはシュガー・ルゥにおるすばんを頼み、店子たちの部屋を回って家賃を取り立てた。
踏み倒して窓から脱走を企てる悪い子はお尻ぺんぺんして、とち狂って銃を抜くもっと悪い子は腕をへし折り、きっちり回収して部屋に戻る頃には夕方になっていた。
「ただいま。いい子にしてたシュガー・ルゥ?」
「ココココ」
「匂いは大分薄まったわね……ん?」
部屋の窓から通りを見下ろすと、ちょうどツバメちゃんが帰って来るところだった。
「あの子ってば……」
可愛い可愛いシュガー・ルゥを匂い袋にしたんだからガツンと言ってやらないと。
「ちょっと待っててシュガー・ルゥ、代わりにお尻ぺんぺんしてきてあげる」
「クケケッ」
シュガー・ルゥに頑張ってと送り出され、憤懣やるかたない大股で玄関ホールへ赴けど誰もいない。どこへ消えたのかしら?エレベーターはまた止まってるから階段を使ったんならすぐ追い付けるけど、それにしちゃ靴音がしないのがおかしい。
ゴウンゴウンと何かが回る鈍重な音。ぴんときて方向転換。
豆電球が不規則に点滅する階段を忍び足で降り、半地下のランドリールームを覗けば、ツバメちゃんが旧式の洗濯機の前に立ち尽くしていた。
「こんな時間に洗濯?お兄さんと会って心を入れ替えたの」
そうからかってすぐ違和感に気付く。スタジャンを着てない。泡立ち渦巻く洗濯機の中に投げ入れたのだ。
「何かあったの」
「なんも」
「会えたんでしょ?」
アタシの問いには答えず、かたくなに俯いて洗濯機の中を睨み続ける。相手の喜ばし方を間違えて傷付いた子供みたいな横顔。
「……裏目にでちまっただけ」
小汚いスタジャンを飲みこんだ電気仕掛けの唸りが、微震を生じて低く単調に響く。
ツバメちゃんはしばらく立ち尽くしていたけど、スタジャンが浮き沈みする渦のうねりの失速に比例して顔が歪み、稼働中の洗濯機を力一杯蹴り付ける。
「物にあたるのはやめなさい、壊したら弁償よ!」
大家として最低限これだけは言っとかないと。
階段の下方に仁王立ち注意を飛ばせば、黒いタンクトップとジーンズの上下がいやに寒々しいツバメちゃんが、振り下ろしどころのない拳を強く握り込んで吐き捨てる。
「あの香水、ちっともきかなかったぜ」
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