幼少期に相思相愛だった相手に婚約を申し込んだら袖にされた。 十二年疎遠だったから無理もない? 私たちは毎夜語らっていたのになぜ……。

川嶋マサヒロ

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15「令嬢たちの休暇」

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 ダンジョン戦のあともシルヴェリオの周囲に変化はなかった。追跡と見守りの日々が続く。【サンクチュアリ】も次のイベント予定はまだないようだ。

 休日の午前中。街角にシルヴェリオは立つ。
「お待たせ。早いですね」
 カールラがやって来た。街中の仕事なので武装は腰の短剣のみ。防具類も当然はずしている。おろした髪が新鮮だ。商家の末娘でこちらが本物ともいえる。
「早めに来た。言葉が変だぞ」
 シルヴェリオも聖剣は装備せず、庶民のような服装である。
「街と冒険者は違うの。変はないでしょう」
「まあいい。目標は屋敷を出た。こちらも動くぞ」
 腕を出すと突然空から小鳥がとまる。
「驚いた。それは――」
ピーピングパペット覗き模型だ。軍用のパペット魔導人形を私が改良した。これで今日の外出を突き止めたのだ。幸運だったな」
「やっぱり才能の使い方を間違っているわよ。そこがシルヴの良い所だけどね。貴族っぽくなくて」
 と言って、カールラ街娘のように笑う。勝手が違って戸惑うシルヴェリオであった。

 再び小鳥を飛ばし二人は街を歩く。
「屋敷を出て友人と合流した。分かるか?」
「街中だし魔力反応はいっぱいよ。私に区別はつかないわ」
「そうなのか?」
「普通そうよ。愛する人の魔力だけ区別するなんて、聞いたことないわ。これも才能ねえ……」
「もう一人と合流した。こっちだ」
「あんっ」
 シルヴェリオはいきなりカールラの腕を引き路地に入る。しばらく進み待機状態となった。
「もうっ! あんな乱暴に引っ張らないの。女の子なのよ?」
「クエストでそんな悠長なことを言っては――」
「ここは街中です。わきまえて下さい」
「分かった、分かった――。来たぞ!」
 大通りを令嬢三名が歩く。超個人的なクエスト開始だ。
「護衛は分かるか?」
「三名ね。強いのが一人いる。珍しいわね」
「当たりだ。行くぞ」
 護衛といっても騎士や私兵などではなく、多少は腕の立つ使用人などが、ついでに努める。引退した元冒険者なども多い。街中では危険が少なく、あくまで念のためだ。さりげなく二人は通りに出た。
 シルヴェリオは令嬢三名を確認。カールラは護衛の三名を把握する。
「へえ、若い男がいる。強いのはあいつね。ちょっと腕試ししてやるか……」
「街娘に戻れ。魔力を絞らないとヤツら気取られる」
「シルヴを怒れないわ」

 貴族街の大通りを抜け庶民街へ。令嬢たちはマーケットの雑踏に入る。護衛は一人が前衛に先行、一人は脇に接近、若い男は後方で全体を俯瞰する。
「あはっ、まるで魔獣相手のクエストね」
「最近、街は危険なのか?」
「全然。真面目な護衛さんねえ」
 令嬢たちは端から端まで品定めし何品か購入。それから近くのレストランに入る。屋台の雰囲気を残す庶民店なので護衛も入店。シルヴェリオたちは向かいのカフェのテラス席に座った。ウエイトレスにお茶とサンドイッチを注文する。
「私たちと変わらない休日ね。良い令嬢さんたちよ」
「まったくだ。気が付いたか?」
「ヘンな魔力を時々感じるけど気のせいかなあ?」
「私も感じる。誰かがフランチェスカを見ているのだ」
「ピンポイントで分かるかなあ……」
「護衛の理由はこれだな。間違いない」

 それからスイーツの屋台街で食べ歩き。シルヴェリオたちも怪しまれないように間をおいて、同じ品を買い食いする。
「美味しいっ。どうかしら?」
「……甘い」
「普通の感想ねえ。あの人に聞かれてもそれ? つまらない男って思われちゃうわ」
小豆あずきは高級品だな。砂糖も良い品だ。しかし屋台で――」
ウチ商会の店から卸しているのよ。ノーブランドだけど昨年の出来がよかった品を選別してね。手間をかけた品を知名度がないからって買いたたかない、ちょっとした実験ね」
「どこ産だ?」
「フィオレンツァ公爵家の領地よ」
「……」
「あの屋台で評判を確認しているの。あの人たちは本物を知っているわ。成功ね。あなたは学校の勉強を頑張ってね」
「反省するよ……」
「最初にセルモンティ家の息のかかった屋台を食べてた。あなたたち、ライバルなのね」
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