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17「群青の学院」

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 アッツァ学院校舎最上部。アイドルユニット【ラヴキュア】のリーダー、ミネルヴァはよく手入れされた庭と学生たちを見下ろしていた。
 特別専用休憩室には上級茶葉の香りが漂い、他のメンバー、ニーヴェスとマリアンナが楽しむ。
「やってやるわ。必ずオトして見せる」
「懲りないわねえ」
「きゃはっ、シカトすればイイのよ」
 蛇の執念深さを持つリーダーに、ニーヴェスとマリアンナはうんざりぎみに言う。
「これ以上どうしようっていうのかしら?」
「昼休みのレストラン。私一人で行くから。あんたらが邪魔だったのよ」
「あらあら……」
「ミネルヴァが嫌われたのにね。きゃはっ」
「黙れよ。カスっ!」
「ブ――ッ」
「チッ!」
 この三人は友人でもなければ、仲間でもなかった。互いに足を引っ張り合う末に生き残った、たったの三人。今も隙あらば他の二人を蹴落とし、そのあとで自分の意のままに操れるメンバーを加入させようとしていた。
「で、ダメだったらどうするのかしら?」
「帰りを正門で待つわ。シカトしやがったら屋敷までついて行って、門の前で泣きわめいてやるっ!」
「女子泣かせの貴公子かあ。面白いかも……」
「ウソ泣き得意。きゃははっ!」
 アイドルの女子学院生を泣かせたとなれば、貴族社会でも噂になるだろう。学院では無言を貫き、お高く止まったイケメンをかばっていると誤解させる。
 相手は高級貴族の子弟だ。絡め手が有効だ。調査委員会にでも呼ばれれば、また泣いて見せ同情を一手に集める。
 スキャンダルを利用してアイドルユニット【ラヴキュア】の知名度は確実に上がる。
「バカにしやがって……」

   ◆

 午前と午後中は歴史の授業を二つ取る、ちょうど現エンドエッティ連邦王国前史を扱っていた。残念ながらフランチェスカの姿はない。
 建国四百年以前は、革命や騒乱、大量虐殺事件は数知れず。そして魔導空間で体験した記憶の次元。
(あれはおそらく五百年前におこった魔導崩壊事件だ)
 シルヴェリオはすでに知っている内容ばかりの講義を聴く。頭の中で復習と反芻はんすうを繰り返しレディセイント聖女の影を探した。

 手がかりが思いつかないまま、学院図書館に向かう。ショップでサンドイッチとお茶の瓶を買い食事を済ます。頭の中では歴代聖女の空白期間を探し出していた。
 お目当ての書物を次々に探し出しページをめくる。百年弱続いた魔導崩壊事件は、初代エンドエッティ王が平定し、のちの百年で連邦国家の原型が作られたのだ。
 歴史書はあらかた読んだので、それ以外から関係していると思われる書物を探す。しかし目的の記述は見つからない。
(手がかりなしか……)
「あの……。何かお探しですか?」
 顔を赤らめた図書委員の女子学生が声をかけてきた。文学科の生徒が書士見習いとしてここを手伝っている。
 一人でなんとかしようとしていたシルヴェリオは、自身の間抜けぶりにあきれた。
「魔導崩壊事件後の百年における、レディセイント聖女の係わりをしらべております。具体的に年代を絞れるのか」
「それは公式にはありません。噂や伝聞でんぶん書の範疇でしたら少しは……」
「それはどの本ですか!? 」
「ここにはありません。王立図書館にならあるかと」
「そうですか……」
「それらしい記述の本でしたら何点か――」
「それはどれですか? 教えて下さい」
 書士見習いと共に五冊の本を選び出し、シルヴェリオは閲覧席に座る。

 読み終わるころには外は暗くなりかけていた。閉館の時間ギリギリだ。
「遅くまで申し訳ありませんでしたね。助かりました」
「いっいえ、まだ閉館前ですから……」
 アッツァリーティの貴公子を前に、見習い書士の動悸は収まらない。
「時間を見つけて、王立の方も訪ねてみます。では」
「あっ、あの――」
 女子は立ち去ろうとするシルヴェリオを呼び止めた。下を向き少しためらう。
「……正門はもう閉まっているかと。図書館の通用門をお使いください。すぐ裏です」
「ありがとう」
 お礼の笑顔で返し、シルヴェリオは帰宅の途についた。
(やはり戦うしかすべはないのか……)
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