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18「冒険者稼業」

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「今日は冒険者に登録する。クエストなどをやってみるか」
 朝食をとりながらシルヴェリオは宣言した。
「あそこのギルドマスターは舎弟のようなものです。便宜を図らせますよ」
 ヴァレンテの目がギラリと光る。安易にこの話に乗ってはいけない。話が大きくなるだけだ。
「いや、目立ちたくはない。ごく普通の冒険者として活動するつもりだからな」
「受付にも知り合いがいますから、融通をきかせられますが」
 イデアは少し心配そうに言った。初日はお試し冒険者程度なので融通は必要なかった。心配しているのだろう。
「いや、普通でいく。気を使わなくてもいいぞ」
「お坊ちゃま。初心者のクエストは、薬草採取などしかありませんぞ」
「それでもかまわん。森の中などを歩いてみるか……」
ラヴ〇ラッグ惚れ薬なる薬草の噂がございますなあ……」
「!! それはいったい……」
「ただの都市伝説ですっ!」
 イデアはぴしゃりと言った。シルヴェリオとて都合よすぎる薬草だと思ってはいた。人の願望がこのような伝説を生み出す。
ダークマーケット闇の市場では。ヨウキャモテルクサ、と呼ばれているようですな。一応、心に留め置きください」
「忘れて下さい」
 父親が配置した使用人のバランスは複雑怪奇だ。

 シルヴェリオは知識として、冒険者ギルドがどのような場所かは知っていた。
 朝の掲示板には冒険者が群がっている。そのまま一直線に受付へと向かう。
「冒険者登録をしたいのだが」
「はいはい。この用紙に記入してください」
 受付嬢は他の書類をめくりながら魔導石板を用意して、引き出しからメタルタグ小金属盤を取り出す。シルヴェリオは隣の用紙に氏名を記入した。スキルの欄が一行しかない。全てを書けそうもないので、ありがちのスキルを三つ記入する。
「あら。イイ男は早死にするってジンクスがあるけど、あれは迷信だから気にしないで。ここに手を置いて下さい」
 言われたとおりにするとビリッとした衝撃があった。受付嬢は差し込まれていたタグを抜く。
「これがあなたの冒険者証になります」
 受け取るとFの文字が浮かび上がった。
「始めはFランク。クエストをこなせば上がりますから。クエスト票に書かれているランクで請け負って下さい。これで終わりです。次の人」
 若い受付嬢はてきぱきと仕事をこなしていた。シルヴェリオは場所をあける。
 人が群がっているのは高ランクの掲示板だった。誰もいないFの前に立つ。植物の絵と名称、おおよその相場が張り出されていた。全て知識として知っている内容ばかりだ。周辺地図に大雑把な群生地図もある。
(ヨウキャモテルクサの情報はないな。当然か……)
 大げさな剣を下げて薬草掲示板を見るイケメン。おかしな光景だと他の冒険者たちは不思議がった。
 通りに出たシルヴェリオは西の森を目指す。

 サーチレンジ探知範囲を最大に設定して森の中を進む。脅威は全くなかった。レンジを絞ると弱い魔力の人間が引っかかる。
 再びレンジ範囲を最大に上げ、薬草を見つけてはせっせと刈り取り西へと進む。
(ん?)
 接近中の魔獣を発見。進路方向に進むと、到達予測地点は薬草の群生地であった。魔獣を待ちつつ収穫に精を出す。
「兄さん、ちょっと待ちな!」
「ん?」
「誰に許可をもらって採取しているんだい? いい度胸してんな!」
 そこにはちびっ子の四人組がいた。声をかけてきたきたのが、前衛にいる男子だ。リーダーの剣士といったところなのだろう。
「止めなさいよ。ここはみんなの森なんだから」
 隣で意見する女の子は、並んで前衛を預かるやはり剣士なのだろう。
「ここは俺たちが見つけたんだぜ? ショバ荒らしとはふてえヤツだな」
「それはちょっと違うよ。ずっと以前にもここで採取した人はいたはずさ。生活圏に近いからね」
 さら味方してくれたのは眼鏡をかけた賢者ふうの男子だ。
「さんせ~」
 最後の魔法使いの少女まで味方となり、強気リーダーは孤立した。追放一歩手前の状態となる。
「ううっ……」
(仕方ないな)
「いや、知らぬこととはいえ失礼した。私は今日冒険者登録したばかりでね。本当に知らなかったのだよ。許してくれたまえ」
 シルヴェリオは知らないを二回言い下手に出る。
「へっ、新人さんか。分かりゃいいんだよ」
「ちょっと、いいかげんにしなさいよ。すいません……」
「ホントに冒険者なのか? 登録証を出せ」
「もう……」
「これだが……」
 シルヴェリオはタグを首から外して差し出した。
「なんだ、Fクラスか。まっ、頑張ればEぐらいにはなれるぜ」
「すごい剣ね~」
「武器は人を選びます。彼の潜在能力はAクラスとみましたね」
 魔法使いは聖剣に感心し、賢者はシルヴェリオの力を分析した。
「よし、クエスト開始だ。成長した薬草だけを採取するぞ」
 シルヴェリオは脇によけて、自分の採った薬草を袋に詰める。

「ところで重要な報告がある。今ここに魔獣一体が接近中だ」
「「「「えっ!」」」」
「私が討伐するから、君たちはここから動かないように」
「大丈夫なのかよ?」
「孤児院に戻りましょう。教会の結界があるから安全よ」
「敵は急速に接近している。もう逃げるには遅いな。ここから動かからないでくれ。一ヵ所にいたほうが守りやすい。早いな。もう来た」
 シルヴェリオは剣を抜き少し離れて子供たちとの軸線に立つ。
 前方がざわつき、やぶから猪魔獣が飛び出す。鼻面にまとった魔力のラム衝角に剣を叩きつけた。脇によけてまだ突進をあきらめない猪の横腹に剣を突き刺す。魔獣は弾け魔核だけが残り、シルヴェリオはそれを拾い上げた。勝負は一瞬だ。
「驚かせてすまなかったね。これは迷惑料だ。孤児院に寄付させて頂こうか」
 このサイズの魔核はそれなりの金になり、冒険者はこれも報酬としている。
「おう、話が分かるじゃねーか」
「いいんですよ。そんなこと……」
「いや、私の魔力があいつを呼び寄せてしまったようだ。注意するよ」
 全員でほどほどに薬草を採取して別れた。
「今度教会に行ってみようと思っていたのだ。孤児院にも顔を出すよ」
「土産を忘れんなよー」
「もうっ。手ぶらで結構ですから……」
 シルヴェリオは薬草を取りつつ街への帰路についた。

 ギルドの裏手には薬草の買取場がある。冒険者に混じり、庶民たちの姿も多かった。シルヴェリオは掲示された手順書を見つつ、種類ごとザルに仕分けし重ねて提出する。
「ほい、これが買い取り報酬だ。少ないなんて文句言うなよ。決められた相場だからな」
 業者は剣を見て冒険者だと分かりクギをさす。子供の小遣いならば、まあまあの金額だ。
「ちょっと聞きたいのだが、このあたりでヨウキャモテルクサは採れるのかな?」
「!」
「どうかした――」
「しっ。やたらめったら、その名を口にするモンじゃあないぜ。どこで聞いた?」
 愛想の良い業者の表情は一変する。恐ろしいほど真剣だ。シルヴェリオはその迫力にたじろぐ。
「知り合いの元冒険者からだが……」
「うーん、そうか。昔は無茶する冒険者もいたからなあ。今の若いヤツらはお上品すぎていけねえ。兄ちゃん、コナかけてんじゃないぜ。手に入れたのか?」
「いや……」
「あんた貴族のにおいがプンプンするな。近衛の潜入捜査かあ? 俺は知らないぜ。今日はもう店じまいだ。とっととけえんな」
「私はそれが何か聞きたいだけで……」
「くわばら、くわばら。俺は何も話していないし聞いてない。しつこいとギルドに苦情を申し立てるぜ!」
「それは困る。失礼した」

 帰り道、シルヴェリオは考え込んだ。
(ヨウキャモテルクサ。いったい何者だ?)
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