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31「雑貨屋にて・一」
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貴公子シルヴェリオはなかなか忙しい。しかしこの上まだ、仕事を増やそうとしていた。全ては令嬢とお近づきになるためだ。
(なんとかして私たちの距離を少しでも縮めねば……)
いっこうに進展を見せない二人の関係に焦りがあった。
学院の帰り道。雑貨と小物の店【ミコラーシュ】の前に立つ。アルバイト求む、の貼り紙を見つめていた。
店から出てきた令嬢はちらりとシルヴェリオを見て顔を赤らめる。入店しようとした令嬢は一瞥して顔を赤らめる。
(やるしかないか……)
シルヴェリオは意を決し入店した。カウンターには若い女性が一人。無愛想な表情を隠さない。滅多に来ない男子学生が、突然入って来たからだ。
一方、まばらな客が貴公子に注目する。こちらは全てが微笑。
「おもての貼り紙を見たのですが」
「バイト希望?」
「はい……」
「それでは奥へどうぞ……」
言われるままにシルヴェリオはその女性の後を追った。事務所スペースでは品の良い初老の女性が書類を読んでいた。
「店長。バイト希望だそうです。男ですが」
「あらあら、の学生さんね」
「はい。フィオレンツァ・シルヴェリオと申します」
その店長は制服を見て目を細める。シルヴェリオは卒業生ではないかと推察した。
「座って下さい。さて、なぜこの店で働きたいのですか?」
「この店に大いなる可能性を感じました。お客様は皆笑顔で帰って行きます。その一助に、ささやかなれど力になれるのなら、それは私にとっても幸せでありますから」
「店長。それは嘘ですよ」
(しまった! スキルなのか?)
そのような魔力もあると聞いていた。背後からの声にシルヴェリオは狼狽するが顔には出さない。
「レティ。失礼ですよ」
「おおかた女子の客ばかりだから、とかでしょうに」
「嘘の嘘は真実。どのような理由でも誠実に働いてくれればけっこうですよ」
「仕事に戻ります……」
ばかりではなく目標はたった一人。ただの女の勘は、半分は当たっていた。
「さて。少し働いてもらいましょうか。あなたも印象と違う仕事だったら困るでしょうし。時間はありますか?」
「大丈夫です」
「上着を脱いで、ユニフォームを着けてもらいます。ここを使って下さい。それが――」
ロッカーの一台を指定され、店主はそこを開けた。
「――女子用しか用意してなくて……」
「いえ。最近使っている色ですから」
シルヴェリオは、いきなりの雑貨屋デビューとなった。それもピンクのエプロンで。
「それじゃあレティ。お願いね」
「はい」
店主は引き継ぎし奥に引く。レティと呼ばれた女性はジロリとシルヴェリオを見た。
「アッツァリーティ文芸学院か……。科は?」
「芸術絵画です」
「ここの商品は、そのような知識が必要だが――」
二人は店内を周り、シルヴェリオはいくつかの商品について意見を述べた。
「うん、接客はできそうだ」
客に呼ばれ、レティは目配せした。新人店員シルヴェリオの接客開始だ。
「あ、あの、弟の絵に額縁をと思いまして……」
街娘の服で装う令嬢は美形を前に緊張した。声がうわずってしまい恥ずかしさで顔がピンクに染まる。
「神話画ですかな?」
「はい……」
「こちらは男性神に向いておりますね」
「女神様を描いたのですが……」
「それならば、こちらでしょうか」
厳密な決まりはないが、額の装飾には男神、女神を分ける傾向がある。中性ならば男の神に女神用額縁はあるが逆はない。
「女性ばかり描いていて……」
「そう言われれば、私とて描くのは女性ばかりです。初めて描いたのは母親ですから。父は一度もないですね」
「まあっ!」
緊張がほぐれて令嬢は笑顔を見せた。
「弟はお姉様を描いたのかもしれません」
「わっ、私はあのような、はしたない格好は――。い、いえ……」
「?」
テストは無事終了。シルヴェリオはめでたく採用となる。
◆
「【ミコラーシュ】という店で週に二回バイトをする。先ほど決めてきた」
「もうですか? 名前は聞いたことがあります。なかなか良い品を扱うとか」
イデアは名を知っていた。屋敷に戻ったシルヴェリオは、早速に指示を飛ばす。
「資本と経営を調べてくれ。フィオレンツァの名を出したのだが、どうも印象が悪いようだ」
「なーるほど! 店の買収を仕掛けるのですね?」
ヴァレンテの目がギラリと光る。
「いや。そこまではしない……」
人も品揃えも一流の匂いがした。シルヴェリオは興味を持つ。
「フランチェスカが通っている店なのだ。念のために調べておこうか。我が家と対立する貴族が絡んでいれば厄介だからな」
二人が退出し、最近こちらがご無沙汰だと愛しいフランチェスカたちを眺める。
「君が来店する日を楽しみにしているよ」
「びっくりして、私泣いてしまうかもしれないわ」
「品の良い刺繍のハンカチがあった。その時はプレゼントさせてもらうよ」
「嬉しいわ」
(なんとかして私たちの距離を少しでも縮めねば……)
いっこうに進展を見せない二人の関係に焦りがあった。
学院の帰り道。雑貨と小物の店【ミコラーシュ】の前に立つ。アルバイト求む、の貼り紙を見つめていた。
店から出てきた令嬢はちらりとシルヴェリオを見て顔を赤らめる。入店しようとした令嬢は一瞥して顔を赤らめる。
(やるしかないか……)
シルヴェリオは意を決し入店した。カウンターには若い女性が一人。無愛想な表情を隠さない。滅多に来ない男子学生が、突然入って来たからだ。
一方、まばらな客が貴公子に注目する。こちらは全てが微笑。
「おもての貼り紙を見たのですが」
「バイト希望?」
「はい……」
「それでは奥へどうぞ……」
言われるままにシルヴェリオはその女性の後を追った。事務所スペースでは品の良い初老の女性が書類を読んでいた。
「店長。バイト希望だそうです。男ですが」
「あらあら、の学生さんね」
「はい。フィオレンツァ・シルヴェリオと申します」
その店長は制服を見て目を細める。シルヴェリオは卒業生ではないかと推察した。
「座って下さい。さて、なぜこの店で働きたいのですか?」
「この店に大いなる可能性を感じました。お客様は皆笑顔で帰って行きます。その一助に、ささやかなれど力になれるのなら、それは私にとっても幸せでありますから」
「店長。それは嘘ですよ」
(しまった! スキルなのか?)
そのような魔力もあると聞いていた。背後からの声にシルヴェリオは狼狽するが顔には出さない。
「レティ。失礼ですよ」
「おおかた女子の客ばかりだから、とかでしょうに」
「嘘の嘘は真実。どのような理由でも誠実に働いてくれればけっこうですよ」
「仕事に戻ります……」
ばかりではなく目標はたった一人。ただの女の勘は、半分は当たっていた。
「さて。少し働いてもらいましょうか。あなたも印象と違う仕事だったら困るでしょうし。時間はありますか?」
「大丈夫です」
「上着を脱いで、ユニフォームを着けてもらいます。ここを使って下さい。それが――」
ロッカーの一台を指定され、店主はそこを開けた。
「――女子用しか用意してなくて……」
「いえ。最近使っている色ですから」
シルヴェリオは、いきなりの雑貨屋デビューとなった。それもピンクのエプロンで。
「それじゃあレティ。お願いね」
「はい」
店主は引き継ぎし奥に引く。レティと呼ばれた女性はジロリとシルヴェリオを見た。
「アッツァリーティ文芸学院か……。科は?」
「芸術絵画です」
「ここの商品は、そのような知識が必要だが――」
二人は店内を周り、シルヴェリオはいくつかの商品について意見を述べた。
「うん、接客はできそうだ」
客に呼ばれ、レティは目配せした。新人店員シルヴェリオの接客開始だ。
「あ、あの、弟の絵に額縁をと思いまして……」
街娘の服で装う令嬢は美形を前に緊張した。声がうわずってしまい恥ずかしさで顔がピンクに染まる。
「神話画ですかな?」
「はい……」
「こちらは男性神に向いておりますね」
「女神様を描いたのですが……」
「それならば、こちらでしょうか」
厳密な決まりはないが、額の装飾には男神、女神を分ける傾向がある。中性ならば男の神に女神用額縁はあるが逆はない。
「女性ばかり描いていて……」
「そう言われれば、私とて描くのは女性ばかりです。初めて描いたのは母親ですから。父は一度もないですね」
「まあっ!」
緊張がほぐれて令嬢は笑顔を見せた。
「弟はお姉様を描いたのかもしれません」
「わっ、私はあのような、はしたない格好は――。い、いえ……」
「?」
テストは無事終了。シルヴェリオはめでたく採用となる。
◆
「【ミコラーシュ】という店で週に二回バイトをする。先ほど決めてきた」
「もうですか? 名前は聞いたことがあります。なかなか良い品を扱うとか」
イデアは名を知っていた。屋敷に戻ったシルヴェリオは、早速に指示を飛ばす。
「資本と経営を調べてくれ。フィオレンツァの名を出したのだが、どうも印象が悪いようだ」
「なーるほど! 店の買収を仕掛けるのですね?」
ヴァレンテの目がギラリと光る。
「いや。そこまではしない……」
人も品揃えも一流の匂いがした。シルヴェリオは興味を持つ。
「フランチェスカが通っている店なのだ。念のために調べておこうか。我が家と対立する貴族が絡んでいれば厄介だからな」
二人が退出し、最近こちらがご無沙汰だと愛しいフランチェスカたちを眺める。
「君が来店する日を楽しみにしているよ」
「びっくりして、私泣いてしまうかもしれないわ」
「品の良い刺繍のハンカチがあった。その時はプレゼントさせてもらうよ」
「嬉しいわ」
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