幼少期に相思相愛だった相手に婚約を申し込んだら袖にされた。 十二年疎遠だったから無理もない? 私たちは毎夜語らっていたのになぜ……。

川嶋マサヒロ

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51「絵画サークル革命論」

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 朝、学院の門をくぐるシルヴェリオは生徒たちの視線にさらされる。以前とは違う好奇の目だ。令嬢たちが寄って来る、は見事になくなっていた。蝶のいない季節だ。
 フランチェスカの心さえつなぎ止めておけば、学院での問題などゴミのようなもの。シルヴェリオはそう思っていた。いつものように令嬢追跡にいそしむ。
(次のダンジョンが楽しみだよ……)
 木陰の下の読書タイムを見送り、続いてシルヴェリオは絵画サークルへ出向く。
「あら、いらっしゃい」
「どうかと思ってな」
 どんよりとした空気が部屋全体を支配していた。サークルメンバーたちには覇気も生気もない。
「オリヴィエラさん。僕たちも戦いましょう!」
「そうです。もう我慢なりません!」
 シルヴェリオの来訪が決起の狼煙のろしとなった。若き血潮が燃え上がる。
「あの人たちは芸術の敵ですわ!」
「「「そうだっ!」」」
「落ち着きなさい。勝手な行動は許しませんよ」
「しかし……」
 オリヴィエラも対応に苦慮しているようだ。シルヴェリオは助け船を出す。
「これは私の問題だ。君たちが戦う相手は、芸術の向こう側にこそ・・いるのではないかな?」
(お前たちまでが参戦しては、話がややっこしくなるのだよ。これは、他の話題が必要だな)
 芸術に打ち込む若人たちは、天才の詭弁を前に静かになる。

 ちょうど【美・ガーディアンズ守護者たち】の校内街宣活動が始まった。
 ウマーノ・ガースの変調された声が響きサークルは創作活動どころではない
『ヤツは女性を物としてしか見ていない――』
「以前のも見てたか?」
「もう、ここがどこの学院か分からなくなってしまったわ」
『――お前たち全てがモノ扱いなのだよ……』
「これだもの……」
 絵画サークルメンバーは不安な表情でキャンバスに向かい合っている。
「どうかな? さろそろ静物画は卒業して人物画をためしてみては?」
「それは、そろそろだけど」
「こんな状況だ。早くてもかまわんと思うが? 男女でくじ引きでもして、分かれて互いを描|《えが》くのだ」
「女子が足りないわ」
「それは私がなんとかする」
 シルヴェリオはイラーリア教授から【サンクチュアリ】に声を掛けてもらおうと考えた。いざとなれば募集してもよい。
「いいか。静物画は物だ。だが我々はモノなどを描いてはいない。その果物も自然の驚異に耐えて生き残った産物だよ。人を描けばモノを言わない静物であろうが、声が聞こえてくるはずだ」
「まだちょっと難しいかしら?」
「論より証拠だ。やってみよう」
「いいわ。こんな状況だし、気分を変えましょう」
「君たちの絵画はこれから、様々な批評にさらされるはずだ。母を描けば、父は不満をぶつけてくるだろう。だけどそれすらも己の力となるはずだ。全ての声を聞くのだよ」
『女子たちはただ利用されているだけだ。使い捨てのアクセサリー装身具(そうしんぐ)として』
「相手はクジ引きで選ぶ。そのモデルと創作を通して会話するがよい。君たちがモノではないと証明してみせろ」
 よく知っている相手ではない方が良いとはシルヴェリオの持論だ。
「言い出したあなたも参加してくれるのかしら?」
「私は遠慮するよ。いや場合によっては考えるか……」
(もしフランチェスカが参加すれば、クジに細工をして……。私は冴えているな)

『ヤツの創作物を見るがよい。女性をモノとしか扱わない、蔑視にみちあふれているぞ!』
「それは良いとして、こちらはどうするの?」
「実はイラーリア教授から話があった。この件について調査委員会を立ち上げるそうだ。弁明するなら機会を与えると」
「話が通じるかしら?」
「さてなあ。弁明とやらをしても、言い訳にしか聞こえんだろうな。心当たりがないのだから……」
「で?」
「外部の第三者を招くそうだ。暇な適役がいるだろう。少々揺さぶれば黒幕も動揺するさ」
「なーるほどね」
「相手が引けばそれまでとする。戦いではないのだからな」
 反貴公子を画策する勢力。そしてシルヴェリオたち。互いの仕掛けかぶつかり合おうとしていた。

「まったく、いったいいつまでこんなことを続けるの――」
 窓に寄り外を見下ろしたシルヴェリオの言葉が途切れる。
「あいつら……。話が違うぞ!」
「ち、ちょっと待って――」
 アトリエを飛びだしたシルヴェリオをオリヴィエラが追う。つられてサークルメンバーたちもあとに続いた。
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