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第一章「戦力外の男」

第二十一話「新たな空間」

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 ベルナールたちは若手冒険者から獲物を横取りしない程度に、C級の魔物を三体ほど仕留めた。

「さてと、デビュー戦としては上々だ。帰るか」
「はいっ!」
「はい~っ!」

 最初は不安げだった二人の顔も、今は自信に満ち溢れている。


「ここ、続きがあるみたい~」
「続き?」

 第四階層の途中でロシェルが突然にダンジョンの壁を指差す。

「この向こうにダンジョンがあるの?」
「ある~」
「何だって!」

 確かにロシェルには探査の力がある。ただしその力はまだ弱い。

 他の冒険者たちが今までまったく気が付かなかったのは、ダンジョン探索は常に深部に向かうからだ。第四階層で側面に向かう新道があるなど確かに盲点だった。

 もしかすると新ダンジョンの空間か? ベルナールは一瞬そう思ったが、ここからの支道か付属空間程度が妥当な可能性だ。

「一応、ギルドに報告しておくか……」


 地表に戻り、出迎えてくれたマークスに戦果を報告する。一応、ここの守備隊長なりに心配してくれていたらしい。持つべきは昔なじみだ。

 支道らしき空間の件も話した。

「そいつは俺も初耳だな……」
「今まで問題になっていないなら、それほど気にしなくてもいいだろう。何せ俺だってここでずいぶんと戦ってきたんだしな」
「そりゃそうだ」

 こちらから開けない限りは、地殻変動でもないかぎり開口はしないはずだ。

 魔境大解放ダンジョン・クライシスなどは地表に向けて岩盤が抗しきれないほど魔の圧力が高まった時に起こる。支道程度では、メインダンジョンに向けて、それが起こるなどあり得ない。


 ダンジョンの街に出て、ベルナールは雑貨屋でここのダンジョンの地図を一冊買う。もう何年を改定されていない見取り図だ。

「俺は記憶しているがお前たちには必要だな」

 ベルナールはそう行ってアレットに手渡す。

「時間があるときに眺めて覚えるんだ。逃げる時にいちいち地図は広げられないからな」

 魔物の出現ポイントなどの情報も書かれている優れものだ。

「喉が渇いたな。お茶を飲んでいこうか」

 そう言って何年ぶりかで古びた喫茶店、女性的には甘味所に入る。

 昔、セシリアのお気に入りだった店だった。

 中は昔と同じでクエストを終わらせた若い冒険者パーティーで賑わっていた。女性のメンバーが多い。

 酒場に行くのはまだ少し早い時間だ。その前に有り難き女子様の冒険者をうやまあがたてまつる儀式は昔も今も同じなのだ。

「あら、久し振りね、ベル」

 この店の経営者で年配の女性が、ベルナールの顔を見咎めて自ら注文を聞きに来る。

「まあな」
「またダンジョンに潜るんだ」
「ああ、この二人を連れてな。今日が初日だったんだ。経験を積むならダンジョンが一番だしな」
「ふーん、可愛いお二人さんね。大物を仕留めたらここに寄ってね」
「はいっ~」
「大物はまだムリです……」

 ロシェルは天真爛漫に答えるが、アレットは現実的な回答をする。

「まあ、あなたたちにとっての大物ね」

 思えばセシリアが毎日ここに寄りたいと言うのを、大物を倒したら、と言ってなだめながらダンジョンに潜った日々だった。

「この店で一番人気のスイーツを二つだ。それとお茶を三つ」
「あら? ベルも食べなさいよ」
「酒はあるか?」
「相変わらずね。ウチにお酒はないわよ。お茶ね」

 店主はそう言って厨房に引っ込んで行った。

「臨時収入もあったしな。ここは俺が払うよ。ダンジョンデビューの祝いさ」
「御馳走になります」
「ありがと~」

 思えば師匠らしいことはあまりしていない。弟子たちも素直に礼を言った。

「さて、お前たち。今日のクエストは終りだ。これからは自由に話をしていいぞ」
「はいっ」
「はい~」

 ベルナールはクエスト中のおしゃべりは厳禁だと、二人に課していた。そちらの方が魔力の行使に集中できるし、魔物の気配を察知できるからだ。

「ロシェルは凄かったです。もう支援魔法を覚えました」

 傍らで見ていて感じたアレットも凄いのだが、少し残念そうに言う。

 この二人は支援する側とされる側とに、既に役割が明確に分かれていた。

「支援魔法は俺だって使えないさ。俺たちは剣士フェンサーなんだからな。それに気が付いたアレットには、支援を受ける資格は十分にあるよ」
「そうですか――、良かった……」
「ロシェルはよく支援してくれたな」
「お姉さんが教えてくれた~」
「うん、前にもピンチを助けているんだ。そのお礼だな」


 先にお茶が運ばれてきた。ウエイトレスが再びスイーツを運ぶ。

 パンケーキにたっぷりのクリーム。蜂蜜にチョコ、ジャム。そして季節のフルーツ。昔と変わらない懐かしい姿だった。

 そしてなんと、『祝! デビュー』とチョコで文字が描かれている。

「さあ食べよう。あるAクラス冒険者、その少女が好きだったスイーツだ。あやかりたいな」
「おいしいです……」
「あま~い」

 二人は顔をほころばせて頬張った。懐かしい光景だとベルナールは静かにお茶を飲む。
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