87 / 116
第三章「街を守る男」
第八十七話「聖なる騎士たち」
しおりを挟む
その開拓地では、切り出した材木を荷馬車に乗せる作業の真っ最中だった。輜重隊は開口を封鎖する資材を輸送する為、準備を整えてから後発する予定だ。
既に重武装の騎兵五十騎が先行出立している。街道を走り森の間道を抜けて、ちょうどよい頃合いに戦場に到達する予定であった。
空は青く澄み渡り、その下にはこの部隊の紋章旗がなびいている。
近郊で冒険者たちと魔物の群が死闘を繰り広げているなど、どこか遠くに感じさせる風景であった。
しかしその旗の元には白い戦闘正装に身を包んだ若き騎士たちが、緊張の面持ちで整列していた。
その両脇を二人の副団長が各人の表情を見ながらゆっくりと歩く。
儀式が終わり二人は司令部となっている、大きな天幕の張られたテントへと入って行った。
「団長、出撃準備。整いました」
「さて、我々も行こうか」
アンディックは王都での戦いの正装、第一種魔導装束に身を包んでいた。
「はっ」
そして立ち上がり天幕を出る。目の前には手前に四列三名、系十二人の騎士たちが整列していた。
王都の魔境大解放で武勲を上げた、若き新人雑兵や戦闘の才能がある貴族たちから選抜して鍛えた新鋭の騎士団だ。
更にそれぞれの後には、同じく若き精鋭の魔法使い、魔導士が控える。この二十四の若者たちが、今回の危機に対してアンディックが用意していた切り札だった。
王立軍内では聖なる騎士たちと呼ばれている面々である。
アンディックが一歩前に出ると、後で控えていた副団長の二人が分かれて左右に立つ。
右手に付くのは他の騎士団から引き抜いたベテランのダレンスである。騎士の鏡のような男で教育係としてはうってつけだった。
左は王宮の客食として滞在していたレディスと言う名の女性だ。魔境大解放の危機で、戦いに参加していた姿を目にしたアンディック自らが声を掛け誘ったのだ。
それぞれ王都ではアンディックの右腕、左腕と呼ばれる二人である。
「いいかっ! この穀潰しどもっ!」
アンディックは苦笑したい気持ちを抑えて真面目な表情を作る。ダレンスはこの時代遅れの檄を必要と言って譲らないのだ。
「今、この街の冒険者たちは苦戦している。新たな魔境大解放がこの街を襲っているからだ!」
せめてこれくらいはと、アンディックは微笑を作って騎士たちの表情を見回した。
「我らは王都を守り切った――、この聖なる騎士たちが力を示す時だっ! この国の守護者はだれかっ?」
「「「「ホーリーナイツ!」」」」
「我らと示さねばならないっ!」
「「「「ホーリーナイツ!」」」」
「さあーーっ、出撃だ!」
ダレンスに調子を合わせた若者たち、十二人の騎士と十二人の魔法使いたちは大空に飛び立つ。
この大袈裟な演出も彼らの士気を上げる為であった。若い騎士たちには、冒険者の報酬に代わるやりがいを与えなければならない。それは金以外の地位や名誉、誇りのような目に見えない幻である。この戦いで各々が何かの、自分だけに見える幻影を見つけ出してくれれば――。
「さてどうなるか……」
空を見上げていたアンディックはそんなことを思い、つくづく自分は中間管理職になったなと、呟いた。
「私たちも行きましょう!」
声が弾んでいるのはダレンス好みの展開だからである。
「うん、後方指揮ではなく、先ずは我らが先頭で戦うおうか?」
「どこにいたしますか?」
一方レディスが氷のように真剣なのは因縁が相手だからである。その問いは、より困難な場所に行くとの決意に聞こえた。この騒ぎがゴースト事件の延長だと考えているのだ。
「無論ベルナールが戦っている所さ。そこが勇者の戦う場所だ」
「願ったり、ですな!」
「叶ったり、ですわ……」
アンディックに続いてレディス、ダレンス共に飛び上がり、高空に見える二十四の滑空体を突き上げるように上昇した。
右後方のダレンスと左後方のレディスとで三角形の編隊を作って飛びつつ、半数に分かれた騎士たちが左右に付き従う。
森が終り、一行が箱庭のようなサン・サヴァン上空を通り過ぎると、ほどなくして森の先の荒野に問題の開口が見えてきた。
「青の騎士は右翼の敵に一撃を加えた後、森の中に移動して冒険者たちを援護する。俺に付いてこい」
ダレンスが右に横滑りしながら離れて行くと六人の二編隊が付き従った。
「赤の騎士は左翼を攻撃してから同じく森に引く。私に従え」
そしてレディスは左へと飛行機動を変える。
「黄の騎士と緑の騎士へ、我らは中央に降下する。そのまま荒野に留まり少し様子を見ようか」
呼ばれた十二人はアンディックの後方に配置した。
「さて、ベルはどこにいるのやら、それともこちらに来てくれるのか……」
既に重武装の騎兵五十騎が先行出立している。街道を走り森の間道を抜けて、ちょうどよい頃合いに戦場に到達する予定であった。
空は青く澄み渡り、その下にはこの部隊の紋章旗がなびいている。
近郊で冒険者たちと魔物の群が死闘を繰り広げているなど、どこか遠くに感じさせる風景であった。
しかしその旗の元には白い戦闘正装に身を包んだ若き騎士たちが、緊張の面持ちで整列していた。
その両脇を二人の副団長が各人の表情を見ながらゆっくりと歩く。
儀式が終わり二人は司令部となっている、大きな天幕の張られたテントへと入って行った。
「団長、出撃準備。整いました」
「さて、我々も行こうか」
アンディックは王都での戦いの正装、第一種魔導装束に身を包んでいた。
「はっ」
そして立ち上がり天幕を出る。目の前には手前に四列三名、系十二人の騎士たちが整列していた。
王都の魔境大解放で武勲を上げた、若き新人雑兵や戦闘の才能がある貴族たちから選抜して鍛えた新鋭の騎士団だ。
更にそれぞれの後には、同じく若き精鋭の魔法使い、魔導士が控える。この二十四の若者たちが、今回の危機に対してアンディックが用意していた切り札だった。
王立軍内では聖なる騎士たちと呼ばれている面々である。
アンディックが一歩前に出ると、後で控えていた副団長の二人が分かれて左右に立つ。
右手に付くのは他の騎士団から引き抜いたベテランのダレンスである。騎士の鏡のような男で教育係としてはうってつけだった。
左は王宮の客食として滞在していたレディスと言う名の女性だ。魔境大解放の危機で、戦いに参加していた姿を目にしたアンディック自らが声を掛け誘ったのだ。
それぞれ王都ではアンディックの右腕、左腕と呼ばれる二人である。
「いいかっ! この穀潰しどもっ!」
アンディックは苦笑したい気持ちを抑えて真面目な表情を作る。ダレンスはこの時代遅れの檄を必要と言って譲らないのだ。
「今、この街の冒険者たちは苦戦している。新たな魔境大解放がこの街を襲っているからだ!」
せめてこれくらいはと、アンディックは微笑を作って騎士たちの表情を見回した。
「我らは王都を守り切った――、この聖なる騎士たちが力を示す時だっ! この国の守護者はだれかっ?」
「「「「ホーリーナイツ!」」」」
「我らと示さねばならないっ!」
「「「「ホーリーナイツ!」」」」
「さあーーっ、出撃だ!」
ダレンスに調子を合わせた若者たち、十二人の騎士と十二人の魔法使いたちは大空に飛び立つ。
この大袈裟な演出も彼らの士気を上げる為であった。若い騎士たちには、冒険者の報酬に代わるやりがいを与えなければならない。それは金以外の地位や名誉、誇りのような目に見えない幻である。この戦いで各々が何かの、自分だけに見える幻影を見つけ出してくれれば――。
「さてどうなるか……」
空を見上げていたアンディックはそんなことを思い、つくづく自分は中間管理職になったなと、呟いた。
「私たちも行きましょう!」
声が弾んでいるのはダレンス好みの展開だからである。
「うん、後方指揮ではなく、先ずは我らが先頭で戦うおうか?」
「どこにいたしますか?」
一方レディスが氷のように真剣なのは因縁が相手だからである。その問いは、より困難な場所に行くとの決意に聞こえた。この騒ぎがゴースト事件の延長だと考えているのだ。
「無論ベルナールが戦っている所さ。そこが勇者の戦う場所だ」
「願ったり、ですな!」
「叶ったり、ですわ……」
アンディックに続いてレディス、ダレンス共に飛び上がり、高空に見える二十四の滑空体を突き上げるように上昇した。
右後方のダレンスと左後方のレディスとで三角形の編隊を作って飛びつつ、半数に分かれた騎士たちが左右に付き従う。
森が終り、一行が箱庭のようなサン・サヴァン上空を通り過ぎると、ほどなくして森の先の荒野に問題の開口が見えてきた。
「青の騎士は右翼の敵に一撃を加えた後、森の中に移動して冒険者たちを援護する。俺に付いてこい」
ダレンスが右に横滑りしながら離れて行くと六人の二編隊が付き従った。
「赤の騎士は左翼を攻撃してから同じく森に引く。私に従え」
そしてレディスは左へと飛行機動を変える。
「黄の騎士と緑の騎士へ、我らは中央に降下する。そのまま荒野に留まり少し様子を見ようか」
呼ばれた十二人はアンディックの後方に配置した。
「さて、ベルはどこにいるのやら、それともこちらに来てくれるのか……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
284
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる