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番外編

その狼の愛は止まることを知らない 9

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「ようこそ、カーネリアン邸の秘密の庭園へ。ここにお客様をお招きするのはいつぶりかしら。ガレイダス家のご家族をお招きしたとき以来……いえ、サファリファス家の御当主とお話ししたときが最後だったかも?」

品良く、しかし華やかに様々な花々で彩られたガゼポの中。可愛らしいティーセットが用意されたテーブルで先にお茶を楽しんでいたらしいおっとりとした雰囲気の女性が、鈴を転がすような声で笑っている。ホワイトグレーの柔らかい色合いの緩く巻いた髪が似合う女性だ。彼女がオウカのお母さん……カーネリアン夫人なのか。

「あの……」
「あら、そんな遠くじゃなくてこちらにいらっしゃい。ミシュラ、お茶を」
「かしこまりました」

夫人の弾んだ声でかけられた言葉と、背中を優しく押すミシュラさんの手が身体の硬直を解してくれた。入口で突っ立ったままだったおれは、なんとか足を動かし夫人の向かいの椅子に腰を下ろした。

「私、貴方とお話ししたいとずっと思っていたのよ」

おれを見ながらニコニコと微笑んでいる夫人からは、敵意のようなものは一切感じられない。オウカの言った通り、単にお茶に誘われただけなのかな……

「オウカとは時々魔導具を使って話をしていたのだけど、ほとんど貴方のことばかりなの。クーちゃんも貴方のことを話すことが大好きで……だから、初めて会った気がしないのだけれど、こうやってお招きできて嬉しいわ。オウカに頼むとダレスティアにも話しそうだし、クーちゃんにお願いして本当によかった!」

クーちゃん……クーロは夫人にクーちゃんって呼ばれているのか。本当に可愛がってもらっているんだなぁ。
夫人の笑顔とクーちゃん呼びに緊張が解れたのか、ようやく肩の力が抜けた気がした。

「あの、今日はお招きくださりありがとうございます」
「こちらこそ、突然のお伺いで驚かせてしまってごめんなさい。クーちゃんが騎士学校に入るかもしれないことを考えると、我が家にお招きできる機会はあまり無いと思ったの。もうすぐ竜王の儀もあるから、オウカも忙しくなってしまうでしょう? 貴方を護衛も無しに連れ出すわけにはいかないし」

突然のお誘いはそういうわけだったのか。クーロがいないとなると、おれがカーネリアン邸に赴く理由が無いと夫人は思ったようだ。

「確かにクー……クーロに会えないと思うと残念ではありますが、おれがお招きを断る理由にはなりません。オウカとは……こ、恋人なのですから」
「まぁ……! あらあら、ミシュラ! 聞きました?」
「ええ、坊ちゃんにこんなにも愛らしいお相手がいらっしゃるとは……微笑ましいですなぁ」

まるで愛玩動物を眺めるような、ほんわかした温かい視線を向けられている。「オウカの恋人」と言ったことが刺さったようだ。照れを我慢して言ったかいがあったと言うべきか……。今度は別の意味で恥ずかしいのだけれど。

「オウカからはクーちゃんを養子に迎える話があったときに、貴方との関係も聞いていたの。けれど、あの歳までそういった話も一切無かったものだから、半信半疑だったというか……だから、貴方からオウカと恋人だと言ってくれて嬉しいわ」

夫人は、頬に手を当てて微笑んだ。その表情は、困った息子に手を焼きながらも心配せずにはいられない母親そのものだった。
……いいお母さんじゃん。

「狼を起源に持つ種族は、その特性故に結婚を前提にした交際がほとんどです。ですので、ご両親が勝手に婚約者を決めるわけにもいきません。ですから、坊ちゃまがご自分で見初めたお相手を連れてこられるのを今か今かと奥様は楽しみに待っていらっしゃったのです」
「ほ~んと、待ったかいがあったわね! あの子は変なところで怖気づいてしまうから、私がどれだけ気を揉んだことか!」
「旦那様はピンッときたら伴侶にするまで一直線でしたが、坊ちゃまは足踏みしてしまう性格ですからねぇ」
「はは……」

夫人は、きっぱりさっぱりした性格のようだ。オウカは夫人には頭が上がらないだろうなぁ。

「あら、そういえば自己紹介がまだだったわね。私ったら盛り上がっちゃって忘れていたわ。オウカとクーちゃんから貴方のことをずっと聞いていて、初めて会った気がしないものだから……ふふっ」
「あ、ははっ……」

夫人はお茶目に笑っているが、あの二人はいったい何をどれだけ話しているのだろうか。変なことは言っていないって信じてるからな……!

「えっと、改めまして……四ノ宮鷹人といいます。鷹人と呼んでください。神子の兄で……息子さんとお付き合いさせていただいています。よろしくお願いいたします」
「ふふっ。私はラシュド・レイ・カーネリアンの妻でオウカの母のミネア。ミネアと呼んでちょうだいな、タカト」
「はい、え……っと、ミネア様」
「んふふっ……可愛い~‼」
「え」

遅い自己紹介を終えた直後、夫人が突然口元を緩めたと思えば、両頬に手を当てていわゆる黄色い声を上げた。
あまりにも突拍子もない事態に、おれは思わず固まった。
可愛い……可愛いとは?
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