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魔王城に拉致られる

村人、拉致られる。

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「……いいえ?違うわ、ごめんなさい。その方はお知り合いですか?」


私も笑顔で知らばっくれることにした。

こんなときにお互いがとても笑顔というのは実に不気味である。


「ええ、まぁ。人探しをしていまして。とてもよく似ていたものですから」

「あら、私だったら良かったのに。こんな素敵な方なんですもの」

ふふふっ、と笑う。しなを作る自分が気持ち悪かった。

相手も、はは、と爽やかに笑った。イケメンだ。何を考えているかはわからないけれど。

……魔王軍?まさかな。しかしそれくらいしか思い当たらないぞ。


「どうですか。これを切っ掛けに、そこでお茶でも」

手袋をした手を差し出される。ううっ……この格好で手袋って、好みに突き刺さってくる……!


うーん。これが普通のナンパなら良かったんだけど。間違いなく、ホイホイついてった。

いや……。

魔物と考えるから魔王軍側に行くのも抵抗感があるけれど、イケメンなら……こういったイケメンが多いなら、魔物側に行くのも悪くないかもしれない。

私にとっての世の中、顔と暮らしが一番大切だ……。


「ごめんなさい。急いでるの。残念だわ。また機会があったら、是非誘ってくださいね」


しかし私の理性がそう言った。

普通の人生を捨てるのか……それで本当に大丈夫なのか……と……!

内心は後悔している。めちゃくちゃ後悔している。

こんなツボにはまるイケメン、またいつ会えるのか……会えないかも……。


「そうですか……フラれてしまいました」

彼は肩を竦めて、残念そうに笑う。ちょっとお茶目な苦笑だった。

んんん……この笑顔、可愛い……きゅんとする……母性本能がくすぐられるタイプの笑み……好き……。


私は微笑んで会釈をして、背中を向けた。

この臆病者が!!と心の中で自分を罵倒した。


「ふうん、なるほどな。勇者の婚約者というだけある。なかなか賢いじゃないか」

高圧的で冷たい口調だ。けっこうな立場にいるのだろう。エリートか……。


ていうか、えっ?婚約者じゃないけど?

ハル、そんなこと言ってんの?言いふらしてんの?

一言も告白とかされてないし、微塵も約束とかしてないんだけど……えっ、怖っ……。
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