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魔王城に拉致られる

人質、着替える。

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「あれが勇者の婚約者か……」

「美人だな」

「俺はあんまりタイプじゃないかな」

「スタイルいいな」


ここは酒場か。

魔族に囲まれたわけだから一瞬は怖くなったものの、盛り上がり方があまりにもチープで気が抜けてしまった。

城ではあるけど社交界ではなさそうなことにも安心した。


「うるさい。魔王様の客人だ。無礼をするな」

怒鳴ることもなく、フェンリルは静かに言った。

それだけでスゥッと魔物たちは引いていった。

躾が行き届いている……民度が高い。



少し歩いた。すれ違う魔物から好奇の目を向けられるも、彼らは皆、静かにしていた。

階段を上がり、奥の部屋まで連れていかれる。

そこは洋服がずらっと並んだ部屋だった。



「マミ、連れてきた」

洋服の中からヌッと人影が出てくる。

顔に包帯巻いてた。男か女かもわからないガリガリの体格だ。腕や首は地肌だが、死体のようだ。黒髪が包帯の隙間から垂れている。

わりと怖い見た目。

しかし、見た目で怖がるのも失礼だから、怖がっていないふりをする。ニコニコする。


「こいつはマミー。魔王城のスタイリストだ。俺のスーツもマミが仕立てた」

「へえ……腕がいいんだ」


マミと目が合う。玉虫みたいな黒目がちの瞳だ。


「美人。スタイルがいい。肌もきれい。髪は少し痛んでる」

すきま風のようなヒュウヒュウとした声……やはり性別がわからない。

「二十分」


と、マミが宣言した通り、二十分で着替えからメイクからすべてが終了した。

最後に姿見鏡を見て驚く。

マミはプロだった。


「すごーい。私って美人だったんだなぁ……」

自分でそう言いたくなってしまう。

体型にピタッと合うシャンパンカラーのドレスに、華やかな化粧に、ほどよく抜け感と色気のあるヘアセット。

ほぼ別人に見えた。


「お前、いいモデル。いつでも来い」

「びっくりした。ありがと」

笑ってるっぽいので、私も笑い返す。


廊下に出ると、小忙しく早足でこっちに向かってきたフェンリルと目が合った。

ピタッと止まって、じっと見られる。

「見とれてる?」

「……魔王様がお待ちだ」

答えはなかった。そっぽを向かれた。
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