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魔王城に拉致られる

勇者、勘違い。

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「おい威厳ないぞ」

フェンリルがサイファを諌める。ものすごく親しげな、友達の距離感だった。

「もういいじゃん、キャラ作っても無駄だって。それにフェンだってタメ口だろ?」

「む……」

黙った。視線がそれた。反論なし。かわいい。


「ごめんね。でさぁ、どゆことなの?」

サイファはヘラヘラ笑って私に続きを促す。

すごい。全人口上位0.2%の顔がただの人懐こいチャラ男になった。

これ魔王?普通に町でナンパしてきそうだ。

いや、ちゃんと見ると、やっぱり顔は芸術的だな……。中身とのギャップがありすぎる。


「聞かれなくても言うよ。私だってちょっと怒ってるんだから……私とハルはただの幼馴染。まあ普通には仲良くしてたと思うけど。でもそれ以上じゃないよ」

「でも、勇者はことあるごとに故郷の婚約者って君のことをのろけてるよ。美人で可愛くて優しくて強くて頭がよくて、ちょっと強気で素直じゃないところがまたいいって。だからどんな可愛い子か気になってしょうがなかったんだよね」

というサイファに「実は俺も」とフェンリルは頷いた。


ゾッ……とした。

「こっっっわ……」

童貞特有の発想?いや私だって処女だった……。

どうしよう。怒りが恐怖に変わっていく。

私はもう、自分でも驚くようなか細い声しかでなかった。幼馴染みが怖い。


「そ、そんなつもりじゃ……ただの同情だったのに……なんかややこしいことになってる……」

「どうせ勘違いするようなことしたんだろ」

こちらにも失礼な勘違いをされている気がする。フェンリルにしたような言い回し、誰にだってするわけじゃないから。

でも今は弁解するより。


「だってあいつ、土下座して頼むから……」

「おっ?おぉっ?」

ものすごく調子のいい感じで食いついてきたサイファは、手でついたてを作り私の耳元でこっそりとこう言った。

「もしかしてセックス?」

想像妊娠しそうな美声である。

寄るな、美しすぎる。美の暴力だ。私はサイファをドンと押し返す。

「聞こえてる……聴きたくない……」

フェンリルは気まずそうだ。額に手を当てて頭痛そうにしていた。笑うにも笑えないし、想像してしまった、というところか。


「だって、そんな……旅に出る前の晩に土下座して……私にしか頼めないって……旅に出たら死ぬかもしれないし、お別れの思い出くらいならいいかなって……」

「もう結婚してやれよ。可哀想だろ。痛々しくて聞いてられないぞ……」

魔王軍四天王第一側近兼執事長に同情される勇者とは一体?
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