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魔王の言い分

人質、魔王城での一日を終える。

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「こっちだ、ついてこい」

チラとこちらを振り返るフェンリルの横に並ぶ。

「ね、ね、明日からも面倒見に来てくれる?」

「俺は魔王様の執事だぞ。そんな時間はない。俺の部下をつけるからそれで我慢しろ」

「え。ほったらかし?」

「顔は出す」

「なにそれ。そっちが連れてきたんだからちゃんと構え!こちとらお客さんだ!」

折角だからその顔を毎日拝みたいんだ!力づくでも人生で一度はしてみたい素敵な恋に持ち込んでやる!


「お前、ペース狂うんだよ」

私を見下ろす顔はどこか困ったように片眉が下がっていた。中指で眼鏡を押し上げて前を向く。

「ほら、置いてくぞ」

わざと歩くペースをあげてさっさと先に進むフェンリル。

歩幅が違う。小走りで追いかける。

「迷子になったらどうすんの!」

「さあね。誰かが助けてくれんじゃないのか。まあ、せいぜい付いてくることだな」

口の端を釣り上げてフェンリルは意地悪に笑った。

ンンッ……すべて許す!こういうの好き!多少なりともいじめられたい願望はある!同じくらい人をからかうのも好きだけど。



ということで、結構歩かされたし階段も登った。



「ここだ」

フェンリルが扉を開けてくれた。

それはもう綺麗な部屋だった。

牧歌的な農村の住人にはちょっと異世界すぎて……画展で見たお金持ちの世界そのままだった。玄関から内装見て想像できる通り、魔王城の客室だから豪華でおかしくない。

すごいという前に、逆に居心地が悪い……。な、なんだ?気おくれする……!私、ただの農民なのに、一生味わうはずのない贅沢が目の前にある……自分の価値観が揺らいでいく……。

「好きに過ごしてくれ。何かあったらそこのベルか……」

と言うフェンリルの腕を掴む。

「ま、待って、生活観違いすぎて怖い、私牢屋でいい、たぶん牢屋くらいでちょうどいい」

「はあ?何言ってんだ?」

「でなきゃ家に帰して!」

「そりゃダメだ」

「いや!おうちかえる!いやー!!」

「なに駄々こねてんだよ!わけわかんねぇ!」


今日一番喚いた。久しぶりに人前で取り乱した気がする。
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