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勇者の恐怖

繕い話(ここまでのまとめ)

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午後は元気になったので、マミのお手伝いをさせてもらった。誰の服かわからないけど、ぼろぼろになったズボンの裾を繕う。

「あれ?これフェンリルのスーツ?」

見覚えがある。他の執事も同じのを着ているけど、オーダーメイドなだけあって裏地が思い思いなのだ。フェンリルのは深ワインにドットの織り柄。面白味がないくらいにフッツー。

「昨日、袖、斬れた。直した。勇者つよい」

「ほほ~」

互角くらいか……圧倒的な力でねじ伏せて恐怖を刻み込んだりしないと、対抗できない気がするぞ……。

マミは繕い途中のエプロンドレスを置いて、私の前まで小走りでやってきた。

「勇者のこと、心配?」

「なんで?」

もしかして私がハルの婚約者じゃないこと、極秘にされてる?

言っちゃダメかな……いや、やつらの作戦なんか知るか。説明されてないことの空気を読む必要、なし!

「幼馴染、信じてる……でも、揺れ動く思い……!」

マミの喉が焼けたような声がワントーン上がった。盛り上がっている。

「違う違う。婚約してない、ただの幼馴染。あっちが一方的に付きまとってるの」

「すごい……勇者と、魔王様で、奪い合い……!?」

キラキラした目のマミに泥沼な話はしたくなかった。

勇者はストーカーだし……一度きりとは言え肉体関係はあるし……魔王はただの女たらしで何考えてるかわかんないし……ろくでもない男がいいポストについてる。

「でも今はフェンリルかな。これからもフェンリルかも~」

フェンリルはまともだ。気にくわないところは私がいいように矯正すればいい。顔のよさと真面目さと生活の保証さえあれば私は文句を言うつもりはない。

がしっ、と、マミが私の手を握った。冷たい手だ。

「次の話、待ってる……!」

「連載小説じゃないってば」

正直、この話をして私のことを嫌なやつだと思わないマミ、本当にいい子だと思う。
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