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攻略中2

執事、気苦労が絶えない。

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仕事終わりに例の魔王様専用のバーで飲んでいる。

仕事には慣れた。好きなお酒とおつまみも見つかった。マミに似合った化粧の仕方と服の選び方も教わって、前より女子力が上がった。可愛すぎるかも……と思っていたピンク色の服を堂々と着れるようになったことがうれしい。

地味な田舎娘という今までの私から、都会派の職業婦人まで洗練されたと思う。廊下を通ると魔物に挨拶されるようにもなったし、マミの噂によるとファンクラブもできているとか。どや?

畑を耕すのも好きだけど、お勤め暮らしもいいかもしれない。普通に毎日楽しい。魔王城生活をエンジョイしている。


「仕事のあとのアルコールは至高ですなぁ」

「お前は楽しそうでいいなぁ……」

フェンリルはここしばらくげっそりとしてる。死んだ目を向けられた。

「楽しいよ? 今までフェンリルがしてた秘書の仕事は私が代わってるんだから、疲れた顔しないでよ」

「これは気疲れだ。なんで俺はあんなに一生懸命になっていたんだか……」

いまだに私が一回死んだ時のことを引きずっているのだ。生真面目故か、一度落ち込むと立ち直りは極めて遅いらしい。

「あら。私は嬉しかったけど」

「はいはい。お前は人を振り回すのが好きだからな……まぁ、命知らずが消えてよかったよ」


あれ以来、警戒していた暗殺沙汰はなりをひそめた。マミ情報によると、私は殺しても死なない女と呼ばれている。

魔界の敵方にも、魔王がなかなか死なないことが周知になったようだ。あとは勇者くらいしか狙うところがないな……という感覚らしく、近頃はハルたちの戦いが激化している。

しかしそれこそサイファの狙い通りであり、ハルたちはどんどん強くなって魔王城に自力で入ることができるところまで成長しているらしい。

ハルとの再開も目前なのだろう。


なお、私は村に帰る気はゼロである。このまま魔王城に落ち着こうと思っている。

先日サイファに相談したところ、城の間取り図を出してきて「どの部屋が欲しい?調度品とかも用意するけど」と非常に前向きな回答をいただいた上で給料の計算から福利厚生の話までしてもらった。

こちらもこちらで帰す気ゼロだった。


クスリとサイファが笑い、ペラ、と紙を捲る音が聞こえた。

つい先ほど到着したシープからの報告書を読んでいるのだ。村暮らしをはじめて3通目の手紙である。

「はい、見ました。すごくいい調子だよ。きゅんきゅんしてきた」

「きゅんきゅんするの?」

「まあ読んでみそ!」

開き癖のついた二つ折りの手紙を差し出される。

フェンリルにも見えるように机の上へ広げて、頭がぶつかるくらいの距離まで顔を近づけて内容を確認する。毎度ながら、細くて綺麗な文字を書く人である。


要点をまとめよう。

『戦況はけっこう厳しい。増員が欲しい。』

残念なことだけど、まだ村には危害が及んでいないということだ。

『村の人たちが優しい。ずっと住みたい。』

どうぞどうぞ。若者の流出にあえぐ田舎にとってはありがたい限りだ。

『畑いじりが楽しい。天職だと思う。争いが終わったら農夫になりたい。』

両親の土地、君になら譲るよ!だってめちゃくちゃいい人だから!

『魔物が人間に恋をすることは許されるでしょうか。』

あっ……!


私は顔を覆う。にやけがピークに達してしまった。

「きゅんきゅんする……」

「でしょ!あーがんばってきてよかった。こういうみんなの幸せのために仕事してるんだよ、僕はさぁ」

「あのね、友達は体が小さいのよ。私の目の位置に頭があるの。きっとすごく可愛いカップルになると思う」

「でもすごく体格差あるね。……エッチのとき大丈夫なのかな?」

そう言われると、とても心配になってしまう。

熊さんみたいな体格だ。優しい人だけど、色々と大きそうな気が……一方、私の友人は小柄で華奢で引っ込み思案である。お似合いだとは思うけど……思うけど……!

「わ、私、専門家じゃないから知らないわよ……」

「体が小さいからあそこが小さいとは限らないんだけどさぁ」

「酔っぱらってるわね!酔っぱらってるでしょ!やめなさい!」

思わず力いっぱい肩を叩いてしまった。バチン!といい音が鳴る。

フェンリルが「ナイスビンタ」と呟いて小さく拍手をした。

「ごめんごめん。僕をぶん殴れるのはレミィちゃんとフェンくらいだよ、本当」

サイファはへらへら笑ってグラスをあおった。


フェンリルが不思議そうに顔を覗き込んでくる。眼鏡越しの目がまじまじと私を見つめた。

「レミール、言葉遣いが丸くなったな。前なら『やめろ!』だったぞ」

「職業柄かしらね。女は変わるものよ」

なるほど、と深い頷きが返ってくる。

「環境適応能力というものか。凄いな。俺はなかなか変われない……」

「なんか悩み?」

「大したことじゃない」

突っぱねるようにフェンリルは言い、グラスを一気に空にする。

サイファがニヤニヤ笑いながらその姿を見ていた。
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