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攻略中2
村人、食べられかける。2
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「は?おい……」と控えめに制止するフェンリルの声を聴かないふりして、服を脱ぐ。
ジャケットを脱ぎ、ブラウスのボタンを一つ一つ外す。
「酔っぱらったせいかな、したくなっちゃった。ほら、私、嫌いな男にも抱かれる淫乱な女だから」
そんな誘い文句を言う自分はあまり好きではなかった。売り言葉に買い言葉はよくない。自分が嫌いになるようなことはしたくないのに。お酒は怖い。
格式高い貴族はまだコルセットなどの下着を着用していると聞くけれど、昨今の流行はブラジャーとショーツだ。すっかりブラウスの前を開くと、おへその辺りがひんやりとした。
男の人の前でこんなに肌をさらすのは初めてというわけではない。でも、馴れているわけではない。
恥ずかしくて視線を自分の膝へと落とす。バスタオル一枚で出てきたこともあったけれど、今はちょっとわけが違う。
相手も酔っているせいだろうか。まるで視線が素肌をそっと撫でるようだ。それだけで体が火照った。
「……くそ」
嫌な感情を吐き捨てるような呟き。サイファは眼鏡を外して、適当に放り投げた。
えっ?壊れない?思わず眼鏡を目で追っていたら、強い力で肩を掴まれる。そのままソファに押し倒された。
「どうされたい?」
眼鏡がないと少し顔がきつくなる。実はやや三白眼だということに気がついた。
悪くない……けど、動けない状態で威嚇するように睨まれると、ただ怖くなってしまう。
「煽るくらいだから好きにされてもいいってことか」
「……ん」
頷くだけで精一杯だった。自分でもどうなって欲しいのかわからなくなっていた。少し期待はしているし、引っ込みはつかなくなっている。
真っ直ぐ見ていられなくて、視線をそらした。
ちゅ、と首筋に吸い付かれる。少し湿って生暖かい唇が薄い皮膚に触れるのは、くすぐったいような、気持ちいいような。胸のあたりがザワザワとする。
チクリとした痛みを伴い、軽いリップ音はゆっくりと下っていく。
「ひゃっ」
暖かい舌がぬるりと鎖骨の窪みを這い、ゾクゾクッと体が震えた。思わず声が溢れてしまい、恥ずかしさでカッと顔が熱くなる。
「色気のない悲鳴だな。もっと誘ってみろよ」
仕返しのように耳元へささやかれる。低い声が腰に響く。
体はすっかり抱かれたがっていて、お腹の奥がたまらなく疼いた。
「あっ……!」
太ももを割るように膝が差し込まれる。
足の間をグッと押されるとおへその下が甘く痺れた。磔のように動けない。
どうしよう。怖くなってきた。
どんなに好きな相手でもきっと痛いのだ。まだ体が性交渉に慣れていないのだから。
目を閉じる。きっと我慢していれば終わる。
長いため息と共に、フェンリルの体が離れていく。重みは私の体の上から隣へと移動した。
あれっ?
「嘘はよくないな。震えてるじゃないか」
優しく頭を撫でられる。ちょっとなにが起こっているのかわからない。
恐る恐る顔を伺う。
眼鏡はないけど、いつものフェンリルだ。困ったように眉を下げている。
「そんな怯えた目で見るなよ」
「……脅かしたの?」
「さあ?どうだろうな。俺も男だから」
気恥ずかしそうに顔をそらすと、フェンリルはブランケットを投げてきた。かけろ、ということらしい。
ダメだ。こんなのダメだ。心臓がきゅんきゅん言って苦しい。
「ううう……好き……!やっぱり抱いて……!」
広い背中に抱きついて、頬擦りした。もう何されてもいい。抱いて。
「やめやめ!しがみつくな!」
「やだ……好きぃ……フェンリルの彼女になるぅ……彼女にしてよぉ」
駄々こねるように、腕へめいっぱい力を込めた。
さすがに振り払えないらしく、大袈裟なため息が聞こえた。
「お前、あんだけ言ってても勇者のこと嫌いになりきれてないだろ」
「え。そんなの……なんで今?」
「土下座ごときで抱かせるほどプライドの低い女じゃないからだよ」
これは高く買われている。それとも私に好かれてる自信か。
でも……まあ、そうなんだよな。
死んじゃうかもしれないし。幼馴染だし。村から出たら、帰ってこないかもしれないし。他に女を作っちゃうかもしれないし。私なんか興味がなくなってしまうかもしれないし。
めちゃくちゃなところもあるけれど、私のことをずっと大好きでいてくれたのだ。それはもう、隠している頭のおかしいところをうっかり見せてしまうくらいに、がむしゃらに。
一回くらいは抱かれてもいいか、と絆されてしまうのも仕方がないと思っている。
もちろん素直に好きでい続けられない相手だ。ものすごく好きと言うわけでもない。だから、過ごした時間分の情を、嫌いなところだけ思い出して断ち切ろうともした。
まあ、今はフェンリルの方が好きだけど。
……実際にハルと再開して、 前と変わらずに好き、結婚してくれなかったら死んでやると言われたら、悩むことになるのだろうか。わからないけど……。
「そゆこと言う……」
意地が悪い。
「お前と仕事を天秤にかける。本当に俺のものにならないなら、俺は仕事をとる」
噛み砕けば、据え膳を差し出されても、身も心も全部自分のものにならなければ嫌だと言うのだ。なんという俺様志向。
「……プライドが高いのはどっちよ」
でも、そういうツンとしたところがたまらないのである。泥沼だ。
ジャケットを脱ぎ、ブラウスのボタンを一つ一つ外す。
「酔っぱらったせいかな、したくなっちゃった。ほら、私、嫌いな男にも抱かれる淫乱な女だから」
そんな誘い文句を言う自分はあまり好きではなかった。売り言葉に買い言葉はよくない。自分が嫌いになるようなことはしたくないのに。お酒は怖い。
格式高い貴族はまだコルセットなどの下着を着用していると聞くけれど、昨今の流行はブラジャーとショーツだ。すっかりブラウスの前を開くと、おへその辺りがひんやりとした。
男の人の前でこんなに肌をさらすのは初めてというわけではない。でも、馴れているわけではない。
恥ずかしくて視線を自分の膝へと落とす。バスタオル一枚で出てきたこともあったけれど、今はちょっとわけが違う。
相手も酔っているせいだろうか。まるで視線が素肌をそっと撫でるようだ。それだけで体が火照った。
「……くそ」
嫌な感情を吐き捨てるような呟き。サイファは眼鏡を外して、適当に放り投げた。
えっ?壊れない?思わず眼鏡を目で追っていたら、強い力で肩を掴まれる。そのままソファに押し倒された。
「どうされたい?」
眼鏡がないと少し顔がきつくなる。実はやや三白眼だということに気がついた。
悪くない……けど、動けない状態で威嚇するように睨まれると、ただ怖くなってしまう。
「煽るくらいだから好きにされてもいいってことか」
「……ん」
頷くだけで精一杯だった。自分でもどうなって欲しいのかわからなくなっていた。少し期待はしているし、引っ込みはつかなくなっている。
真っ直ぐ見ていられなくて、視線をそらした。
ちゅ、と首筋に吸い付かれる。少し湿って生暖かい唇が薄い皮膚に触れるのは、くすぐったいような、気持ちいいような。胸のあたりがザワザワとする。
チクリとした痛みを伴い、軽いリップ音はゆっくりと下っていく。
「ひゃっ」
暖かい舌がぬるりと鎖骨の窪みを這い、ゾクゾクッと体が震えた。思わず声が溢れてしまい、恥ずかしさでカッと顔が熱くなる。
「色気のない悲鳴だな。もっと誘ってみろよ」
仕返しのように耳元へささやかれる。低い声が腰に響く。
体はすっかり抱かれたがっていて、お腹の奥がたまらなく疼いた。
「あっ……!」
太ももを割るように膝が差し込まれる。
足の間をグッと押されるとおへその下が甘く痺れた。磔のように動けない。
どうしよう。怖くなってきた。
どんなに好きな相手でもきっと痛いのだ。まだ体が性交渉に慣れていないのだから。
目を閉じる。きっと我慢していれば終わる。
長いため息と共に、フェンリルの体が離れていく。重みは私の体の上から隣へと移動した。
あれっ?
「嘘はよくないな。震えてるじゃないか」
優しく頭を撫でられる。ちょっとなにが起こっているのかわからない。
恐る恐る顔を伺う。
眼鏡はないけど、いつものフェンリルだ。困ったように眉を下げている。
「そんな怯えた目で見るなよ」
「……脅かしたの?」
「さあ?どうだろうな。俺も男だから」
気恥ずかしそうに顔をそらすと、フェンリルはブランケットを投げてきた。かけろ、ということらしい。
ダメだ。こんなのダメだ。心臓がきゅんきゅん言って苦しい。
「ううう……好き……!やっぱり抱いて……!」
広い背中に抱きついて、頬擦りした。もう何されてもいい。抱いて。
「やめやめ!しがみつくな!」
「やだ……好きぃ……フェンリルの彼女になるぅ……彼女にしてよぉ」
駄々こねるように、腕へめいっぱい力を込めた。
さすがに振り払えないらしく、大袈裟なため息が聞こえた。
「お前、あんだけ言ってても勇者のこと嫌いになりきれてないだろ」
「え。そんなの……なんで今?」
「土下座ごときで抱かせるほどプライドの低い女じゃないからだよ」
これは高く買われている。それとも私に好かれてる自信か。
でも……まあ、そうなんだよな。
死んじゃうかもしれないし。幼馴染だし。村から出たら、帰ってこないかもしれないし。他に女を作っちゃうかもしれないし。私なんか興味がなくなってしまうかもしれないし。
めちゃくちゃなところもあるけれど、私のことをずっと大好きでいてくれたのだ。それはもう、隠している頭のおかしいところをうっかり見せてしまうくらいに、がむしゃらに。
一回くらいは抱かれてもいいか、と絆されてしまうのも仕方がないと思っている。
もちろん素直に好きでい続けられない相手だ。ものすごく好きと言うわけでもない。だから、過ごした時間分の情を、嫌いなところだけ思い出して断ち切ろうともした。
まあ、今はフェンリルの方が好きだけど。
……実際にハルと再開して、 前と変わらずに好き、結婚してくれなかったら死んでやると言われたら、悩むことになるのだろうか。わからないけど……。
「そゆこと言う……」
意地が悪い。
「お前と仕事を天秤にかける。本当に俺のものにならないなら、俺は仕事をとる」
噛み砕けば、据え膳を差し出されても、身も心も全部自分のものにならなければ嫌だと言うのだ。なんという俺様志向。
「……プライドが高いのはどっちよ」
でも、そういうツンとしたところがたまらないのである。泥沼だ。
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