征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
4 / 108
開戦前

第4話 ハワイ作戦阻止

しおりを挟む
 生沢長官が「翔鶴」を視察したその翌日。
 連合艦隊司令長官の山本大将が同艦を訪れていた。

 「言っていただければ、私の方から出向きましたものを」

 そう言って生沢長官は恐縮した態度を見せつつ、山本長官にソファに座るよう促す。
 もちろん、それは外面の話であって、生沢長官はまったく恐縮などしていない。
 むしろ、面倒事に巻き込みやがってと、心中では毒づいている。

 「いや、私も帝国海軍のこれからを背負う新鋭空母をこの目で見ておきたかったからな。ちょうど良い機会だった」

 気にするなといった笑みを見せる一方で、山本長官はさっそくとばかりに本題を切り出す。

 「ところで、ハワイ作戦についてはこれを考えてもらえただろうか」

 開戦劈頭、空母艦上機をもって真珠湾に在泊する太平洋艦隊に大打撃を与える。
 そのことによって米国民の継戦意思を一気に刈り取る。
 これが山本長官が言うハワイ作戦の概要であり、またそれを実施することは彼の信念でもあった。

 「結論から先に言えば、私は反対です」

 生沢長官の答えを半ば予想していたのだろう。
 山本長官のほうは特に落胆した様子を見せることもなく、目でその先を促す。

 「ハワイ作戦は米国民から無用の敵意や憤激を買うことが分かりきっています。開戦劈頭の奇襲は容易に騙し討ちに置換できますから、米政府あるいは米大統領はそのことを徹底的に利用するでしょう。これによって日本に対する敵愾心は絶頂を迎えるはずです。そして、そのことは講和へのハードルを著しく高める結果になってしまう。
 それに、逆の立場になって考えてみてください。仮に横須賀かあるいは呉を奇襲されて艦隊の半数を失ったとします。それで帝国海軍軍人それに日本人の心が折られると思われますか」

 山本長官が推し進めるハワイ作戦は、関係者らには南方作戦を成功裡に導くための支作戦と思われている。
 しかし、山本長官のほうはそのことよりも米国民に与える心理的ダメージのほうを重視していた。
 しかし、生沢長官のほうはその効果が無いどころか、むしろ講和の邪魔になるとさえ言っている。

 「貴官の言うことは一理有る。確かに横須賀や呉が襲われ、艦隊の半数を失ったとしても我々の心が折れるようなことは決してあり得ないだろう。しかし、相手は米国だ。贅沢に慣れきった米国人と忍耐強い日本人を一緒にするのは、同じ人間とは言えども少しばかり無理があるのではないか」

 山本長官は日米の間には経済力や工業力、それに科学力に隔絶した力の差があることを承知している。
 しかし人間力、なにより精神力については日本人のほうが明らかに上だと考えている。
 勇敢な日本人は最後まで戦い抜き、逆に米国人のほうは怯懦ゆえにあっさりと手を上げるのだと。

 「何か誤解があるようですが、米国人は怠惰でも惰弱でもありませんよ。新しいことを始めるにあたっての創造力、問題が起きた際の改善すべきポイントを見抜く力、それにトラブル解決のための粘り強さや忍耐力は日本人のそれとは次元が違う。それは西部開拓や独立戦争といった歴史的事実によって証明されています。
 逆に、ちょっとした失敗や、あるいは少しばかり追い詰められてしまっただけで容易にギャンブルに走ったり、あるいは自暴自棄に陥ったりしてしまう日本人とは人間としての心の強さがあまりにも違い過ぎる」

 山本長官は日米間における格差について、生沢長官との間に認識のズレが有ることを思い知らされる。
 自分は経済力や工業力といった分かりやすい国力差を気にしていた。
 しかし、一方の生沢長官のほうは人間力の差こそを重視している。
 これは微妙なようでいて、実際のところは大きな違いともいえる。
 それと、山本長官は生沢長官の言うギャンブルとは、実のところハワイ作戦のことを皮肉っているのではないかと勘ぐっていた。
 しかし、そんな彼の胸中を知ってか知らずか、生沢長官は話を続ける。

 「それに精神力だけでなく、実際の能力も違います。まず、自動車を運転できる人間が日本と比べて桁違いに多い。だから、我が国のように免許保有者のそのことごとくが陸軍にしょっぴかれることもない。そのうえ、飛行機のライセンス持ちだって珍しくありません。高等教育を受けた人間の数も段違いです。科学者や技術者の数に至ってはその差はさらに隔絶します。そのうえ、銃社会だから銃器の扱いに慣れた者も多い」

 中国との戦争が始まって以降、帝国陸軍は徴兵によって少なくない国民を大陸に送り込んでいる。
 その中でも運転免許を保有している者が徴兵される確率は、一般のそれと比べて非常に高かった。
 帝国陸軍の中で自動車を動かせる人間が少ないことから、その不足分を民間のそれで補おうという魂胆だ。

 そして、流通を支える人手が陸軍に取られたことで、日本経済は少なくないダメージを被っている。
 ただ、そのことを生沢長官は事細かく話すつもりは無かった。
 今は、米国人よりも日本人のほうが優れていると考えている山本長官の思い違いを指摘するだけで良い。
 それに、本命はこれから話すことだ。

 「次に戦術面についてお話させていただきます。長官がおっしゃるハワイ作戦ですが、その攻撃対象となるオアフ島には間違いなくレーダーが、しかも複数設置されているはずです。実際、欧州ではドイツと英国がレーダーを用いた早期警戒システムの構築と、さらにそれを活用した航空管制によって航空機同士の戦いにしのぎを削っている最中です。
 残念ですが、現代の空の戦いにおいて、飛行機による奇襲効果が期待できるのはレーダーが十分に配備されていない技術後進国くらいのものでしょう。つまり、オアフ島に対する奇襲は相手によほどのヒューマンエラーかあるいは致命的な機械トラブルでも起きない限り、成立はしません」

 現在、欧州では英国やドイツ、それにイタリアやソ連がそれこそ血で血を洗う国家的抗争、つまりは戦争の真っ最中だった。
 そして、生沢長官はそこに付け込むかのようにして様々な戦術や戦訓を学び取っていた。
 レーダーを活用した早期警戒システム、それに伴う航空管制といった技術や戦術もまたそのうちの一つだ。

 そして、帝国海軍にそれらの導入を強く推し進めてきたのもまた生沢長官だった。
 このことで、これまで軽視されてきた航空無線の改良が進み、機体への取り付け方の工夫とも相まって、零戦のそれは十分に実用に耐えられるものになっている。
 また、電探についても開発が加速され、現在は戦艦「伊勢」と空母「翔鶴」がこれを装備、同機材の実用化実験が進められている。

 いずれにせよ、レーダー最先進国の英国と同盟関係にある米国であれば、間違いなく太平洋最大の要衝であるオアフ島にもこれを配備していることは間違いない。
 生沢長官の懸念は、現代の科学技術に通じた者であれば至極当然のものだとも言えた。

 一方、戦略や戦術の不備、それに日米の人材面における考えの至らなさを指摘された山本長官のほうは、ハワイ作戦に対する自身の信念が揺らぐのを感じていた。
 そのことで、彼は無意識のうちにハワイ作戦を置き換える代替案のようなものが有るのかどうかを生沢長官に尋ねてしまう。
 生沢長官によってすでに思考誘導されているとも知らずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

超克の艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」 米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。 新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。 六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。 だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。 情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。 そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

処理中です...