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開戦前
第11話 艦隊出動
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昭和一六年一一月五日。
連合艦隊司令長官に向けて対米英蘭開戦準備を命じる大海令一号が発令された。
これを受け、帝国海軍は従前から予定されていた艦隊の大幅な編成替えを実施、戦時態勢へと移行した。
これらのうち、太平洋艦隊との決戦の矢面に立つ第一艦隊とそれに第二航空艦隊には新しい巡洋艦や駆逐艦が優先してその編成に加えられた。
逆に南方作戦のほうは旧式あるいは戦力の小さなものを主としてそれらが配備されている。
それと、第一航空艦隊ならびに第二航空艦隊については、これが臨時編成のままだった。
南雲一航艦司令長官それに生沢二航艦司令長官が望んでやまない建制化については、第一段作戦が終了した後にこれを検討することとされていた。
また、これまで戦艦「長門」で作戦の指揮を執っていた連合艦隊司令部は、その機能を陸上に移している。
これは、「長門」を戦船として十全に活用するための措置だった。
太平洋艦隊迎撃部隊
第一艦隊(高須中将)
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
重巡「熊野」「鈴谷」
軽巡「那珂」「北上」「大井」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」
第二航空艦隊(生沢中将)
「翔鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
「瑞鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
「雲鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
「神鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「神通」
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
南方作戦
本隊
第二艦隊(近藤中将)
戦艦「金剛」「榛名」
重巡「愛宕」「高雄」
軽巡「阿武隈」
駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「白露」「時雨」
フィリピン空襲部隊
第一航空艦隊(南雲中将)
「赤城」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「加賀」(零戦三九、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「蒼龍」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「飛龍」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「瑞鳳」(零戦一八、九七艦攻九)
重巡「最上」「三隈」
軽巡「川内」
駆逐艦「秋雲」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
フィリピン攻略部隊
第三艦隊(高橋中将)
「龍驤」(零戦一八、九七艦攻一五)
重巡「摩耶」「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」
軽巡「名取」「鬼怒」
駆逐艦「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」「朧」「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」「電」「睦月」「如月」「弥生」「卯月」
マレー攻略部隊
南遣艦隊(小沢中将)
戦艦「比叡」「霧島」
重巡「鳥海」「青葉」「衣笠」
軽巡「長良」「由良」
駆逐艦「吹雪」「白雪」「初雪」「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」
グアム攻略支援部隊
重巡「古鷹」「加古」
軽巡「夕張」「天龍」「龍田」
駆逐艦「菊月」「三日月」「望月」「夕月」
香港攻略支援部隊
軽巡「五十鈴」
駆逐艦「皐月」「水無月」「文月」「長月」
空母と戦艦がそれぞれ一〇隻、それに三二隻の巡洋艦ならびに八〇隻の駆逐艦からなる一大戦力だった。
これら以外にも水上機母艦をはじめ、多数の艦艇が参加している。
このうち、生沢長官が指揮する二航艦は第一艦隊とともに本土で待機。
太平洋艦隊が西進の動きを見せた段階で本土から出撃することになっている。
「各空母ともに艦上機隊については、どうにか定数を満たすことができました。まあ、このことで本土の防空戦力がガタ落ちになってしまいましたが、そこは我々が頑張ればいいでしょう」
生沢長官の元に報告に来た志津頼航空甲参謀だが、その声音には安堵の色が滲んでいる。
実のところ「翔鶴」型空母は艦上機の定数について、常用機のほうは艦戦が二七機に艦爆と艦攻がそれぞれ四五機の合わせて一一七機とされていた。
しかし、このことを知った生沢長官は艦爆と艦攻を減らす代わりに艦戦を増強するよう上層部に訴えた。
艦戦の比率がわずかに二三パーセントというのは、生沢長官の常識ではあり得ない低さだったからだ。
制空権の獲得を何よりも重視する生沢長官としては、全体の半数以上は艦戦で固めておきたかった。
それに、そもそもとして艦戦がわずかに二七機だけでは艦爆や艦攻の護衛を務めるのが精いっぱいで、とても艦隊防空の任にまでは手が回らない。
そこで生沢長官は艦爆と艦攻についてはそれぞれ五個中隊だったものを三個中隊に減らし、逆に艦戦については三個中隊から一気に七個中隊に増勢するよう求めた。
このことで、戦闘機を防御兵器だと勘違いしている連中からは敢闘精神に欠けるなどといった陰口を叩かれたりもした。
しかし、生沢長官のほうは艦爆や艦攻を使って敵艦を沈めることよりも、むしろ艦戦によって制空権を奪取することこそが空母の本務だと考えていたから、そう言った陰口を気にするようなことは無かった。
そして、軍令部や海軍省を巻き込んで侃侃諤諤ときには喧喧囂囂となった議論は、連合艦隊司令長官である山本大将の取り成しによって一応の決着をみた。
艦爆と艦攻についてはこれをそれぞれ一個中隊減らし、その一方で艦戦を二個中隊増強するというものだった。
まさに日本的、絵に書いたような折衷案だった。
いずれにせよ、このことで「翔鶴」型空母については艦戦が二七機から四五機に増え、一方で艦爆と艦攻についてはそれぞれ四五機だったものが三六機に減った。
そして、艦戦の増加分に伴う機材と人員を確保するために、志津頼航空甲参謀は海軍省の人事局員らとともに奔走していたのだ。
「ご苦労。憎まれ役を押し付けてしまって済まなかったな」
労いと謝罪が混じった生沢長官の言葉に、志津頼航空甲参謀は小さくかぶりを振る。
「まあ、確かに熟練や中堅を二航艦に引き抜かれることになった本土防空隊の関係者からは顰蹙を買いましたが、しかし練習航空隊の連中にはたいそう感謝されましたよ。一時的とはいえ練習航空隊に母艦勤務が可能な腕利きが、しかもそれが七二ペアも送り込まれたのですから」
四隻の「翔鶴」型空母から降ろされたそれぞれ三六機の艦爆と艦攻の搭乗員は、一時的に練習航空隊での勤務を命じられていた。
そして、そこで教官や教員の手伝いをすることになっている。
一方、人員不足のためにロクに休みを取ることが出来なかった練習航空隊の教官や教員らにとっては、二航艦から送り込まれてきた艦爆や艦攻の搭乗員は、それこそ干天の慈雨にも等しい存在となっていた。
「そう言ってもらえると、こちらとしても助かる」
自分に気を遣ってくれている志津頼航空甲参謀に感謝しつつ、生沢長官は太平洋艦隊との戦いに思いを馳せている。
帝国海軍は主力である一航艦をフィリピン戦線に投入する。
それだけでなく、四隻の「金剛」型戦艦もまたサイゴン沖やマレー沖に展開させる。
他にも一二隻の重巡をはじめ、多数の艦艇が同戦域で作戦行動に従事する。
そして、それは太平洋正面を守る戦力の弱体化と同義だ。
こういった状況を、太平洋艦隊の指揮官が見逃すはずがない。
南方作戦が終わらないうちに必ず仕掛けてくるはずだ。
我が全力をもって敵の分力を討つのは兵法の基本中の基本。
太平洋艦隊の指揮官もそのことは十分に心得ていることだろう。
だが、帝国海軍はその常識を逆手に取る。
つまりは、南方作戦そのものが太平洋艦隊を誘引するための罠でもあるのだ。
(太平洋艦隊の将兵らはこちらの戦力の配備状況から逆算して、自分たちのほうが優勢だと思い込むことだろう。しかし、それは大きな間違いだ。我々は遠慮なくそこに付け込ませてもらう)
生沢長官は決して米国との戦争は、これを望むものではない。
しかし、自身が世界の大きな流れに抗し切れないちっぽけな存在であることもまた理解している。
(ならば、せめて日本がより良い形で終戦を迎えられるよう尽力するのみ)
そう固く誓う。
日米の血で血を洗う戦いは、目前まで迫っていた。
連合艦隊司令長官に向けて対米英蘭開戦準備を命じる大海令一号が発令された。
これを受け、帝国海軍は従前から予定されていた艦隊の大幅な編成替えを実施、戦時態勢へと移行した。
これらのうち、太平洋艦隊との決戦の矢面に立つ第一艦隊とそれに第二航空艦隊には新しい巡洋艦や駆逐艦が優先してその編成に加えられた。
逆に南方作戦のほうは旧式あるいは戦力の小さなものを主としてそれらが配備されている。
それと、第一航空艦隊ならびに第二航空艦隊については、これが臨時編成のままだった。
南雲一航艦司令長官それに生沢二航艦司令長官が望んでやまない建制化については、第一段作戦が終了した後にこれを検討することとされていた。
また、これまで戦艦「長門」で作戦の指揮を執っていた連合艦隊司令部は、その機能を陸上に移している。
これは、「長門」を戦船として十全に活用するための措置だった。
太平洋艦隊迎撃部隊
第一艦隊(高須中将)
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
重巡「熊野」「鈴谷」
軽巡「那珂」「北上」「大井」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」
第二航空艦隊(生沢中将)
「翔鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
「瑞鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
「雲鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
「神鶴」(零戦四五、九九艦爆三六、九七艦攻三六)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「神通」
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
南方作戦
本隊
第二艦隊(近藤中将)
戦艦「金剛」「榛名」
重巡「愛宕」「高雄」
軽巡「阿武隈」
駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「白露」「時雨」
フィリピン空襲部隊
第一航空艦隊(南雲中将)
「赤城」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「加賀」(零戦三九、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「蒼龍」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「飛龍」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「瑞鳳」(零戦一八、九七艦攻九)
重巡「最上」「三隈」
軽巡「川内」
駆逐艦「秋雲」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
フィリピン攻略部隊
第三艦隊(高橋中将)
「龍驤」(零戦一八、九七艦攻一五)
重巡「摩耶」「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」
軽巡「名取」「鬼怒」
駆逐艦「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」「朧」「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」「電」「睦月」「如月」「弥生」「卯月」
マレー攻略部隊
南遣艦隊(小沢中将)
戦艦「比叡」「霧島」
重巡「鳥海」「青葉」「衣笠」
軽巡「長良」「由良」
駆逐艦「吹雪」「白雪」「初雪」「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」
グアム攻略支援部隊
重巡「古鷹」「加古」
軽巡「夕張」「天龍」「龍田」
駆逐艦「菊月」「三日月」「望月」「夕月」
香港攻略支援部隊
軽巡「五十鈴」
駆逐艦「皐月」「水無月」「文月」「長月」
空母と戦艦がそれぞれ一〇隻、それに三二隻の巡洋艦ならびに八〇隻の駆逐艦からなる一大戦力だった。
これら以外にも水上機母艦をはじめ、多数の艦艇が参加している。
このうち、生沢長官が指揮する二航艦は第一艦隊とともに本土で待機。
太平洋艦隊が西進の動きを見せた段階で本土から出撃することになっている。
「各空母ともに艦上機隊については、どうにか定数を満たすことができました。まあ、このことで本土の防空戦力がガタ落ちになってしまいましたが、そこは我々が頑張ればいいでしょう」
生沢長官の元に報告に来た志津頼航空甲参謀だが、その声音には安堵の色が滲んでいる。
実のところ「翔鶴」型空母は艦上機の定数について、常用機のほうは艦戦が二七機に艦爆と艦攻がそれぞれ四五機の合わせて一一七機とされていた。
しかし、このことを知った生沢長官は艦爆と艦攻を減らす代わりに艦戦を増強するよう上層部に訴えた。
艦戦の比率がわずかに二三パーセントというのは、生沢長官の常識ではあり得ない低さだったからだ。
制空権の獲得を何よりも重視する生沢長官としては、全体の半数以上は艦戦で固めておきたかった。
それに、そもそもとして艦戦がわずかに二七機だけでは艦爆や艦攻の護衛を務めるのが精いっぱいで、とても艦隊防空の任にまでは手が回らない。
そこで生沢長官は艦爆と艦攻についてはそれぞれ五個中隊だったものを三個中隊に減らし、逆に艦戦については三個中隊から一気に七個中隊に増勢するよう求めた。
このことで、戦闘機を防御兵器だと勘違いしている連中からは敢闘精神に欠けるなどといった陰口を叩かれたりもした。
しかし、生沢長官のほうは艦爆や艦攻を使って敵艦を沈めることよりも、むしろ艦戦によって制空権を奪取することこそが空母の本務だと考えていたから、そう言った陰口を気にするようなことは無かった。
そして、軍令部や海軍省を巻き込んで侃侃諤諤ときには喧喧囂囂となった議論は、連合艦隊司令長官である山本大将の取り成しによって一応の決着をみた。
艦爆と艦攻についてはこれをそれぞれ一個中隊減らし、その一方で艦戦を二個中隊増強するというものだった。
まさに日本的、絵に書いたような折衷案だった。
いずれにせよ、このことで「翔鶴」型空母については艦戦が二七機から四五機に増え、一方で艦爆と艦攻についてはそれぞれ四五機だったものが三六機に減った。
そして、艦戦の増加分に伴う機材と人員を確保するために、志津頼航空甲参謀は海軍省の人事局員らとともに奔走していたのだ。
「ご苦労。憎まれ役を押し付けてしまって済まなかったな」
労いと謝罪が混じった生沢長官の言葉に、志津頼航空甲参謀は小さくかぶりを振る。
「まあ、確かに熟練や中堅を二航艦に引き抜かれることになった本土防空隊の関係者からは顰蹙を買いましたが、しかし練習航空隊の連中にはたいそう感謝されましたよ。一時的とはいえ練習航空隊に母艦勤務が可能な腕利きが、しかもそれが七二ペアも送り込まれたのですから」
四隻の「翔鶴」型空母から降ろされたそれぞれ三六機の艦爆と艦攻の搭乗員は、一時的に練習航空隊での勤務を命じられていた。
そして、そこで教官や教員の手伝いをすることになっている。
一方、人員不足のためにロクに休みを取ることが出来なかった練習航空隊の教官や教員らにとっては、二航艦から送り込まれてきた艦爆や艦攻の搭乗員は、それこそ干天の慈雨にも等しい存在となっていた。
「そう言ってもらえると、こちらとしても助かる」
自分に気を遣ってくれている志津頼航空甲参謀に感謝しつつ、生沢長官は太平洋艦隊との戦いに思いを馳せている。
帝国海軍は主力である一航艦をフィリピン戦線に投入する。
それだけでなく、四隻の「金剛」型戦艦もまたサイゴン沖やマレー沖に展開させる。
他にも一二隻の重巡をはじめ、多数の艦艇が同戦域で作戦行動に従事する。
そして、それは太平洋正面を守る戦力の弱体化と同義だ。
こういった状況を、太平洋艦隊の指揮官が見逃すはずがない。
南方作戦が終わらないうちに必ず仕掛けてくるはずだ。
我が全力をもって敵の分力を討つのは兵法の基本中の基本。
太平洋艦隊の指揮官もそのことは十分に心得ていることだろう。
だが、帝国海軍はその常識を逆手に取る。
つまりは、南方作戦そのものが太平洋艦隊を誘引するための罠でもあるのだ。
(太平洋艦隊の将兵らはこちらの戦力の配備状況から逆算して、自分たちのほうが優勢だと思い込むことだろう。しかし、それは大きな間違いだ。我々は遠慮なくそこに付け込ませてもらう)
生沢長官は決して米国との戦争は、これを望むものではない。
しかし、自身が世界の大きな流れに抗し切れないちっぽけな存在であることもまた理解している。
(ならば、せめて日本がより良い形で終戦を迎えられるよう尽力するのみ)
そう固く誓う。
日米の血で血を洗う戦いは、目前まで迫っていた。
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