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マリアナ決戦
第100話 イ号一型甲無線誘導弾
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第二次攻撃隊は一二〇機の零戦とそれに二一六機の天山の合わせて三三六機から成る。
その第二次攻撃隊に向かってきたF6Fヘルキャット戦闘機は数十機程度にしか過ぎなかった。
第一次攻撃隊は戦闘機掃討の仕事を完璧に近い形で成し遂げたのだろう。
いずれにせよ、この程度の数では零戦の防衛網を突破することはできない。
実際、F6Fに食われた天山は一機も無かった。
逆にF6Fのほうが零戦の餌食となるような有り様だった。
第二次攻撃隊のうち、第三航空艦隊の天山については甲三と呼ばれる機動部隊を叩くよう命令されていた。
その甲三は三隻の「エセックス」級空母とそれに二隻の「インデペンデンス」級空母を中心に、さらにそれらの周囲を二隻の巡洋艦と一二隻の駆逐艦が固めている。
四群ある米機動部隊のうちで、最も戦力が大きいと目されているのがこの甲三だった。
(甲三への攻撃に三航艦が選ばれたのは、たぶん「翔鶴」と「瑞鶴」がいるからだろう)
「飛龍」飛行隊長から「翔鶴」飛行隊長へと転属した友永少佐は眼下の機動部隊に目をやりつつ、そのようなことを考えている。
「翔鶴」と「瑞鶴」は開戦劈頭に生起したマーシャル沖海戦以降、二次にわたったインド洋作戦を除くすべての大きな戦いに参陣している。
その分だけ戦火をくぐり抜けた将兵も多く、その錬度の高さは帝国海軍随一と言ってもいい。
搭乗員もまた同様で、「翔鶴」と「瑞鶴」には特に選りすぐりの人材が送り込まれている。
友永少佐としては、そのような艦の飛行隊長に選ばれたのは光栄だと思う。
しかし、「飛龍」の二倍以上の艦上機を搭載する「翔鶴」は、その分だけ仕事も多かった。
さすがに、「飛龍」の二倍ということはないが、それでも目の回る忙しさであることに違いはなかった。
だからこそ、というわけでもないのだが、しかし直率する「翔鶴」第一中隊には申し訳ないが、難易度の高い一方で、あまり評価されない目標を受け持ってもらうことにした。
「各隊の攻撃目標を指示する。『翔鶴』第一中隊は護衛艦艇、第二中隊は大型空母を狙え。『瑞鶴』隊は残る二隻の大型空母、『飛龍』隊は小型空母をその目標とせよ。なお、攻撃順については『翔鶴』第一中隊の次に第二中隊、続いて『瑞鶴』隊、最後に『飛龍』隊とする」
少し間を置き、友永少佐は直率する「翔鶴」第一中隊に指示を重ねる。
「第一中隊は小隊ごとに輪形陣の前方にある駆逐艦を攻撃せよ」
友永少佐の命令から数瞬後、「翔鶴」第一中隊の天山が三機ごとに分かれ、それぞれが目標と定めた敵駆逐艦にその機首を向ける。
それら九機の天山は高度一〇〇〇メートルを維持、輪形陣までまだ一〇キロ以上の距離があるのにもかかわらず、腹に抱えていたものを切り離した。
それらは「イ号一型甲無線誘導弾」と呼ばれる動力付きの誘導爆弾だった。
同誘導弾の開発には、生沢長官が深くかかわっていた。
その生沢長官は、マーシャル沖海戦や珊瑚海海戦で多数の九九艦爆や九七艦攻が敵艦の対空砲火によって撃墜されたことを非常に問題視していた。
その彼は、欧州遠征の際に当時すでに生産態勢に入っていたHs293に目をつけた。
一〇〇〇〇メートルを大きく超える射程を持ち、さらに射手がそれを遠隔操縦することによって高い命中率が期待できる。
もちろん、誘導弾を操縦している間は乗機を定速定高度に維持する必要がある。
そのことで、目標に対して数千メートルにまで近づくことになってしまうが、それでも急降下爆撃や雷撃に比べれば遥かに遠距離だ。
これだけの距離があれば高角砲弾はともかく、機関砲弾や機銃弾はさほど脅威にはならない。
そして、それは機体の安全と、それに搭乗員の生存率に直結する。
生沢長官のHs293に関する技術提供の申し出に対し、ドイツ側はこれを快く了承した。
英国打倒を決定づけた東大西洋海戦の直後のタイミングだったことで、その立役者とも言える生沢長官に対する好感度はそれこそ絶頂に達していたからだ。
そして、帝国海軍はHs293の技術情報をもとに、これを艦上攻撃機に搭載できるように機体形状を改め、さらに性能と信頼性を高める改良を施していった。
その成果物であるイ号一型甲無線誘導弾が今この瞬間、実戦投入と相成ったのだ。
「翔鶴」第一中隊第一小隊の友永少佐とそれに部下たちの機体が放った三発のイ号一型甲無線誘導弾は、しかし一発が途中で脱落、マリアナの海に虚しく突っ込んでしまう。
推進機構か姿勢制御機構、あるいは無線の送受信装置のいずれかにトラブルが生じたのだろう。
しかし、残る二発は狙い過たず、輪形陣の先頭を行く米駆逐艦に命中する。
三〇〇キロの炸薬を内包する一トン近い弾体を、しかもそれを複数食らっては装甲が皆無の駆逐艦としてはたまったものではない。
猛煙を上げた米駆逐艦は速度を衰えさせ、ついには洋上停止してしまう。
その頃には第二小隊、それに第三小隊の部下たちも戦果を挙げている。
第二小隊のほうは飛翔途中で一発が脱落、さらに一発が狙いを外したことで命中は一発にとどまった。
しかし、それが魚雷かあるいは爆雷に火を入れたのか、駆逐艦は大爆発を起こしてたちまちのうちに沈んでしまった。
第三小隊のほうは機械トラブルで脱落するものはなく、しかも三発すべてを命中させるという離れ業をやってのけた。
一方、狙われた側の米駆逐艦は艦上の至る所から煙と炎を噴き上げ、洋上の松明と化してしまった。
輪形陣の前方を行く三隻の駆逐艦が沈没あるいは行動不能となったことで、後続の艦艇群は回避機動を余儀なくされる。
このことで輪形陣は崩壊、内側の空母がむき出しになる。
そこへ満を持していた「翔鶴」第二中隊が最も右側に位置する「エセックス」級空母、米軍で言うところの「フランクリン」に向けてイ号一型甲無線誘導弾を発射する。
白煙を上げて迫ってくるイ号一型甲無線誘導弾に対し、一方の「フランクリン」のほうは右舷に指向できる対空火器を総動員してこれらを撃墜しようと躍起になる。
実際のところ、発射母機である天山を撃墜すればイ号一型甲無線誘導弾は無力化できるのだが、しかし咄嗟のことでそのことにまで頭が回らない。
雷撃機よりも小さく、そのうえ明らかに優速なはずのイ号一型甲無線誘導弾を、しかし高角砲弾のうちの一発がその危害半径に捉えこれを撃墜する。
対空戦闘に長けた米艦の本領発揮といったところだ。
しかし、これが「フランクリン」の限界でもあった。
残る八発のうち、トラブルで脱落した二発を除く六発が「フランクリン」に迫る。
このうち一発が同艦を捉え損なったものの、しかし残る五発のそのことごとくが艦橋か、あるいはその下部にある艦体に命中する。
艦橋にはレーダーや通信、それに火器管制装置といった戦闘システムの中枢が集中している。
さらに、「エセックス」級空母の場合には、そこに煙突が併設されている。
もし、ここにイ号一型甲無線誘導弾を命中させれば艦の耳目はもちろん、煙路を伝って艦の心臓とも言えるボイラーを痛めつけることが期待できた。
実際、イ号一型甲無線誘導弾の炸裂によって生じた熱と炎は、煙路を伝ってボイラーへと逆流、機関室は焦熱地獄さながらの惨状を呈していた。
「翔鶴」隊の攻撃が終了すると同時に、今度は「瑞鶴」隊が残る二隻の「エセックス」級空母に向けてイ号一型甲無線誘導弾を発射していく。
そのイ号一型甲無線誘導弾のような兵器は、一斉発射による飽和攻撃でこれを実施するのが効果的なはずだった。
しかし、イ号一型甲無線誘導弾はHs293の技術をベースとしているために周波数チャンネルの制限を受けた。
その周波数チャンネルは一八だから、つまりは同時攻撃が出来るのは一八機までだった。
「瑞鶴」第一中隊に狙われた「エセックス」と、それに第二中隊の標的となった「レキシントン2」もまた、「フランクリン」と同様に艦橋周辺に五発乃至六発の命中弾を食らう。
こちらもまた、ボイラーを盛大に痛めつけられたことで洋上停止するか、あるいは這うような極低速しか出せない状況に陥った。
殿となった「飛龍」第一中隊それに第二中隊もまた戦果を挙げる。
こちらは「インデペンデンス」級の「インデペンデンス」とそれに「プリンストン」を狙い撃った。
船体が小ぶりで、防御力も「エセックス」級空母に遠く及ばない軽空母が、しかも同時に多数のイ号一型甲無線誘導弾を食らってはさすがにたまったものではない。
両艦ともに炎上、このうち「プリンストン」のほうは弾火薬庫に火が回ったのか盛大な爆発を起こし、それこそあっという間に海中に没していった。
その第二次攻撃隊に向かってきたF6Fヘルキャット戦闘機は数十機程度にしか過ぎなかった。
第一次攻撃隊は戦闘機掃討の仕事を完璧に近い形で成し遂げたのだろう。
いずれにせよ、この程度の数では零戦の防衛網を突破することはできない。
実際、F6Fに食われた天山は一機も無かった。
逆にF6Fのほうが零戦の餌食となるような有り様だった。
第二次攻撃隊のうち、第三航空艦隊の天山については甲三と呼ばれる機動部隊を叩くよう命令されていた。
その甲三は三隻の「エセックス」級空母とそれに二隻の「インデペンデンス」級空母を中心に、さらにそれらの周囲を二隻の巡洋艦と一二隻の駆逐艦が固めている。
四群ある米機動部隊のうちで、最も戦力が大きいと目されているのがこの甲三だった。
(甲三への攻撃に三航艦が選ばれたのは、たぶん「翔鶴」と「瑞鶴」がいるからだろう)
「飛龍」飛行隊長から「翔鶴」飛行隊長へと転属した友永少佐は眼下の機動部隊に目をやりつつ、そのようなことを考えている。
「翔鶴」と「瑞鶴」は開戦劈頭に生起したマーシャル沖海戦以降、二次にわたったインド洋作戦を除くすべての大きな戦いに参陣している。
その分だけ戦火をくぐり抜けた将兵も多く、その錬度の高さは帝国海軍随一と言ってもいい。
搭乗員もまた同様で、「翔鶴」と「瑞鶴」には特に選りすぐりの人材が送り込まれている。
友永少佐としては、そのような艦の飛行隊長に選ばれたのは光栄だと思う。
しかし、「飛龍」の二倍以上の艦上機を搭載する「翔鶴」は、その分だけ仕事も多かった。
さすがに、「飛龍」の二倍ということはないが、それでも目の回る忙しさであることに違いはなかった。
だからこそ、というわけでもないのだが、しかし直率する「翔鶴」第一中隊には申し訳ないが、難易度の高い一方で、あまり評価されない目標を受け持ってもらうことにした。
「各隊の攻撃目標を指示する。『翔鶴』第一中隊は護衛艦艇、第二中隊は大型空母を狙え。『瑞鶴』隊は残る二隻の大型空母、『飛龍』隊は小型空母をその目標とせよ。なお、攻撃順については『翔鶴』第一中隊の次に第二中隊、続いて『瑞鶴』隊、最後に『飛龍』隊とする」
少し間を置き、友永少佐は直率する「翔鶴」第一中隊に指示を重ねる。
「第一中隊は小隊ごとに輪形陣の前方にある駆逐艦を攻撃せよ」
友永少佐の命令から数瞬後、「翔鶴」第一中隊の天山が三機ごとに分かれ、それぞれが目標と定めた敵駆逐艦にその機首を向ける。
それら九機の天山は高度一〇〇〇メートルを維持、輪形陣までまだ一〇キロ以上の距離があるのにもかかわらず、腹に抱えていたものを切り離した。
それらは「イ号一型甲無線誘導弾」と呼ばれる動力付きの誘導爆弾だった。
同誘導弾の開発には、生沢長官が深くかかわっていた。
その生沢長官は、マーシャル沖海戦や珊瑚海海戦で多数の九九艦爆や九七艦攻が敵艦の対空砲火によって撃墜されたことを非常に問題視していた。
その彼は、欧州遠征の際に当時すでに生産態勢に入っていたHs293に目をつけた。
一〇〇〇〇メートルを大きく超える射程を持ち、さらに射手がそれを遠隔操縦することによって高い命中率が期待できる。
もちろん、誘導弾を操縦している間は乗機を定速定高度に維持する必要がある。
そのことで、目標に対して数千メートルにまで近づくことになってしまうが、それでも急降下爆撃や雷撃に比べれば遥かに遠距離だ。
これだけの距離があれば高角砲弾はともかく、機関砲弾や機銃弾はさほど脅威にはならない。
そして、それは機体の安全と、それに搭乗員の生存率に直結する。
生沢長官のHs293に関する技術提供の申し出に対し、ドイツ側はこれを快く了承した。
英国打倒を決定づけた東大西洋海戦の直後のタイミングだったことで、その立役者とも言える生沢長官に対する好感度はそれこそ絶頂に達していたからだ。
そして、帝国海軍はHs293の技術情報をもとに、これを艦上攻撃機に搭載できるように機体形状を改め、さらに性能と信頼性を高める改良を施していった。
その成果物であるイ号一型甲無線誘導弾が今この瞬間、実戦投入と相成ったのだ。
「翔鶴」第一中隊第一小隊の友永少佐とそれに部下たちの機体が放った三発のイ号一型甲無線誘導弾は、しかし一発が途中で脱落、マリアナの海に虚しく突っ込んでしまう。
推進機構か姿勢制御機構、あるいは無線の送受信装置のいずれかにトラブルが生じたのだろう。
しかし、残る二発は狙い過たず、輪形陣の先頭を行く米駆逐艦に命中する。
三〇〇キロの炸薬を内包する一トン近い弾体を、しかもそれを複数食らっては装甲が皆無の駆逐艦としてはたまったものではない。
猛煙を上げた米駆逐艦は速度を衰えさせ、ついには洋上停止してしまう。
その頃には第二小隊、それに第三小隊の部下たちも戦果を挙げている。
第二小隊のほうは飛翔途中で一発が脱落、さらに一発が狙いを外したことで命中は一発にとどまった。
しかし、それが魚雷かあるいは爆雷に火を入れたのか、駆逐艦は大爆発を起こしてたちまちのうちに沈んでしまった。
第三小隊のほうは機械トラブルで脱落するものはなく、しかも三発すべてを命中させるという離れ業をやってのけた。
一方、狙われた側の米駆逐艦は艦上の至る所から煙と炎を噴き上げ、洋上の松明と化してしまった。
輪形陣の前方を行く三隻の駆逐艦が沈没あるいは行動不能となったことで、後続の艦艇群は回避機動を余儀なくされる。
このことで輪形陣は崩壊、内側の空母がむき出しになる。
そこへ満を持していた「翔鶴」第二中隊が最も右側に位置する「エセックス」級空母、米軍で言うところの「フランクリン」に向けてイ号一型甲無線誘導弾を発射する。
白煙を上げて迫ってくるイ号一型甲無線誘導弾に対し、一方の「フランクリン」のほうは右舷に指向できる対空火器を総動員してこれらを撃墜しようと躍起になる。
実際のところ、発射母機である天山を撃墜すればイ号一型甲無線誘導弾は無力化できるのだが、しかし咄嗟のことでそのことにまで頭が回らない。
雷撃機よりも小さく、そのうえ明らかに優速なはずのイ号一型甲無線誘導弾を、しかし高角砲弾のうちの一発がその危害半径に捉えこれを撃墜する。
対空戦闘に長けた米艦の本領発揮といったところだ。
しかし、これが「フランクリン」の限界でもあった。
残る八発のうち、トラブルで脱落した二発を除く六発が「フランクリン」に迫る。
このうち一発が同艦を捉え損なったものの、しかし残る五発のそのことごとくが艦橋か、あるいはその下部にある艦体に命中する。
艦橋にはレーダーや通信、それに火器管制装置といった戦闘システムの中枢が集中している。
さらに、「エセックス」級空母の場合には、そこに煙突が併設されている。
もし、ここにイ号一型甲無線誘導弾を命中させれば艦の耳目はもちろん、煙路を伝って艦の心臓とも言えるボイラーを痛めつけることが期待できた。
実際、イ号一型甲無線誘導弾の炸裂によって生じた熱と炎は、煙路を伝ってボイラーへと逆流、機関室は焦熱地獄さながらの惨状を呈していた。
「翔鶴」隊の攻撃が終了すると同時に、今度は「瑞鶴」隊が残る二隻の「エセックス」級空母に向けてイ号一型甲無線誘導弾を発射していく。
そのイ号一型甲無線誘導弾のような兵器は、一斉発射による飽和攻撃でこれを実施するのが効果的なはずだった。
しかし、イ号一型甲無線誘導弾はHs293の技術をベースとしているために周波数チャンネルの制限を受けた。
その周波数チャンネルは一八だから、つまりは同時攻撃が出来るのは一八機までだった。
「瑞鶴」第一中隊に狙われた「エセックス」と、それに第二中隊の標的となった「レキシントン2」もまた、「フランクリン」と同様に艦橋周辺に五発乃至六発の命中弾を食らう。
こちらもまた、ボイラーを盛大に痛めつけられたことで洋上停止するか、あるいは這うような極低速しか出せない状況に陥った。
殿となった「飛龍」第一中隊それに第二中隊もまた戦果を挙げる。
こちらは「インデペンデンス」級の「インデペンデンス」とそれに「プリンストン」を狙い撃った。
船体が小ぶりで、防御力も「エセックス」級空母に遠く及ばない軽空母が、しかも同時に多数のイ号一型甲無線誘導弾を食らってはさすがにたまったものではない。
両艦ともに炎上、このうち「プリンストン」のほうは弾火薬庫に火が回ったのか盛大な爆発を起こし、それこそあっという間に海中に没していった。
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