12 / 67
マーシャル沖海戦
第12話 防空戦闘
しおりを挟む
「すべての機体が発艦を完了しました」
航空参謀の報告に、第四航空戦隊司令官の角田少将は首肯をもって了解の意を伝える。
第一艦隊の防空については、角田司令官が最高責任者としてその任にあたっていた。
その第一艦隊に所属する第四航空戦隊の「龍驤」と「龍鳳」、それに第二艦隊から臨時編入された「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」にはそれぞれ八個小隊、合わせて一二〇機もの零戦が搭載されていた。
一方で、それら五隻の空母に搭載されている九七艦攻はわずかに二一機にしか過ぎない。
本来、小型空母については零戦と九七艦攻が概ね二対一の割合でこれを搭載することとされていた。
しかし、今回は戦艦の頭上を守ることを第一とされたため、戦闘機偏重の編成となっている。
各空母に搭載された八個小隊のうち、半数は上空警戒にあたり、残る半数は飛行甲板上で即応待機としていた。
これらのうち、上空警戒にあたる機体の半数は中高空域に、残る半数は低空域にとどまるようあらかじめ指示されている。
これは、零戦が一つどころの空域に集中することを防ぐためだ。
戦闘機乗りは戦意旺盛な者が多く、敵機を見つけると後先考えず、たちどころに突っかかっていく。
勇敢なのはいいが、しかしそれも時と場合によりけりだ。
もし、仮に雷撃機が先にやってきたとする。
この場合、零戦のほとんどは低空域に集まってしまうだろう。
もちろん、敵の雷撃機を撃墜するためだ。
しかし、そうなってしまうと中高空域がガラ空きになってしまう。
そして、そのタイミングで敵の急降下爆撃機がやってくれば、それこそ目も当てられない状況が現出する。
それを防ぐ意味からも、零戦隊には担当する高度をあらかじめ定めていたのだ。
そして、角田司令官は時宜を見計らい、即応待機中の零戦もまた発進させた。
このことで、第一艦隊の上空には一二〇機の零戦が展開していた。
一方、米機動部隊もまた発見した第一艦隊に向けて攻撃隊を繰り出していた。
「エンタープライズ」からF4Fワイルドキャット戦闘機が九機にSBDドーントレス急降下爆撃機が一八機、それにTBDデバステーター雷撃機が一五機。
「サラトガ」と「レキシントン」それに「ヨークタウン」からそれぞれF4Fが九機にSBDが三六機、それにTBDが一五機。
「エンタープライズ」のSBDが少ないのは、同艦の索敵爆撃隊がその名の通り索敵の任にあたっていたからだ。
これらのうち、真っ先に第一艦隊上空に姿を現したのは「エンタープライズ」雷撃隊と「サラトガ」雷撃隊、それに護衛のF4Fだった。
わずかに後れて「ヨークタウン」雷撃隊と「レキシントン」雷撃隊が続く。
これに対し、低空域を守る零戦のうちの半数がF4Fに、残る半数がTBDに立ち向かっていった。
三〇機の零戦が三六機のF4Fを拘束している間に、残る三〇機の零戦がTBDを攻撃する。
腹に一トン近い重量物を抱えているTBDは悲しいほどにその動きが鈍い。
だからこそ、F4Fがその護衛にあたっていたのだが、しかしその彼らは零戦との戦いに忙殺されてしまい、TBDを援護することが出来ない。
低空域における低速戦闘こそを得意とする零戦は、たちまちのうちにTBDを平らげていく。
戦況不利だと判断したTBDは雷撃を諦め、魚雷を切り離して必死の逃亡を図る。
しかし、零戦との速度差は二〇〇キロ近くもあり、とうてい逃げ切れるものではなかった。
低空域の戦闘にわずかに後れて、中高空域でも戦いの火蓋が切られていた。
「ヨークタウン」爆撃隊と同索敵爆撃隊、同じく「レキシントン」爆撃隊と同索敵爆撃隊が高空域から第一艦隊上空へと侵入を図る。
そこへ六〇機の零戦が二手に分かれ、これら四個飛行隊を迎え撃つ。
SBDにとって不幸だったのは、護衛の戦闘機が同道していなかったことだ。
旧式で鈍重なTBDに比べて、新しくて比較的運動性能の高いSBDであれば護衛の必要は無いと考えられていたからだ。
むしろ米海軍上層部は、SBDは爆弾を切り離せば戦闘機としても使えると本気で考えていたくらいだった。
それぞれ三〇機の零戦の襲撃を受けた「ヨークタウン」隊の三六機のSBD、それ「レキシントン」隊の同じく三六機のSBDの末路は悲惨だった。
F4Fの護衛もなく、そのうえ自分たちとさほど変わらない数の零戦に襲撃されてはそれこそたまったものではない。
両空母合わせて七二機あったSBDは、しかしごく短時間のうちにその数を撃ち減らされていった。
「ヨークタウン」隊それに「レキシントン」隊が零戦に削り取られていく中、その脇を「エンタープライズ」爆撃隊とそれに「サラトガ」爆撃隊ならびに同索敵爆撃隊がすり抜けていく。
一二〇機の零戦をもってしてなお、完璧に敵を抑え込むことは無理だったのだ。
それぞれ二〇機近くからなる三つの梯団、それらがこちらに向かってくる。
その様子に角田司令官は大損害を覚悟する。
これだけの数があれば、戦力を分散すればすべての空母を撃破できる。
逆に戦力を集中すれば、二隻乃至三隻は撃沈できるはずだ。
そう考えている角田司令官の耳に、喜色混じりの見張員の声が飛び込んでくる。
「後方より二〇機あまりの編隊! 友軍機です!」
角田司令官は状況を瞬時に理解する。
第一艦隊の後方にある第一航空艦隊が、自分たちの頭上を守る戦力が薄くなるのを承知でこちらに零戦を向かわせてくれたのだ。
一航艦には「瑞鳳」と「祥鳳」にそれぞれ直掩用として零戦が二四機搭載されていたはずだから、おそらくはその半数を援軍として送り込んでくれたのだろう。
(ありがたい。地獄に仏とはまさにこのことだ)
胸中で一航艦を指揮する南雲長官に感謝を捧げつつ、角田司令官は上空の戦闘に注意を向ける。
いかに零戦が優秀な機体とはいえども、しかし二倍以上の数の急降下爆撃機を完全に阻止できる保証はどこにも無い。
現状はこちらが圧倒的に優勢だが、それでも最後まで油断するわけにはいかなかった。
航空参謀の報告に、第四航空戦隊司令官の角田少将は首肯をもって了解の意を伝える。
第一艦隊の防空については、角田司令官が最高責任者としてその任にあたっていた。
その第一艦隊に所属する第四航空戦隊の「龍驤」と「龍鳳」、それに第二艦隊から臨時編入された「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」にはそれぞれ八個小隊、合わせて一二〇機もの零戦が搭載されていた。
一方で、それら五隻の空母に搭載されている九七艦攻はわずかに二一機にしか過ぎない。
本来、小型空母については零戦と九七艦攻が概ね二対一の割合でこれを搭載することとされていた。
しかし、今回は戦艦の頭上を守ることを第一とされたため、戦闘機偏重の編成となっている。
各空母に搭載された八個小隊のうち、半数は上空警戒にあたり、残る半数は飛行甲板上で即応待機としていた。
これらのうち、上空警戒にあたる機体の半数は中高空域に、残る半数は低空域にとどまるようあらかじめ指示されている。
これは、零戦が一つどころの空域に集中することを防ぐためだ。
戦闘機乗りは戦意旺盛な者が多く、敵機を見つけると後先考えず、たちどころに突っかかっていく。
勇敢なのはいいが、しかしそれも時と場合によりけりだ。
もし、仮に雷撃機が先にやってきたとする。
この場合、零戦のほとんどは低空域に集まってしまうだろう。
もちろん、敵の雷撃機を撃墜するためだ。
しかし、そうなってしまうと中高空域がガラ空きになってしまう。
そして、そのタイミングで敵の急降下爆撃機がやってくれば、それこそ目も当てられない状況が現出する。
それを防ぐ意味からも、零戦隊には担当する高度をあらかじめ定めていたのだ。
そして、角田司令官は時宜を見計らい、即応待機中の零戦もまた発進させた。
このことで、第一艦隊の上空には一二〇機の零戦が展開していた。
一方、米機動部隊もまた発見した第一艦隊に向けて攻撃隊を繰り出していた。
「エンタープライズ」からF4Fワイルドキャット戦闘機が九機にSBDドーントレス急降下爆撃機が一八機、それにTBDデバステーター雷撃機が一五機。
「サラトガ」と「レキシントン」それに「ヨークタウン」からそれぞれF4Fが九機にSBDが三六機、それにTBDが一五機。
「エンタープライズ」のSBDが少ないのは、同艦の索敵爆撃隊がその名の通り索敵の任にあたっていたからだ。
これらのうち、真っ先に第一艦隊上空に姿を現したのは「エンタープライズ」雷撃隊と「サラトガ」雷撃隊、それに護衛のF4Fだった。
わずかに後れて「ヨークタウン」雷撃隊と「レキシントン」雷撃隊が続く。
これに対し、低空域を守る零戦のうちの半数がF4Fに、残る半数がTBDに立ち向かっていった。
三〇機の零戦が三六機のF4Fを拘束している間に、残る三〇機の零戦がTBDを攻撃する。
腹に一トン近い重量物を抱えているTBDは悲しいほどにその動きが鈍い。
だからこそ、F4Fがその護衛にあたっていたのだが、しかしその彼らは零戦との戦いに忙殺されてしまい、TBDを援護することが出来ない。
低空域における低速戦闘こそを得意とする零戦は、たちまちのうちにTBDを平らげていく。
戦況不利だと判断したTBDは雷撃を諦め、魚雷を切り離して必死の逃亡を図る。
しかし、零戦との速度差は二〇〇キロ近くもあり、とうてい逃げ切れるものではなかった。
低空域の戦闘にわずかに後れて、中高空域でも戦いの火蓋が切られていた。
「ヨークタウン」爆撃隊と同索敵爆撃隊、同じく「レキシントン」爆撃隊と同索敵爆撃隊が高空域から第一艦隊上空へと侵入を図る。
そこへ六〇機の零戦が二手に分かれ、これら四個飛行隊を迎え撃つ。
SBDにとって不幸だったのは、護衛の戦闘機が同道していなかったことだ。
旧式で鈍重なTBDに比べて、新しくて比較的運動性能の高いSBDであれば護衛の必要は無いと考えられていたからだ。
むしろ米海軍上層部は、SBDは爆弾を切り離せば戦闘機としても使えると本気で考えていたくらいだった。
それぞれ三〇機の零戦の襲撃を受けた「ヨークタウン」隊の三六機のSBD、それ「レキシントン」隊の同じく三六機のSBDの末路は悲惨だった。
F4Fの護衛もなく、そのうえ自分たちとさほど変わらない数の零戦に襲撃されてはそれこそたまったものではない。
両空母合わせて七二機あったSBDは、しかしごく短時間のうちにその数を撃ち減らされていった。
「ヨークタウン」隊それに「レキシントン」隊が零戦に削り取られていく中、その脇を「エンタープライズ」爆撃隊とそれに「サラトガ」爆撃隊ならびに同索敵爆撃隊がすり抜けていく。
一二〇機の零戦をもってしてなお、完璧に敵を抑え込むことは無理だったのだ。
それぞれ二〇機近くからなる三つの梯団、それらがこちらに向かってくる。
その様子に角田司令官は大損害を覚悟する。
これだけの数があれば、戦力を分散すればすべての空母を撃破できる。
逆に戦力を集中すれば、二隻乃至三隻は撃沈できるはずだ。
そう考えている角田司令官の耳に、喜色混じりの見張員の声が飛び込んでくる。
「後方より二〇機あまりの編隊! 友軍機です!」
角田司令官は状況を瞬時に理解する。
第一艦隊の後方にある第一航空艦隊が、自分たちの頭上を守る戦力が薄くなるのを承知でこちらに零戦を向かわせてくれたのだ。
一航艦には「瑞鳳」と「祥鳳」にそれぞれ直掩用として零戦が二四機搭載されていたはずだから、おそらくはその半数を援軍として送り込んでくれたのだろう。
(ありがたい。地獄に仏とはまさにこのことだ)
胸中で一航艦を指揮する南雲長官に感謝を捧げつつ、角田司令官は上空の戦闘に注意を向ける。
いかに零戦が優秀な機体とはいえども、しかし二倍以上の数の急降下爆撃機を完全に阻止できる保証はどこにも無い。
現状はこちらが圧倒的に優勢だが、それでも最後まで油断するわけにはいかなかった。
133
あなたにおすすめの小説
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる