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マーシャル沖海戦
第11話 戦艦撫で斬り
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「第二次攻撃隊は米戦艦を攻撃せよ」
てっきり第一次攻撃隊が撃破した空母にとどめを刺すものだとばかり思い込んでいた第二次攻撃隊指揮官兼「加賀」艦攻隊長の橋口少佐は、突然の目標変更命令にいささかばかり困惑する。
空母の天敵は空母なのだから、これを始末するのが最優先のはずだ。
それに、米海軍の旧式戦艦はそのいずれもが脚が遅い。
二〇ノットをわずかに上回る程度だったはずだ。
そうであれば、こちらを捕捉することなど不可能なのだから、それこそ放っておけばいいのだ。
それでも、納得は出来ないからと言って無視はできない。
軍隊における命令は絶対だ。
だから、不満や疑問は心の片隅に追いやり、最大効率で戦果を挙げるためにその思考を練る。
視野に映り込む太平洋艦隊は三つの単縦陣で形成されていた。
中央に八隻の戦艦。
左右にそれぞれ八隻の駆逐艦とその後方に二隻の巡洋艦。
一方で、第二次攻撃隊は二一機の零戦とそれに九〇機の九七艦攻からなる。
このうち、九七艦攻はそのいずれもが腹に九一式航空魚雷を抱えていた。
そして、まず考えるべきはその戦力配分だった。
こちらの艦攻隊が一〇個中隊であるのに対し米戦艦は八隻だから、そのすべてを撃破することは決して不可能ではない。
一個中隊あれば、最低でも一本の命中は十分に期待できる。
むしろ、鈍足の米戦艦相手に空振りに終わるほうがどうかしている。
一方で、撃沈を狙うのであれば当然のこととして的を絞るべきだった。
いかに手練揃いの一航艦といえども、さすがに一個中隊で戦艦を撃沈できると考えるのは明らかに傲慢が過ぎる。
「目標を達する。『赤城』第一中隊ならびに第二中隊、敵一番艦。『加賀』第一中隊ならびに第二中隊、敵二番艦。『蒼龍』隊、敵三番艦、『飛龍』隊、敵四番艦。「赤城」第三中隊は敵左翼の先頭艦、「加賀」第三中隊は敵右翼の先頭艦を狙え。攻撃法については各隊指揮官にこれを委ねる」
橋口少佐がすべての戦艦ではなく、その半数の戦艦に限定して攻撃を指示したのは相手を確実に撃沈することが一つ。
さらに、それ以上に大きな理由となったのが、味方の被害の低減を優先させたことだった。
八隻の戦艦を狙うよりも、四隻を相手取ったほうがこちらに指向される対空火器は確実に減る。
そして、その分だけ九七艦攻の安全度は高まる。
わずかに間を置き、橋口少佐は命令を重ねる。
「『加賀』第一中隊は左舷、第二中隊は右舷から攻撃せよ」
橋口少佐の命令一下、「加賀」第一中隊が高度を落としつつそのまま直進、第二中隊が敵二番艦の右側へと回り込む。
最初に攻撃を仕掛けたのは「赤城」第三中隊それに「加賀」第三中隊だった。
それらは戦艦列の左右を固める単縦陣、その先頭の駆逐艦に対して雷撃を仕掛けた。
的が小さく動きの軽快な駆逐艦に魚雷を当てることは至難だが、しかしその困難な任務を「赤城」第三中隊、それに「加賀」第三中隊は成し遂げた。
命中した魚雷はそれぞれ一本にとどまった。
しかし、装甲が皆無の駆逐艦に対しては、ほぼ致命的とも言えるダメージを与えた。
速力が著しく衰えた先頭の駆逐艦を回避すべく、後続艦は舵を切らざるを得ない。
このことで、戦艦列の左右の単縦陣は隊列を大きく乱され、戦艦の防壁としての機能を喪失する。
そこへ八個中隊、七二機の九七艦攻が突っ込んでいく。
(前後にそれぞれ二基の連装砲塔。「コロラド」級だな)
敵二番艦へ接近する最中、橋口少佐は自分たちが目標とした相手の正体を看破する。
米海軍には三連装砲塔を四基装備する戦艦は三つのタイプがあるが、しかし連装砲塔四基の型は一つしかない。
そして、それは世界のビッグセブンに数えられる「コロラド」級だ。
米海軍が保有する旧式戦艦の中では間違いなく最強のそれ。
その「コロラド」級戦艦が左へと回頭する動きを見せる。
自分たちに肉薄する「加賀」第一中隊に対して被雷面積を最小化すべく、その艦首を向けようとしているのだ。
逆に右舷から迫る「加賀」第二中隊から見れば、敵戦艦が自らその横腹をさらそうとする動きに映っているはずだ。
敵二番艦から吐き出される火弾や火箭の量は凄まじいものがあった。
しかし、艦が回頭している最中にあっては十分な狙いがつけられないのだろう。
被弾する機体はあっても、撃墜されるものは皆無だった。
橋口少佐それに部下たちの機体は敵二番艦の機動を無効化すべく飛行経路を修正。
さらに接近し、理想の投雷ポイントへと遷移する。
「撃てっ!」
裂帛の気合がこもった言葉とともに、腹に抱えていた九一式航空魚雷が切り離される。
魚雷を投下すれば、あとは逃げの一手だ。
九七艦攻が敵戦艦の艦首や艦尾をすり抜けるようにして離脱していく。
だが、敵艦に近すぎたことで被弾する機体が相次ぐ。
その中で、限界を超える銃砲弾を浴びた機体が一機、また一機とマーシャルの海に叩き墜とされていく。
敵の対空砲火の有効射程圏から逃れた橋口少佐の機体は上昇を図る。
同時に、後席に座る電信員の松本一飛曹が歓喜混じりの報告をあげる。
「敵二番艦の左舷に水柱、さらに一本! 右舷にも水柱、さらに一本、二本!」
「加賀」第一中隊それに第二中隊は合わせて五本の命中を得たようだった。
新型戦艦であればともかく、旧式戦艦が同時に五本もの魚雷を突きこまれてはさすがにもたないだろう。
その頃には他隊からの戦果報告も挙がっている。
「『赤城』隊、敵一番艦に魚雷六本命中。大傾斜、沈みつつあり」
「『蒼龍』隊、敵三番艦に魚雷五本命中。撃沈確実」
「『飛龍』隊、敵四番艦に魚雷五本命中。大炎上、撃沈確実」
味方の手際の良さに喜びを感じたのは一瞬、橋口少佐は味方の被害にその意識を傾ける。
二七機あったはずの「加賀」隊は、しかし今では二〇機をわずかに超える程度にまで撃ち減らされていた。
そして、視界に入る機体の多くがその胴体や翼に無惨な被弾痕を穿たれていた。
(勝ち戦には違い無いが、しかし味方の損害もまた甚大だ)
橋口少佐は大戦果を挙げたのにもかかわらず、さほど高揚感を覚えることは無かった。
むしろ母艦航空隊の行く末に、漠然とした不安を抱くようになっていた。
てっきり第一次攻撃隊が撃破した空母にとどめを刺すものだとばかり思い込んでいた第二次攻撃隊指揮官兼「加賀」艦攻隊長の橋口少佐は、突然の目標変更命令にいささかばかり困惑する。
空母の天敵は空母なのだから、これを始末するのが最優先のはずだ。
それに、米海軍の旧式戦艦はそのいずれもが脚が遅い。
二〇ノットをわずかに上回る程度だったはずだ。
そうであれば、こちらを捕捉することなど不可能なのだから、それこそ放っておけばいいのだ。
それでも、納得は出来ないからと言って無視はできない。
軍隊における命令は絶対だ。
だから、不満や疑問は心の片隅に追いやり、最大効率で戦果を挙げるためにその思考を練る。
視野に映り込む太平洋艦隊は三つの単縦陣で形成されていた。
中央に八隻の戦艦。
左右にそれぞれ八隻の駆逐艦とその後方に二隻の巡洋艦。
一方で、第二次攻撃隊は二一機の零戦とそれに九〇機の九七艦攻からなる。
このうち、九七艦攻はそのいずれもが腹に九一式航空魚雷を抱えていた。
そして、まず考えるべきはその戦力配分だった。
こちらの艦攻隊が一〇個中隊であるのに対し米戦艦は八隻だから、そのすべてを撃破することは決して不可能ではない。
一個中隊あれば、最低でも一本の命中は十分に期待できる。
むしろ、鈍足の米戦艦相手に空振りに終わるほうがどうかしている。
一方で、撃沈を狙うのであれば当然のこととして的を絞るべきだった。
いかに手練揃いの一航艦といえども、さすがに一個中隊で戦艦を撃沈できると考えるのは明らかに傲慢が過ぎる。
「目標を達する。『赤城』第一中隊ならびに第二中隊、敵一番艦。『加賀』第一中隊ならびに第二中隊、敵二番艦。『蒼龍』隊、敵三番艦、『飛龍』隊、敵四番艦。「赤城」第三中隊は敵左翼の先頭艦、「加賀」第三中隊は敵右翼の先頭艦を狙え。攻撃法については各隊指揮官にこれを委ねる」
橋口少佐がすべての戦艦ではなく、その半数の戦艦に限定して攻撃を指示したのは相手を確実に撃沈することが一つ。
さらに、それ以上に大きな理由となったのが、味方の被害の低減を優先させたことだった。
八隻の戦艦を狙うよりも、四隻を相手取ったほうがこちらに指向される対空火器は確実に減る。
そして、その分だけ九七艦攻の安全度は高まる。
わずかに間を置き、橋口少佐は命令を重ねる。
「『加賀』第一中隊は左舷、第二中隊は右舷から攻撃せよ」
橋口少佐の命令一下、「加賀」第一中隊が高度を落としつつそのまま直進、第二中隊が敵二番艦の右側へと回り込む。
最初に攻撃を仕掛けたのは「赤城」第三中隊それに「加賀」第三中隊だった。
それらは戦艦列の左右を固める単縦陣、その先頭の駆逐艦に対して雷撃を仕掛けた。
的が小さく動きの軽快な駆逐艦に魚雷を当てることは至難だが、しかしその困難な任務を「赤城」第三中隊、それに「加賀」第三中隊は成し遂げた。
命中した魚雷はそれぞれ一本にとどまった。
しかし、装甲が皆無の駆逐艦に対しては、ほぼ致命的とも言えるダメージを与えた。
速力が著しく衰えた先頭の駆逐艦を回避すべく、後続艦は舵を切らざるを得ない。
このことで、戦艦列の左右の単縦陣は隊列を大きく乱され、戦艦の防壁としての機能を喪失する。
そこへ八個中隊、七二機の九七艦攻が突っ込んでいく。
(前後にそれぞれ二基の連装砲塔。「コロラド」級だな)
敵二番艦へ接近する最中、橋口少佐は自分たちが目標とした相手の正体を看破する。
米海軍には三連装砲塔を四基装備する戦艦は三つのタイプがあるが、しかし連装砲塔四基の型は一つしかない。
そして、それは世界のビッグセブンに数えられる「コロラド」級だ。
米海軍が保有する旧式戦艦の中では間違いなく最強のそれ。
その「コロラド」級戦艦が左へと回頭する動きを見せる。
自分たちに肉薄する「加賀」第一中隊に対して被雷面積を最小化すべく、その艦首を向けようとしているのだ。
逆に右舷から迫る「加賀」第二中隊から見れば、敵戦艦が自らその横腹をさらそうとする動きに映っているはずだ。
敵二番艦から吐き出される火弾や火箭の量は凄まじいものがあった。
しかし、艦が回頭している最中にあっては十分な狙いがつけられないのだろう。
被弾する機体はあっても、撃墜されるものは皆無だった。
橋口少佐それに部下たちの機体は敵二番艦の機動を無効化すべく飛行経路を修正。
さらに接近し、理想の投雷ポイントへと遷移する。
「撃てっ!」
裂帛の気合がこもった言葉とともに、腹に抱えていた九一式航空魚雷が切り離される。
魚雷を投下すれば、あとは逃げの一手だ。
九七艦攻が敵戦艦の艦首や艦尾をすり抜けるようにして離脱していく。
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そして、視界に入る機体の多くがその胴体や翼に無惨な被弾痕を穿たれていた。
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