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インド洋海戦
第20話 夢想の空母
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第一艦隊は速力を上げて東洋艦隊を追撃したものの、しかしこれを捕捉するには至らなかった。
東洋艦隊は大破した「インドミタブル」と二隻の駆逐艦を惜しげもなく撃沈処分とし、早い段階で西方へと避退に転じたからだ。
艦よりも人材の保全こそを優先する。
その意志がはっきりと見て取れる行動だった。
大魚を逃したとはいえ、それでも戦果は大きかった。
第二航空艦隊それに第三航空艦隊は一度の航空攻撃だけで「インドミタブル」と「フォーミダブル」それに「ハーミーズ」の三隻の空母を撃沈した。
さらに、二隻の駆逐艦を撃破している。
撃破した駆逐艦は、そのいずれもが味方の雷撃によって撃沈処分された。
だから、こちらは実質撃沈したと言ってもよかった。
東洋艦隊への攻撃が終了した時点で、二航艦それに三航艦にはまだ使える九九艦爆や九七艦攻がかなりの程度、残っていた。
特に、「金剛」艦攻隊は索敵任務にあてられていたために、そのほとんどが稼働状態にあった。
さらに「龍驤」も保有する艦攻の四割を索敵に使っていたから、こちらもまた一〇機程の稼働機を残している。
それでも、これらを東洋艦隊の追撃に使わなかったのは、この後に実施されるセイロン島攻撃に必要な戦力だったからだ。
同島に存在するコロンボやトリンコマリーといった英国の要衝は、これを断じて叩かなければならない。
二航艦それに三航艦にはそれぞれ四隻もの空母があったが、しかし九九艦爆と九七艦攻は両艦隊を合わせても一〇〇機余りでしかなかった。
そのうえ、少なくない機体が東洋艦隊への攻撃で失われるかあるいは被弾損傷している。
艦隊決戦によるこれ以上の損耗は、二航艦司令部や三航艦司令部としても、決して容認できるものではなかった。
「いかに数を揃えようとも、小型空母ではやはり限界があるな」
二航艦旗艦「金剛」の艦橋で小沢長官がボソリとつぶやく。
その表情には憤懣の色が滲んでいる。
もし、「金剛」を除く七隻の空母のうちで、仮に一隻でも正規空母があれば東洋艦隊に対して第二次攻撃を実施することが出来たはずなのだ。
そうであれば、戦艦のあと一、二隻はこれを葬ることができただろう。
その小沢長官はマル三計画において企画倒れに終わった新型空母のことを思い起こしている。
その空母は二〇〇〇〇トンを大きく超える艦体を持ち、そのうえ三四ノットを発揮できたという。
また、搭載できる艦上機の数も常用機だけで七二機にも及ぶというから、これは堂々たる正規空母だ。
もし、これが完成していれば、「赤城」や「加賀」をもしのぐ艦になっていたかもしれない。
そして、この新型空母と「蒼龍」それに「飛龍」を組み合わせて高速機動艦隊を編成すれば、それこそ戦場を縦横無尽に駆け回ることができたはずだ。
(だが、現実は改造空母の寄せ集めだ)
小沢長官が胸中で自嘲する。
組織における傍流が、どれほど惨めな扱いを受けるのかという典型のような話だ。
ただ、その状況もマレー沖海戦以降は変わってきている。
なにより決定的だったのは、やはり四隻の米戦艦を一度に葬ったマーシャル沖海戦の実績だ。
しかも、撃沈したうちの半数がビッグセブンの一角を占める「ウエストバージニア」と「メリーランド」だった。
鉄砲屋が最大のライバルだと定めていた最強の仮想敵。
しかし、当時の一航艦はこれら戦艦をものの一撃でやっつけてしまった。
このことで鉄砲屋の権勢はガタ落ちし、一方の飛行機屋は一気にその発言力を高めることとなった。
(だが、状況が飛行機屋にとって有利になったとはいえ、前途は多難だ)
問題なのは艦上機だった。
空母は自身が搭載する艦上機にその戦力の大半を依存している。
その艦上機だが、帝国海軍は九九艦爆それに九七艦攻の後継機体の開発に注力していた。
一三試艦爆それに一四試艦攻と呼ばれるそれ。
ただ、これら機体は従来のものに比べて格段に高速な一方で、長い滑走距離を必要としていた。
特に一三試艦爆はそれが顕著で、支障なく離発艦できるのは「赤城」と「加賀」の二隻のみだという。
「蒼龍」と「飛龍」それに「金剛」も運用ができないわけではないが、しかし飛行甲板の短さからどうしても同時発艦機数が限られてしまうらしい。
(艦上機の発達は著しい。しかし、小型の改造空母ではその流れについていくことは困難だ)
数年前までは、帝国海軍の艦上機はそのすべてが複葉機だった。
しかし、今では全金属単葉のそれに置き換わっている。
今後はさらに速度性能や搭載能力を増やすべく、大排気量高出力エンジンを搭載した機体が主流となるだろう。
そして、それは必然的に大重量化を意味する。
そのことで、それら機体は離着艦時における高い技量を搭乗員に対して要求するものになることは間違いない。
(マーシャル沖海戦以降、一航艦の主力空母を訓練専用に充てたのは、あるいは海軍上層部の卓見だったのかもしれん)
「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」の四隻は、マーシャル沖海戦以降は瀬戸内海に逼塞し、もっぱら搭乗員の訓練に携わってきた。
帝国海軍の最高戦力でありながら、しかし頑なに戦場に向かおうとしない四隻の空母。
事情を知らない連中はそういった空母群を揶揄し、柱島艦隊という蔑称でこれを呼び交わしていた。
だが、長期にわたる訓練によって、艦上機搭乗員の層は確実にその厚みを増している。
そして、その四隻の空母の雌伏の時も、間もなく終わりを迎えると小沢長官は聞いている。
なにやら、帝国海軍は六月あたりに太平洋方面において一大攻勢をかけるらしい。
撃ち漏らした太平洋艦隊、その中でも機動部隊を一網打尽にする計画だという。
当然、その戦いには「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」もまた参陣することになるはずだ。
(決戦は六月か)
そう思いつつ、小沢長官は思考を現実へと戻す。
まだ、インド洋作戦は継続中であり、指揮官である小沢長官には成すべきことが山積していたからだ。
東洋艦隊は大破した「インドミタブル」と二隻の駆逐艦を惜しげもなく撃沈処分とし、早い段階で西方へと避退に転じたからだ。
艦よりも人材の保全こそを優先する。
その意志がはっきりと見て取れる行動だった。
大魚を逃したとはいえ、それでも戦果は大きかった。
第二航空艦隊それに第三航空艦隊は一度の航空攻撃だけで「インドミタブル」と「フォーミダブル」それに「ハーミーズ」の三隻の空母を撃沈した。
さらに、二隻の駆逐艦を撃破している。
撃破した駆逐艦は、そのいずれもが味方の雷撃によって撃沈処分された。
だから、こちらは実質撃沈したと言ってもよかった。
東洋艦隊への攻撃が終了した時点で、二航艦それに三航艦にはまだ使える九九艦爆や九七艦攻がかなりの程度、残っていた。
特に、「金剛」艦攻隊は索敵任務にあてられていたために、そのほとんどが稼働状態にあった。
さらに「龍驤」も保有する艦攻の四割を索敵に使っていたから、こちらもまた一〇機程の稼働機を残している。
それでも、これらを東洋艦隊の追撃に使わなかったのは、この後に実施されるセイロン島攻撃に必要な戦力だったからだ。
同島に存在するコロンボやトリンコマリーといった英国の要衝は、これを断じて叩かなければならない。
二航艦それに三航艦にはそれぞれ四隻もの空母があったが、しかし九九艦爆と九七艦攻は両艦隊を合わせても一〇〇機余りでしかなかった。
そのうえ、少なくない機体が東洋艦隊への攻撃で失われるかあるいは被弾損傷している。
艦隊決戦によるこれ以上の損耗は、二航艦司令部や三航艦司令部としても、決して容認できるものではなかった。
「いかに数を揃えようとも、小型空母ではやはり限界があるな」
二航艦旗艦「金剛」の艦橋で小沢長官がボソリとつぶやく。
その表情には憤懣の色が滲んでいる。
もし、「金剛」を除く七隻の空母のうちで、仮に一隻でも正規空母があれば東洋艦隊に対して第二次攻撃を実施することが出来たはずなのだ。
そうであれば、戦艦のあと一、二隻はこれを葬ることができただろう。
その小沢長官はマル三計画において企画倒れに終わった新型空母のことを思い起こしている。
その空母は二〇〇〇〇トンを大きく超える艦体を持ち、そのうえ三四ノットを発揮できたという。
また、搭載できる艦上機の数も常用機だけで七二機にも及ぶというから、これは堂々たる正規空母だ。
もし、これが完成していれば、「赤城」や「加賀」をもしのぐ艦になっていたかもしれない。
そして、この新型空母と「蒼龍」それに「飛龍」を組み合わせて高速機動艦隊を編成すれば、それこそ戦場を縦横無尽に駆け回ることができたはずだ。
(だが、現実は改造空母の寄せ集めだ)
小沢長官が胸中で自嘲する。
組織における傍流が、どれほど惨めな扱いを受けるのかという典型のような話だ。
ただ、その状況もマレー沖海戦以降は変わってきている。
なにより決定的だったのは、やはり四隻の米戦艦を一度に葬ったマーシャル沖海戦の実績だ。
しかも、撃沈したうちの半数がビッグセブンの一角を占める「ウエストバージニア」と「メリーランド」だった。
鉄砲屋が最大のライバルだと定めていた最強の仮想敵。
しかし、当時の一航艦はこれら戦艦をものの一撃でやっつけてしまった。
このことで鉄砲屋の権勢はガタ落ちし、一方の飛行機屋は一気にその発言力を高めることとなった。
(だが、状況が飛行機屋にとって有利になったとはいえ、前途は多難だ)
問題なのは艦上機だった。
空母は自身が搭載する艦上機にその戦力の大半を依存している。
その艦上機だが、帝国海軍は九九艦爆それに九七艦攻の後継機体の開発に注力していた。
一三試艦爆それに一四試艦攻と呼ばれるそれ。
ただ、これら機体は従来のものに比べて格段に高速な一方で、長い滑走距離を必要としていた。
特に一三試艦爆はそれが顕著で、支障なく離発艦できるのは「赤城」と「加賀」の二隻のみだという。
「蒼龍」と「飛龍」それに「金剛」も運用ができないわけではないが、しかし飛行甲板の短さからどうしても同時発艦機数が限られてしまうらしい。
(艦上機の発達は著しい。しかし、小型の改造空母ではその流れについていくことは困難だ)
数年前までは、帝国海軍の艦上機はそのすべてが複葉機だった。
しかし、今では全金属単葉のそれに置き換わっている。
今後はさらに速度性能や搭載能力を増やすべく、大排気量高出力エンジンを搭載した機体が主流となるだろう。
そして、それは必然的に大重量化を意味する。
そのことで、それら機体は離着艦時における高い技量を搭乗員に対して要求するものになることは間違いない。
(マーシャル沖海戦以降、一航艦の主力空母を訓練専用に充てたのは、あるいは海軍上層部の卓見だったのかもしれん)
「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」の四隻は、マーシャル沖海戦以降は瀬戸内海に逼塞し、もっぱら搭乗員の訓練に携わってきた。
帝国海軍の最高戦力でありながら、しかし頑なに戦場に向かおうとしない四隻の空母。
事情を知らない連中はそういった空母群を揶揄し、柱島艦隊という蔑称でこれを呼び交わしていた。
だが、長期にわたる訓練によって、艦上機搭乗員の層は確実にその厚みを増している。
そして、その四隻の空母の雌伏の時も、間もなく終わりを迎えると小沢長官は聞いている。
なにやら、帝国海軍は六月あたりに太平洋方面において一大攻勢をかけるらしい。
撃ち漏らした太平洋艦隊、その中でも機動部隊を一網打尽にする計画だという。
当然、その戦いには「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」もまた参陣することになるはずだ。
(決戦は六月か)
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