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ハワイ最終決戦
第60話 次なる攻撃目標
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「オアフ島に向かった第一次攻撃隊は迎撃に現れた六〇〇機前後の米戦闘機と交戦、このうちの九割以上を撃墜しました。さらに、駐機中の機体を銃撃し、これらのほとんどを破壊したとのことです。なお、駐機中の機体についてはその多くが爆撃機であり、その数は四〇〇機近くにのぼります。また、六〇〇機あまりの米攻撃隊を迎え撃った直掩隊ですが、こちらはそのほぼすべてを撃墜しています」
航空参謀の報告を聞きつつ、しかし第一機動艦隊を指揮する小沢長官は冷や汗が出る思いだった。
米軍は母艦航空隊それに基地航空隊を合わせて二〇〇〇機に迫る陣容でこちらを迎え撃つ準備を整えていたのだ。
もし、紫電改の数が十分でなければ、あるいはドイツがR4Mの供与を拒絶していたとしたら、これほどまでの勝利は望めなかったはずだ。
あるいは、逆に一機艦のほうが不覚をとっていたかもしれない。
「次にこちらの損害ですが、第一次攻撃隊は四一機の紫電改が未帰還となっています。直掩隊のほうは紫電改が二五機、それに零戦が三六機失われております。それと、二式水戦ですが、こちらは四機が失われています。なお、直掩隊については撃墜された搭乗員のうちで二二名が救助されております」
第一次攻撃隊それに直掩隊は圧倒的優位に戦いを進めたものの、それでも一割を超える損害を被った。
中でも、零戦の被害は大きく、全体の一五パーセントを失っている。
一方で、残敵掃討のような形となったニ式水戦のほうは被害が軽微で済んでいた。
「今すぐ使える機体はどれくらい残っている」
小沢長官の質問に、航空参謀がメモをめくる。
「紫電改が四四五機、零戦が一四三機です。二式水戦についてはまだ集計が済んでおりませんが、未帰還機の少なさから言って、かなりの機体が使えるはずです。なお、各空母では失われた機体の穴を埋めるべく、自艦が搭載している補用機の組み立てを進めております」
たった一度の攻防で紫電改は七割、零戦に至っては六割以下にまでその稼働戦力を減衰させた。
航空戦というものが、つまりは消耗戦だということを嫌でも認識させられる数字だった。
「太平洋艦隊はどれくらい航空機を残していると思う」
航空参謀からその視線を柳本参謀長に向けた小沢長官が端的に問う。
「仮に『エセックス』級空母に一〇〇機、護衛空母に三〇機が搭載されていたとすれば全体で一一〇〇機。このうち六〇〇機を撃墜破していますから、残りは五〇〇機前後といったところでしょう。そして、それらの多くは母艦の直掩にあたっていたはずですから、残っている機体のほとんどが戦闘機だと考えられます」
柳本参謀長の見立ては、小沢長官が想定していたものとほとんど同じだった。
大損害を被ったとはいえ、それでも太平洋艦隊はいまだ強大な戦力を残している。
「第二次攻撃隊としてすべての紫電改を太平洋艦隊にぶつける。その間の艦隊防空については零戦とそれに二式水戦にこれを委ねる」
そう話す小沢長官に柳本参謀長が短く疑義を呈する。
「天山は出さないのですか」
三三〇機の天山はいまだ出番無しだ。
搭乗員らは文字通り無聊をかこつような状況となっている。
「まだ、出さない。いかに紫電改を多数擁していたとしても、同じかそれ以上のF6Fから天山を被害無しで守り切ることは不可能だからな」
双方合わせて一〇〇〇機近い戦闘機が干戈を交えれば、必ず撃ち漏らしが出る。
そうなれば、少なくない天山がF6Fに食われてしまうことになるだろう。
貴重極まりない天山を、そのようなことで失うわけにはいかない。
消極的に映るかもしれないが、ここは慎重に行くべきだと小沢長官は判断していた。
「それでは、零戦に二五番を装備してこれをオアフ島攻撃にあててはいかがでしょうか。同島の航空戦力に壊滅的ダメージを与えたとはいえ、それは航空機に限ったことで飛行場そのものは無傷です。滑走路やそれに関連施設を叩いておけば、それこそダメ押しになるでしょう」
柳本参謀長の具申を小沢長官は吟味する。
零戦五四型はそれまでの三二型や二一型と違って二五番が使えるから、戦闘爆撃機としても運用が可能だ。
しかし、それ以前に問題があった。
だから、それを柳本参謀長にぶつける。
「艦隊の防空はどうする」
「稼働する零戦のうちの半数に限ってこれをオアフ島攻撃に振り向けます。それでもなお一機艦には合わせて一〇〇機以上の零戦とそれに二式水戦が残っています。現状を考えれば、それだけあれば艦隊防空については十分だと考えられます」
オアフ島の航空機はすでに全滅に近い打撃を与えた。
太平洋艦隊の空母も、こちらに再攻撃を実施できるほどの余力は残っていないはずだ。
実際、艦艇攻撃に威力を発揮する急降下爆撃機や雷撃機はそのほとんどを殲滅している。
ただ、現代の戦闘機はそれなりの爆撃能力を持っているから、ある程度の備えは必要だった。
「攻撃手順についてはどうする」
小沢長官が問いを重ねる。
戦力配分の次に気になっていることだ。
「紫電改が敵の母艦戦闘機隊と交戦に入ったことが確認された時点。そのタイミングで零戦を出します。太平洋艦隊の戦闘機が母艦の護衛を放棄してオアフ島を守るというのは考えにくいですが、しかし万一のこともあります」
柳本参謀長の言う通り、空母に搭載された戦闘機が自らの母艦を放っておいてオアフ島の守備につくことは考えにくかった。
しかし、戦場では何が起こるか分からない。
零戦を無為に失わないためにも、ここは慎重を期しておくべきだった。
「参謀長の意見を容れよう。紫電改はそのすべてを太平洋艦隊にぶつける。目標は敵戦闘機の排除だ。それから、半数の零戦をもってオアフ島に再攻撃をかける。こちらの目的は飛行場とその関連施設の破壊だ。他の目標への攻撃は、これを一切厳禁とする」
そう言って、小沢長官はこれでいいかという視線を柳本参謀長に向ける。
その意を忖度した柳本参謀長が小さく首肯する。
一機艦による、第二次攻撃それに第三次攻撃の方針が決定した瞬間だった。
航空参謀の報告を聞きつつ、しかし第一機動艦隊を指揮する小沢長官は冷や汗が出る思いだった。
米軍は母艦航空隊それに基地航空隊を合わせて二〇〇〇機に迫る陣容でこちらを迎え撃つ準備を整えていたのだ。
もし、紫電改の数が十分でなければ、あるいはドイツがR4Mの供与を拒絶していたとしたら、これほどまでの勝利は望めなかったはずだ。
あるいは、逆に一機艦のほうが不覚をとっていたかもしれない。
「次にこちらの損害ですが、第一次攻撃隊は四一機の紫電改が未帰還となっています。直掩隊のほうは紫電改が二五機、それに零戦が三六機失われております。それと、二式水戦ですが、こちらは四機が失われています。なお、直掩隊については撃墜された搭乗員のうちで二二名が救助されております」
第一次攻撃隊それに直掩隊は圧倒的優位に戦いを進めたものの、それでも一割を超える損害を被った。
中でも、零戦の被害は大きく、全体の一五パーセントを失っている。
一方で、残敵掃討のような形となったニ式水戦のほうは被害が軽微で済んでいた。
「今すぐ使える機体はどれくらい残っている」
小沢長官の質問に、航空参謀がメモをめくる。
「紫電改が四四五機、零戦が一四三機です。二式水戦についてはまだ集計が済んでおりませんが、未帰還機の少なさから言って、かなりの機体が使えるはずです。なお、各空母では失われた機体の穴を埋めるべく、自艦が搭載している補用機の組み立てを進めております」
たった一度の攻防で紫電改は七割、零戦に至っては六割以下にまでその稼働戦力を減衰させた。
航空戦というものが、つまりは消耗戦だということを嫌でも認識させられる数字だった。
「太平洋艦隊はどれくらい航空機を残していると思う」
航空参謀からその視線を柳本参謀長に向けた小沢長官が端的に問う。
「仮に『エセックス』級空母に一〇〇機、護衛空母に三〇機が搭載されていたとすれば全体で一一〇〇機。このうち六〇〇機を撃墜破していますから、残りは五〇〇機前後といったところでしょう。そして、それらの多くは母艦の直掩にあたっていたはずですから、残っている機体のほとんどが戦闘機だと考えられます」
柳本参謀長の見立ては、小沢長官が想定していたものとほとんど同じだった。
大損害を被ったとはいえ、それでも太平洋艦隊はいまだ強大な戦力を残している。
「第二次攻撃隊としてすべての紫電改を太平洋艦隊にぶつける。その間の艦隊防空については零戦とそれに二式水戦にこれを委ねる」
そう話す小沢長官に柳本参謀長が短く疑義を呈する。
「天山は出さないのですか」
三三〇機の天山はいまだ出番無しだ。
搭乗員らは文字通り無聊をかこつような状況となっている。
「まだ、出さない。いかに紫電改を多数擁していたとしても、同じかそれ以上のF6Fから天山を被害無しで守り切ることは不可能だからな」
双方合わせて一〇〇〇機近い戦闘機が干戈を交えれば、必ず撃ち漏らしが出る。
そうなれば、少なくない天山がF6Fに食われてしまうことになるだろう。
貴重極まりない天山を、そのようなことで失うわけにはいかない。
消極的に映るかもしれないが、ここは慎重に行くべきだと小沢長官は判断していた。
「それでは、零戦に二五番を装備してこれをオアフ島攻撃にあててはいかがでしょうか。同島の航空戦力に壊滅的ダメージを与えたとはいえ、それは航空機に限ったことで飛行場そのものは無傷です。滑走路やそれに関連施設を叩いておけば、それこそダメ押しになるでしょう」
柳本参謀長の具申を小沢長官は吟味する。
零戦五四型はそれまでの三二型や二一型と違って二五番が使えるから、戦闘爆撃機としても運用が可能だ。
しかし、それ以前に問題があった。
だから、それを柳本参謀長にぶつける。
「艦隊の防空はどうする」
「稼働する零戦のうちの半数に限ってこれをオアフ島攻撃に振り向けます。それでもなお一機艦には合わせて一〇〇機以上の零戦とそれに二式水戦が残っています。現状を考えれば、それだけあれば艦隊防空については十分だと考えられます」
オアフ島の航空機はすでに全滅に近い打撃を与えた。
太平洋艦隊の空母も、こちらに再攻撃を実施できるほどの余力は残っていないはずだ。
実際、艦艇攻撃に威力を発揮する急降下爆撃機や雷撃機はそのほとんどを殲滅している。
ただ、現代の戦闘機はそれなりの爆撃能力を持っているから、ある程度の備えは必要だった。
「攻撃手順についてはどうする」
小沢長官が問いを重ねる。
戦力配分の次に気になっていることだ。
「紫電改が敵の母艦戦闘機隊と交戦に入ったことが確認された時点。そのタイミングで零戦を出します。太平洋艦隊の戦闘機が母艦の護衛を放棄してオアフ島を守るというのは考えにくいですが、しかし万一のこともあります」
柳本参謀長の言う通り、空母に搭載された戦闘機が自らの母艦を放っておいてオアフ島の守備につくことは考えにくかった。
しかし、戦場では何が起こるか分からない。
零戦を無為に失わないためにも、ここは慎重を期しておくべきだった。
「参謀長の意見を容れよう。紫電改はそのすべてを太平洋艦隊にぶつける。目標は敵戦闘機の排除だ。それから、半数の零戦をもってオアフ島に再攻撃をかける。こちらの目的は飛行場とその関連施設の破壊だ。他の目標への攻撃は、これを一切厳禁とする」
そう言って、小沢長官はこれでいいかという視線を柳本参謀長に向ける。
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