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一章
そもそも俺の好きな動物は別にクマではない
しおりを挟むでっかいクマのぬいぐるみが目の前にいた。
俺の三倍くらいあるもこもこの体に助走をつけて抱きつきに行く。
「うおお……もふもふ……もふクマ……」
柔らかな綿を感じるお腹に頬を擦り寄せると幸せな気分になった。
なんかいい匂いもするし、おひさまはあったかいし、最高……ん?
「もふ……も……かたいな……」
もこもこだと思っていたそれがなんだか急に硬くなった。
ん? と声を漏らしつつ確かめるように頬擦りする。
硬い。綿とか全然感じない。なんか筋肉質なよう、な……。
「……はれ?」
「おはよう?」
ゆっくり目を開けると視界は真っ暗だった。
頭上に含み笑いから漏れ出た吐息がかかる。
「クマさん……は」
「クマ?」
「え? ん? あれ? 兄、上……」
段々と思考がクリアになる。
でかいクマぬいなど存在しなかった。
では俺がひしと抱きついているこれは……。
「夢でも見ていたのか? かわいいな」
「あっっ!!!! え!? ごめっごごごめんなさい!」
がばっと身体を起こし義兄から離れる。
寝ぼけてリアムに思いっきり抱きついていたらしい。恥ずかしすぎる。クマって何だよ。
「大丈夫だ。シャノンは見る夢もかわいいんだな」
ふっと息を吐く美青年が朝から眩しい。
反射でぎゅむっと目を瞑った俺の頭を優しい手が撫でた。
「シャノン、今日も一緒に寝ようか。君がいると俺も安眠できるみたいだ」
俺の遠慮をなくそうとしているのかリアムがそんなことを言う。良い人、あまりにも良い人だ。若干の申し訳なさを抱えながらも小さく頷く。
「風呂は……」
「おっ、おおおおお風呂はやめましょう!! お風呂場も狭くなってしまいますし! 夜一緒に寝てくださるなら全然寂しくないです! はい!!!」
「やめる? ……そうか」
無理無理無理無理!!! また一緒にお風呂なんて入ったら絶対心臓が誤作動を起こす!
ぶんぶんと首を横に振って一人で入る旨を主張する。
リアムはなんか微妙に残念そうだが、リアムが兄心として俺を甘やかしたいのだとしても俺は無理だ。本当に無理だ。
「よく考えたらこの歳で兄弟でお風呂入る人ってあんまりいませんし! ね! 兄上もご学友にそんなことバレたら多分恥ずかしい思いをするかと!」
「……そうだろうか。まあ、でもシャノンがそう言うならそうしよう」
リアム!! 眉尻を下げるな!!
リアムの見えない尻尾が悲しげに垂れ下がっている幻覚が見える。俺は手のひらを返しそうになるのを耐えるべく、素早くベッドから降りた。
「シャノンちゃん、今週末はお出かけしましょうか」
「!!!」
今朝も義兄と(気持ちは)今生の別れをしてから勉強の復習をしていると、母上からそんな言葉をかけられた。
嬉しい! この家に来てからまともに外に出ていなかったのだ。勉強を詰め込んでいたから仕方ないのだが。
「それは……父上も兄上も一緒ですか?」
「ええ、そうよ。そもそも言い出しっぺはディーンだもの」
くすくすと綺麗に笑う母上にこちらまで嬉しくなる。家族団欒だ。
「家族みんなでお出かけできるなんて嬉しいですっ! 楽しみで寝れなくなっちゃうかもしれません」
「あら、じゃあリアムに寝かしつけてもらわないと」
「リア……あっ、そうだ」
義兄の名前を聞いて、聞こうと思っていたことを思い出す。ちょっと緊張するが、聞くなら今かもしれない。
ぎゅっと膝の上で拳を作りちらりと母上を見上げる。
「あの……。兄上は婚約者はいらっしゃるのですか?」
「…………あら? あら、あら」
俺の言葉を聞いた母上は一瞬目を見開くと、頬に手を添えて急にすごく良い笑顔になった。
え? 何? なんだ?
「いないわよ。リアムにはもともと後継が決まってるから、極論いなくても何とかなるのよねぇ。もちろんいるに越したことはないけれど」
「いな、い?」
「そうよっ! 大丈夫よシャノンちゃん、安心してね。多分ディーンも同じ気持ちだと思うわ」
「……??????」
何の話だ。
母上はやけに嬉しそうだが話が全く見えない。
「えーと……。僕が言いたいのは、その……。兄上のお嫁さんになる人の調査はちゃんとしたほうがいいかなと……」
「ええ! ええ! そうね。大丈夫よ、そのつもりよ」
頬を赤らめ笑う彼女はまるで少女のようだった。
母上の言っている言葉が一言も理解できなかったので曖昧に頷いておく。
婚約者がいないし後継も決まってる?
どういうことだ。何の話だ。
シャノンが奪うリアムの婚約者は一体どこにいるんだ? まだ出会ってないのか?
話の流れ的に候補がいるわけでもなさそうだし……。
……数年後の話なのか?
なら、それまではリアムに甘えても許されるだろうか。
ちょっと気持ちが軽くなった気がした俺は、婚約者云々の話を頭の隅に追いやることにした。
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