義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

文字の大きさ
31 / 53
二章

俺は真面目な生徒なのだ

しおりを挟む


 手、冷たくて気持ちいい……。

 ふと意識が浮上すると見慣れない天井が視界に広がっていた。俺の部屋だ。

(あー、いつもリアムの部屋にいたから自室で寝てるなんて久しぶりなのか)

 ん? 自室? なんで俺はそもそも寝ているんだ?
 疑問を抱いて身体を起こそうとするとぐわりと眩暈がして、そのまま再度ベッドに倒れ込む。

「……?」

「大丈夫か、シャノン」

 クエスチョンマークを脳内に浮かべていると、右耳に声が届いた。
 視線を向けると俺の右手を両手で握っているリアムが心配そうに俺を見ている様子が目に入る。

「兄上?」

「熱はだいぶ下がったみたいだが……。疲れから出る発熱だと医者が言っていた。気づかなくてすまない」

 熱、熱か。確かに何となくぼーっとする。
 義兄に迷惑かけちゃったっぽいなあ。
 冷たさが心地いい彼の手をにぎにぎと無意識のうちに揉みつつ、「ごめんなさい」と口にした。思ったより弱々しい声が出て、自分で驚く。

 疲れるようなことした覚えないけどなあ。学園に通うことに思ったより気を張っていたんだろうか。

「リアム、光魔法で治せないのかって必死で面白かったよお。別に治せなくないけど、時間経過で治せる病気は自分の治癒力に任せないとダメだからさ~。でもちょっとだけ冷やしてあげる」

 パッとマシュが姿を現して、一瞬俺の額に指を突きつけたと思えばふっと熱が引いた。いや、引いたというより、顔付近の空気の温度が下がったみたいだ。

「……? 水魔法?」

「違うよ、これは生活魔法の応用。シャノンたんは難しいこと考える前におねんねしようね~」

 お礼を言おうと起き上がる俺を手で制したマシュがちらりと視線を向けた先にはテディがいて、此方に向かって魔力を練っていた。待て、何をする気だ!?

 ビビる俺にお構いなしに彼は周囲の重力を操り、俺の身体はまたベッドに逆戻りさせられる。

「ぐ、いや、こんなことに闇魔法使わなくても」

「お前は安静にしてなきゃいけないんだって。もう大丈夫とか言って起きようとするの目に見えてるからさぁ~? 学校も全快するまで休めよ」

「うう……」

 そりゃあ好き好んで休みたいわけじゃないし! 感染症じゃないなら熱下がれば行っていいだろって思ってたけど!
 恨めしげな目をテディに向けていると、リアムが不意にその大きな手のひらで俺の目を覆い隠した。

「……俺が急にあんな話をしたから、俺が引き金になってしまったのかと」

 …………。
 あんな話って何だっけ。
 熱で浮かされまくっていた俺は直前の記憶が結構曖昧で、しかし何の話でしたっけなどという空気の読めない発言は出来ないから押し黙っておく。
 別に不快な話をされたような記憶はないし。

「兄上、違います。……多分。僕はそもそも疲れてる自覚もありませんでしたし……。そんな悲しそうな声、しないでください」

 むしろ義兄にこんな切なそうな声をされる方が悲しい。
 リアムの手にそっと自分の手を、慰めるように重ねた。

「ああ。……それに、あの話は撤回する気もない。俺は……、いや、何でもない。おやすみ。シャノン、早く元気になってくれ」

 あの話って何だっけリターンズ。

 まあ、後で思い出せばいいか……と、俺は呑気に目を閉じることに決めた。






「ご心配おかけしましたっ!」

 三日後、惰眠を貪った俺はもうすっかり元気になった。
 今なら校庭を何周も走れそうだ。

「シャノンちゃん、どこか怠かったりしない? もう少し休んでいて大丈夫だと思うけれど」

「いえ! これ以上授業に遅れるわけにもいかないので」

 母が心配そうに俺を見て、父は後ろで何度か頷いている。
 ……ここまで心配されるの、こそばゆいけど居心地はいいなあ。

 しかし本当に授業に遅れるわけにはいかない。早く魔法の基礎課程を終えて、俺は例の魔道具のお店のお爺さんのところに行きたいし!

 鼻息荒い俺に母は「今日はもしかしたらお友達に色々聞かれるかもしれないし、身体が辛くなったら早退していいのよ」と言ってくれた。色々聞かれるとは何だと思ったけど、その優しさはありがたい。


「シャノン。行こうか」

「はい、兄上!」

 いつも通りリアムと共に馬車に乗り込んで登校する。
 三日ぶりに義兄とこうやって近い距離に座れてちょっと嬉しい。俺は元我儘で欲しがりの義弟なので、実は今ちょっとリアム不足だった。

 すすす、と隙間を詰めてぴったり彼に肩をぶつけてみる。

「……シャノン?」

「兄上、看病してくれてありがとうございました! 兄上が風邪をひいた時は、僕が看病しますね」

 俺は結局感染るような症状じゃなかったから良かった……いや良くはないのか……まあ、とりあえずリアムに感染すことはなかったけど、風邪かもしれないのに隣にいてくれたのだ。
 義兄の優しさに頬が緩む。にっこにこで彼を見上げる。

 リアムは俺が甘えるのを見て数度瞬きしてから、嬉しそう(に見える)な顔で髪の毛をすくように撫でてくれた。

「そうだ。シャノンが療養している間に父上と母上に話をして、正式に手続きをしてもらったよ。元々その気だったらしいから書類も用意していたみたいで、既に提出も完了した」

「? 何のですか?」

 話が見えない俺はきょとんとしてしまう。

「ん? 俺たちの婚約の話だ。シャノンが了承してくれたから」

 こんやく……コンヤク……こんにゃく……、

「婚約!!!??」

 寝耳に水とはまさにこのことだ。
 急に大声を出した俺をびっくりしたように見て、義兄は不思議そうに首を傾げる。まるで、当然だろうと言わんばかりに。

 ……この空気、俺が悪いのか!?

 
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...