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第40話 何もしない女は、何も失わない
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第40話 何もしない女は、何も失わない
---
去る準備が整った世界は、
不思議なほど静かだった。
引き留める声もない。
惜しむ言葉もない。
不安も、動揺も、ない。
それは――
すでに彼女がいなくても成立している証だった。
---
朝。
いつもと同じ時間に、
ファワーリス・シグナスは目を覚ました。
いつもと同じ紅茶。
いつもと同じ窓辺。
「……本当に、
何も変わりませんね」
マリエが、
どこか感慨深そうに言う。
「ええ」
ファワーリスは微笑んだ。
「それが、
一番良い終わり方ですわ」
---
その日、
彼女は特別なことをしなかった。
挨拶回りも、
別れの言葉も、
引き継ぎもない。
なぜなら――
引き継ぐ役割など、
最初から持っていなかったから。
---
昼過ぎ。
庭園で、
使用人たちが談笑している。
「最近、
落ち着いてるわよね」
「ええ。
何も起きないのが普通になった」
その言葉を聞いて、
ファワーリスは心の中で頷く。
(それでいい)
彼女の存在が、
“何も起きない”という状態を
特別にしていたのなら、
それは失敗だった。
だが今は違う。
何も起きないことが、
ただの日常になった。
---
夕方。
公爵が、
娘に最後の問いを投げかける。
「……お前は、
何を得た?」
一瞬、
ファワーリスは考えた。
「何も」
そう答えてから、
少しだけ言葉を足す。
「だからこそ、
何も失っていません」
公爵は、
静かに笑った。
「……最強だな」
「いいえ」
ファワーリスは、
穏やかに首を振る。
「空っぽなだけですわ」
---
夜。
最後に、
彼女は窓を開けた。
風が、
静かにカーテンを揺らす。
(私は、
何者にもならなかった)
英雄にも。
象徴にも。
救世主にも。
(だから、
誰の期待も、
誰の失望も、
背負わずに済んだ)
---
ファワーリス・シグナスは、
その日も何もしなかった。
だが、
世界はきちんと回り、
人は自分で立ち、
責任は正しい場所にあった。
彼女が去っても、
それは変わらないだろう。
――それでいい。
---
働いたら負け。
何もしないのが勝ち。
その言葉は、
皮肉でも、冗談でもない。
何も背負わず、
何も奪わず、
何も失わない生き方。
それを、
最後まで貫いた女の物語は、
ここで静かに幕を下ろす。
拍手は、いらない。
称賛も、いらない。
ただ――
今日も何も起きない世界が、
そこに在る。
それこそが、
彼女が何もしなかった結果であり、
何もしない女が手にした、
完全な勝利だった。
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去る準備が整った世界は、
不思議なほど静かだった。
引き留める声もない。
惜しむ言葉もない。
不安も、動揺も、ない。
それは――
すでに彼女がいなくても成立している証だった。
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朝。
いつもと同じ時間に、
ファワーリス・シグナスは目を覚ました。
いつもと同じ紅茶。
いつもと同じ窓辺。
「……本当に、
何も変わりませんね」
マリエが、
どこか感慨深そうに言う。
「ええ」
ファワーリスは微笑んだ。
「それが、
一番良い終わり方ですわ」
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その日、
彼女は特別なことをしなかった。
挨拶回りも、
別れの言葉も、
引き継ぎもない。
なぜなら――
引き継ぐ役割など、
最初から持っていなかったから。
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昼過ぎ。
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「最近、
落ち着いてるわよね」
「ええ。
何も起きないのが普通になった」
その言葉を聞いて、
ファワーリスは心の中で頷く。
(それでいい)
彼女の存在が、
“何も起きない”という状態を
特別にしていたのなら、
それは失敗だった。
だが今は違う。
何も起きないことが、
ただの日常になった。
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夕方。
公爵が、
娘に最後の問いを投げかける。
「……お前は、
何を得た?」
一瞬、
ファワーリスは考えた。
「何も」
そう答えてから、
少しだけ言葉を足す。
「だからこそ、
何も失っていません」
公爵は、
静かに笑った。
「……最強だな」
「いいえ」
ファワーリスは、
穏やかに首を振る。
「空っぽなだけですわ」
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夜。
最後に、
彼女は窓を開けた。
風が、
静かにカーテンを揺らす。
(私は、
何者にもならなかった)
英雄にも。
象徴にも。
救世主にも。
(だから、
誰の期待も、
誰の失望も、
背負わずに済んだ)
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ファワーリス・シグナスは、
その日も何もしなかった。
だが、
世界はきちんと回り、
人は自分で立ち、
責任は正しい場所にあった。
彼女が去っても、
それは変わらないだろう。
――それでいい。
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働いたら負け。
何もしないのが勝ち。
その言葉は、
皮肉でも、冗談でもない。
何も背負わず、
何も奪わず、
何も失わない生き方。
それを、
最後まで貫いた女の物語は、
ここで静かに幕を下ろす。
拍手は、いらない。
称賛も、いらない。
ただ――
今日も何も起きない世界が、
そこに在る。
それこそが、
彼女が何もしなかった結果であり、
何もしない女が手にした、
完全な勝利だった。
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