婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ

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第2話 可哀想な義妹

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第2話 可哀想な義妹

卒業舞踏会の大広間。

「では、契約を終了いたします」

カリスタのその一言は、静かだった。

だが。

その意味を理解している者は、この場にはほとんどいない。

ディオン王太子は眉をひそめた。

「契約?」

「何の話だ」

周囲の貴族たちも首を傾げている。

ヴァネッサは涙を拭きながらカリスタを見た。

「お姉様……まだそんなことを……」

震える声。

まるで、最後まで姉を庇っているかのような態度だった。

それがまた、周囲の同情を誘う。

「なんて健気な子だ」

「それに比べて……」

視線がカリスタへ向く。

だが、カリスタは何も言わない。

ただ静かに王太子を見ている。

ディオンは苛立ったように鼻を鳴らした。

「まあいい」

「お前の言葉などどうでもいい」

そして大広間を見渡し、高らかに宣言する。

「皆の者!」

「本日をもって!」

「私の婚約者はヴァネッサだ!」

歓声が上がった。

王太子の婚約発表。

それは、王国における一大ニュースである。

若い貴族たちは拍手し、貴婦人たちは微笑みを浮かべる。

ヴァネッサは震えるようにディオンの腕にしがみついた。

「殿下……ありがとうございます……」

その姿は、まさに可憐な被害者。

ディオンは満足そうに彼女を抱き寄せた。

「安心しろ」

「もうお前をいじめる者はいない」

会場の視線は完全に決まっていた。

可哀想な妹。

冷酷な姉。

それが、この場の“真実”になった。

その時だった。

「カリスタ嬢」

一人の貴族が声をかけた。

子爵家の令嬢だ。

「まさか本当に……毒など……?」

その言葉は、恐る恐るだった。

だが、疑いは確実に広がっている。

カリスタはその令嬢を見た。

そして、穏やかに答える。

「ご想像にお任せいたします」

それだけ。

言い訳も弁明もない。

その態度が、逆に貴族たちの疑念を強めた。

「やはり……」

「本当なのでは」

囁きが広がる。

ディオンは鼻で笑った。

「見ろ」

「弁明すらできない」

そしてカリスタを指差す。

「この女はそういう人間だ」

ヴァネッサは慌てて首を振った。

「やめてください殿下!」

「お姉様をそんな風に……」

涙を流しながら言う。

「きっと……何か理由が……」

その姿は、完璧だった。

健気で優しい妹。

会場の貴婦人たちはすっかり同情していた。

「なんて優しい子」

「姉にいじめられていたのに……」

ヴァネッサは心の中で笑っていた。

(馬鹿な人たち)

涙を拭きながら、ちらりとカリスタを見る。

カリスタは何も言わない。

ただ静かに立っている。

その姿が、逆に癪に障る。

(どうしてよ)

(どうして取り乱さないのよ)

普通なら泣くはずだ。

怒るはずだ。

それが、舞踏会の中心で婚約破棄された令嬢の姿だ。

だがカリスタは違った。

まるで。

すべて分かっているかのように。

ヴァネッサはその視線に、一瞬だけ背筋が冷えた。

しかし、すぐに笑顔を作る。

「殿下」

「私……お姉様と和解したいのです」

会場がどよめく。

「なんて良い子」

「本当に優しい」

ディオンも満足そうだった。

「ヴァネッサは本当に心が美しい」

そしてカリスタを睨む。

「それに比べてお前は」

「少しは妹を見習え」

カリスタは小さく息を吐いた。

「そうですわね」

その返答は、淡々としていた。

ディオンは不愉快そうに顔をしかめる。

「何だその態度は」

「もうお前に王太子妃の資格はない!」

そして近くの兵士に命じる。

「この女を舞踏会から追い出せ」

「二度と王宮に入れるな」

会場が再びざわめく。

婚約破棄。

追放。

完全な断罪だった。

兵士が近づく。

だがカリスタは抵抗しない。

ただ一度だけ、ヴァネッサを見た。

その視線は冷静だった。

ヴァネッサは一瞬だけ目を逸らす。

(……何なの)

(その目)

その時。

ディオンが笑った。

「安心しろ」

「お前がいなくなっても困らない」

そして続ける。

「ヴァネッサがいれば十分だ」

会場は完全に祝福ムードだった。

だが。

カリスタは振り返り、静かに言った。

「それは結構なことです」

ディオンは鼻で笑う。

「負け惜しみか」

カリスタは首を振った。

「いいえ」

そして、ゆっくりと言う。

「本当に、そう思いますわ」

そう言って、大広間を後にした。

背中には無数の視線。

侮蔑。

嘲笑。

同情。

だが。

カリスタの表情は変わらない。

ただ静かに歩く。

王宮の長い廊下を。

外へ。

夜風が頬を撫でた。

カリスタは空を見上げる。

「……ようやくですわね」

小さく呟く。

舞踏会の中では、まだ誰も気づいていない。

彼女が言った言葉の意味を。

「契約を終了する」

それが何を意味するのか。

王宮も。

王太子も。

義妹も。

まだ理解していなかった。
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