婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ

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第3話 家族の証言

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第3話 家族の証言

王宮の大広間。

カリスタが去ったあとも、舞踏会のざわめきは収まらなかった。

だがそのざわめきは、すぐに別の空気へと変わっていく。

「やはり……あの噂は本当だったのか」

「妹に毒を盛るなど、恐ろしい女だ」

「公爵家の令嬢でも、あそこまで落ちるとは……」

人は一度“悪女”と決めつけると、そこから先は早い。

証拠など必要ない。

噂が真実になり、真実が物語になる。

ディオン王太子は満足そうにワイングラスを掲げていた。

「皆の者」

「今夜は祝いの夜だ」

そして隣に立つヴァネッサの肩を抱く。

「この哀れな少女は、長年姉に苦しめられてきた」

ヴァネッサは俯いた。

肩を震わせ、必死に涙を堪える。

その姿は、まさに“悲劇の令嬢”だった。

「……もういいのです、殿下」

小さく呟く。

「お姉様のことは……忘れます」

それを聞いた貴婦人たちが一斉に感嘆の声を上げた。

「なんて優しい子なの」

「自分を虐げた姉を許すなんて」

ディオンは大きく頷く。

「そうだ」

「ヴァネッサは心が美しい」

そして声を張り上げた。

「このような令嬢こそ、王太子妃に相応しい!」

拍手が起きる。

誰も異論は言わない。

王太子の言葉は、この国ではそれだけ重い。

その時だった。

「殿下」

低い声が響く。

人々が振り向く。

そこに立っていたのは、伯爵ヴェルナー。

ヴァネッサとカリスタの義父である。

灰色の髪に厳しい顔立ち。

貴族としての威厳を漂わせていた。

その隣には妻のマルセルもいる。

ディオンは頷いた。

「伯爵」

「ちょうどよい」

「皆に真実を話してやれ」

ヴェルナーはゆっくりと頷いた。

そして大広間を見渡す。

「皆様」

重々しい声。

「娘カリスタの件について……」

一度言葉を切る。

「私は父として、大変心を痛めております」

その言葉に貴族たちが息を呑む。

ヴェルナーは続ける。

「ですが」

「残念ながら」

「殿下のおっしゃる通りなのです」

会場がざわめく。

「何と……」

「父親が認めたのか」

ヴェルナーは深く頭を下げた。

「カリスタは昔から……」

「ヴァネッサを嫌っておりました」

ヴァネッサが震えた。

「お父様……もういいのです……」

涙声。

ヴェルナーは首を振る。

「いいや」

「もう隠す必要はない」

そして言った。

「ヴァネッサの食事に毒が混入していたのは事実です」

どよめきが広がる。

「毒……!」

「本当だったのか」

マルセルがハンカチを目に当てた。

「私たちも信じたくありませんでした……」

涙ぐむ。

「ですが、あの子は昔から嫉妬深く……」

「ヴァネッサが可愛がられることを嫌っていたのです」

貴族たちの表情が変わる。

疑いから確信へ。

そして軽蔑へ。

ディオンは腕を組んだ。

「聞いたか」

「これが真実だ」

ヴァネッサは必死に首を振る。

「違います……!」

「お姉様はそんな人では……」

ディオンは彼女を抱き寄せた。

「もういい」

「お前は優しすぎる」

ヴァネッサはその胸に顔を埋めた。

だがその瞬間。

彼女の唇の端が、ほんの僅かに上がった。

誰も気づかない。

ただ一人を除いて。

会場の端。

柱の陰。

そこに一人の男が立っていた。

黒い礼装。

背の高い体。

冷たい金色の瞳。

男は静かにその光景を見ていた。

ヴァネッサの演技。

伯爵夫妻の証言。

王太子の断罪。

すべてを。

そして小さく呟く。

「……なるほど」

その声は低かった。

「これがこの国のやり方か」

男の隣に立つ護衛が小声で言う。

「殿下」

「そろそろお戻りを」

男は頷いた。

「そうだな」

そしてもう一度、舞踏会を見た。

そこでは王太子がヴァネッサの手を取っていた。

「安心しろ」

「もうお前を苦しめる者はいない」

ヴァネッサは涙を流す。

「殿下……」

完璧な芝居だった。

だが男は知っている。

この舞踏会で、一番興味深い人物は。

すでにここにはいない。

男は小さく笑った。

「面白い」

そして言う。

「カリスタ・ヴァレリオン」

その名を口にした。

「ようやく見つけた」
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