婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ

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第16話 皇太子の観客席

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第16話 皇太子の観客席

王宮の大広間。

重厚な扉が開かれ、衛兵が整列する。

その中央を、ゆっくりと二人の人物が歩いていた。

一人は長身の青年。

黒い礼装。

鋭い金色の瞳。

レイグラン帝国皇太子。

アルヴァルド。

その隣を歩くのは、灰色の髪の老人。

ヴァレリオン公爵家の執政官、グレイ。

王宮の空気は張り詰めていた。

皇太子の訪問。

それ自体が大事件だった。

だが。

今回の問題はそれだけではない。

広間の奥。

玉座の前。

王太子ユリウスが立っている。

その隣には財務卿ラドフォード。

少し後ろにヴェルナー伯爵とヴァネッサ。

王太子は腕を組んでいた。

アルヴァルドを見ながら言う。

「帝国の皇太子が王宮に何の用だ」

アルヴァルドは軽く笑った。

「見学です」

王太子の眉が動く。

「見学?」

アルヴァルドは頷いた。

「ええ」

「王国の金融危機という珍しい催しがあると聞きまして」

広間がざわめく。

王太子の顔が険しくなる。

「危機だと?」

アルヴァルドは肩をすくめる。

「港が止まり」

「市場が止まり」

「王家の口座が凍結される」

「十分に興味深い」

その言葉は完全に挑発だった。

王太子は怒りを抑える。

「帝国が関係する話ではない」

アルヴァルドは微笑む。

「今のところは」

沈黙。

グレイが一歩前に出る。

「本日はヴァレリオン公爵家の代理として参りました」

王太子は睨む。

「公爵本人は来ないのか」

グレイは答える。

「必要ございません」

「今回の件は」

「銀行の契約問題ですので」

王太子は机を叩いた。

「王家の口座を凍結しておいて契約問題だと?」

グレイは表情を変えない。

「契約でございます」

財務卿が口を挟む。

「王家の財務を止めるなど国家反逆だ!」

グレイは静かに言った。

「借入金の返済が停止しておりました」

「契約条項に基づき」

「凍結を行いました」

ラドフォードは言葉に詰まる。

それは事実だった。

王家は長年。

ヴァレリオン銀行から借入をしていた。

王太子は言う。

「なら返済すればいいのだろう」

グレイは頷く。

「はい」

王太子は手を振る。

「今すぐ解除しろ」

グレイは答える。

「不可能です」

王太子の顔が歪む。

「なぜだ」

グレイは書類を出した。

「借入総額」

「金貨百二十万枚」

広間が静まり返る。

ラドフォードの顔が真っ青になる。

王太子は一瞬言葉を失った。

「……百二十万?」

グレイは淡々と続ける。

「王宮改築」

「戦争費用」

「軍装備」

「地方救済」

「すべての累積でございます」

アルヴァルドが小さく口笛を吹く。

「なかなかの額だ」

王太子は怒鳴る。

「払えと言うのか!」

グレイは首を振る。

「いいえ」

王太子が睨む。

「なら何だ」

グレイは言った。

「返済計画の再交渉です」

王太子は腕を組む。

「条件は」

グレイは答える。

「ヴァレリオン家への謝罪」

広間がざわめく。

王太子の顔が一瞬で赤くなる。

「ふざけるな!」

「王家が謝罪だと!」

アルヴァルドが笑う。

「面白い」

王太子は怒鳴る。

「黙れ!」

アルヴァルドは両手を上げた。

「私は観客です」

「続けてください」

グレイは続ける。

「もう一つ」

王太子は睨む。

「まだあるのか」

グレイは静かに言った。

「カリスタ・ヴァレリオン様への」

「婚約破棄の撤回」

沈黙。

王太子はゆっくり笑う。

「それは断る」

広間がざわめく。

王太子は言った。

「あの女とは終わりだ」

「今さら戻る気はない」

アルヴァルドが目を細める。

グレイは小さく頷いた。

「承知しました」

王太子は勝ち誇る。

「話は終わりだ」

グレイは言った。

「では」

書類を閉じる。

「契約通り」

「担保を回収いたします」

王太子は眉をひそめる。

「担保?」

グレイは答える。

「王家の鉱山」

「港湾権」

「関税収入」

「すべて担保設定済みです」

ラドフォードが叫ぶ。

「そんな!」

グレイは続けた。

「本日より」

「ヴァレリオン家が管理いたします」

広間が凍りつく。

王太子は初めて。

理解した。

これは。

ただの銀行問題ではない。

王国の経済そのものが。

奪われ始めている。

その様子を見ながら。

アルヴァルド皇太子は。

楽しそうに笑っていた。
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