婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ

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第18話 崩れ始めた王都

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第18話 崩れ始めた王都

王都の中央市場。

昼だというのに、人の数はいつもの半分以下だった。

並ぶはずの荷車がない。

魚の匂いも薄い。

野菜の棚は空。

肉屋の吊り棚も半分が空いたままだった。

商人たちは顔をしかめている。

一人の客が叫ぶ。

「パンが三倍だと!?」

パン屋の主人は困った顔をする。

「仕方ないんだ」

「小麦が来ない」

「港が止まってる」

客は信じられない顔をする。

「王都だぞ?」

別の商人が口を挟む。

「王都だからだ」

客が首を傾げる。

「どういう意味だ」

商人は言う。

「ヴァレリオンが止めた」

それだけで周囲が黙る。

ヴァレリオン。

王国最大の商会。

最大の銀行。

最大の物流。

つまり。

王都の血管そのものだった。

肉屋が言う。

「王太子が喧嘩売ったらしいな」

パン屋が小声で言う。

「公爵令嬢だろ」

「昨日の舞踏会」

客の一人が呟く。

「そんなことで王都が止まるのか」

魚屋が言った。

「相手が悪すぎた」

市場の空気は重かった。

その頃。

王宮。

財務局の会議室。

机の上には書類が山のように積まれていた。

財務卿ラドフォードは頭を抱えている。

「報告」

役人が言う。

「王都小麦価格」

「三倍」

「塩」

「二倍」

「肉」

「二倍」

ラドフォードは呻く。

「……まだ半日だぞ」

別の役人が言う。

「商人ギルドが保証停止です」

「信用取引がすべて止まりました」

ラドフォードは顔を上げる。

「地方は?」

役人は答える。

「税の送金停止」

「物流停止」

ラドフォードは椅子に沈んだ。

「王国の血流が止まっている」

その頃。

王太子の執務室。

ユリウス王太子は机を叩いた。

「たかが銀行だ!」

「王国を止められるはずがない!」

ラドフォードは疲れた声で言う。

「銀行ではありません」

王太子が睨む。

「何だと」

ラドフォードは言った。

「銀行」

「商会」

「港」

「物流」

「信用保証」

「すべて同じ家です」

沈黙。

王太子の拳が震える。

「……ヴァレリオン」

ラドフォードは頷く。

「王国最大の経済家です」

王太子は怒鳴る。

「なら叩き潰せ!」

ラドフォードは首を振る。

「無理です」

「兵糧も軍装備も」

「ヴァレリオン経由です」

王太子は言葉を失う。

その時。

執務室の扉が開いた。

近衛兵が入る。

「報告!」

王太子は苛立つ。

「またか!」

近衛兵は言った。

「南部鉱山の管理人から報告」

「ヴァレリオン家の役人が到着」

「鉱山の管理を開始しました」

王太子は立ち上がる。

「ふざけるな!」

近衛兵はさらに言う。

「西港でも同様です」

「関税局が」

「ヴァレリオン管理に変更されました」

王太子の顔が青ざめた。

ラドフォードが呟く。

「担保回収が始まった」

それはつまり。

王家の資産が。

次々と。

奪われ始めているということだった。

その頃。

ヴァレリオン公爵邸。

広い書斎。

カリスタは窓の外を眺めていた。

王都の屋根が遠くまで広がる。

その後ろに。

煙が上がっていた。

市場の混乱。

運送の停止。

混乱の兆し。

グレイが入ってくる。

「お嬢様」

カリスタは振り向かない。

「報告を」

グレイは言う。

「鉱山」

「港」

「関税」

「すべて予定通りです」

カリスタは小さく頷いた。

「そう」

そして。

紅茶を一口飲む。

「王太子は?」

グレイは答える。

「まだ理解しておりません」

カリスタは少し笑った。

「そうでしょうね」

そして窓の外を見る。

王都。

王国の中心。

だが。

その血管は。

すべて。

ヴァレリオン家の手の中だった。

カリスタは静かに言った。

「次の段階に入りましょう」

グレイは頷く。

「王国の信用」

「完全に崩しますか」

カリスタは答えた。

「いいえ」

そして。

ゆっくり言った。

「まだ早い」

「まず」

カップを置く。

「王太子に」

「理解していただきましょう」

その声は。

とても穏やかだった。

だが。

その言葉は。

王国にとって。

死刑宣告に近かった。
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