婚約破棄、追放された令嬢ですが、国民全員ついてきました ――国王陛下まで付いてくるのは聞いてません――

ふわふわ

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第8話 周辺諸国がざわつき始める

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第8話 周辺諸国がざわつき始める

仮設政庁が動き始めて三日目。

サクラ王国――いや、まだ誰もが“そう呼び慣れていない集落”には、奇妙な安定が生まれていた。

人は働き、休み、食事を分け合う。
命令がなくとも、朝には水汲みの列ができ、夜には自然と見回りが回る。

「……本当に、落ち着いていますわね」

政庁の簡易机に地図を広げながら、カグラは小さく呟いた。

「“国ができた”というより、“居場所が定まった”だけですからな」

学者の一人が、穏やかに答える。

「人は、行き先が決まれば、無闇に騒ぎません」

その言葉に、カグラは頷いた。

だが――外の世界は、そうはいかない。

「カグラ様」

仮設政庁の幕が上がり、騎士団副団長が入ってきた。

その表情は、どこか引き締まっている。

「周辺諸国から、偵察と思われる斥候が確認されました」

「……やはり、来ましたか」

副団長は地図を指す。

「西の小国、東の商業国家、そして南の大国。
いずれも、こちらを“未承認勢力”として警戒しています」

「当然ですわね」

カグラは、冷静に答えた。

「三万人規模の人間が、突然“国境外”に定住を始めたのですもの」

しかも――

「元王国の中枢人材を、ほぼ丸ごと連れて、です」

学者が苦笑する。

「諸国から見れば、悪夢でしょう」

その頃。

西方の小国では、王と側近たちが顔を突き合わせていた。

「追放された令嬢が、国を作った?」

「しかも、前国王まで同行?」

「……正気とは思えん」

だが、報告は続く。

「住民は秩序を保ち、略奪もなく、周辺村落との衝突もありません」

「……厄介だな」

東の商業国家では、反応が少し違っていた。

「三万の消費者か」

「いや、それ以上だ。
生産力を持つ集団だ」

「……商機だな」

一方、南の大国では。

「様子を見る」

その一言で、すべてが決まった。

力を持つ国ほど、軽率には動かない。

再び、サクラ王国。

「交渉が来るのは、時間の問題ですわね」

カグラは、そう結論づけた。

「ですが、こちらから出向く必要はありません」

「では?」

「相手が“国として扱うかどうか”を、向こうに選ばせます」

学者たちが、感心したように息を呑む。

「……挑発ではなく、試金石、ですか」

「ええ」

カグラは静かに言った。

「私たちは、侵略もしませんし、拡張もしません。
ただ、ここで生きます」

「それが、最も不安を煽るのでは……?」

「ええ。だからこそ」

カグラは微笑んだ。

「相手は必ず、話し合いを選びます」

その夜。

見張り台から、遠くに灯りが見えた。

斥候だ。
距離を保ち、決して近づいてこない。

「……見られていますわね」

国王が、楽しそうに言う。

「見られるうちは、襲われん」

「その理屈、楽観的すぎません?」

「長年、王をやっておると分かる」

国王は、空を見上げた。

「本当に恐ろしいものは、
見ずに、聞かずに、潰しに来る」

その言葉に、カグラは静かに頷いた。

(なら――)

(私たちは、見せ続ければいい)

火を灯し、秩序を保ち、静かに暮らす。

“追放された令嬢の国”が、
決して混乱でも、反乱でもないことを。

その夜、カグラは政庁の天幕で、一通の簡潔な文書を書いた。

「我々は、争いを望まない。
ただ、ここで生きる」

署名は、ない。

王の名も、女王の名も。

ただ一つ――
“意思”だけが、そこに記されていた。

周辺諸国がざわつく中、
サクラ王国は、静かに存在感を増していく。

それは、剣でも魔法でもない。

“人が集まるという事実”そのものが、力になる
その始まりだった。
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