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第28話 居場所は、許可ではなく実感でできる
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第28話 居場所は、許可ではなく実感でできる
朝の鐘が鳴った。
サクラ共同体の中央広場に、
人が集まり始めている。
理由は一つ――
新しい区画の整備だ。
「ここ、通路が狭いですね」
「水場はもう少し近いほうが……」
「日当たり、こっちは悪いな」
声は遠慮がちだが、
確実に“意見”だった。
以前なら、
与えられた場所に
黙って従っていた人々。
だが今は違う。
「……ずいぶん、
口が出るようになりましたね」
補佐官が、
半ば感心、半ば困惑した声で言う。
「ええ」
カグラは、
その様子を静かに見ていた。
「それでいいのです」
「でも、
全員の希望を聞いていたら……」
「聞きません」
きっぱり。
「反映できるものだけ、
拾えばいい」
「意見を言える、
という感覚が大切なのです」
昼前。
ひとつ、
問題が持ち上がった。
「共同住居の利用を、
断られました」
報告に、
カグラは顔を上げる。
「理由は?」
「……“自分の場所ではない気がする”と」
その言葉に、
カグラは少しだけ目を細めた。
(出ましたわね)
本人は、
中年の男性だった。
手先は器用だが、
人と距離を取る癖がある。
「なぜ、
そう思ったのです?」
カグラは、
直接尋ねた。
「……皆、
親切すぎるんです」
男は、
ぽつりと答えた。
「声をかけられて、
仕事を振られて、
居場所を用意されて……」
「でも、
俺が“ここにいたい”と
言った覚えはない」
周囲が、
息を呑む。
拒絶にも聞こえる言葉。
だが、
カグラは首を振った。
「違いますわね」
「……え?」
「それは、
拒絶ではありません」
「“実感が、
まだ追いついていない”だけ」
男は、
戸惑った表情をする。
「ここでは」
カグラは、
穏やかに続けた。
「居場所は、
与えられるものではありません」
「許可でも、
恩恵でもない」
「積み重ねて、
染み込ませるものです」
少し間を置いて。
「無理に、
住まなくていい」
「別の区画で、
小さな作業場を
持つのはどうです?」
「夜は、
一人で過ごしてもいい」
「必要になったら、
戻ってきてください」
男は、
しばらく黙っていた。
そして、
小さく頷いた。
「……それなら」
「やってみたい」
午後。
共同体の外れ。
誰も使っていなかった倉庫が、
簡単な作業場に変わり始める。
男は、
黙々と道具を並べた。
周囲は、
干渉しない。
ただ、
水と食事だけは
そっと置いていく。
夕方。
国王が、
少し呆れた顔で言った。
「随分、
手間のかかる国じゃな」
「ええ」
カグラは、
笑った。
「効率は、
とても悪いです」
「制度的には、
欠陥だらけ」
「ですが――」
遠くで、
倉庫の灯りが
一つ点る。
「人が、
勝手に根を張る」
「それだけで、
十分です」
数日後。
男は、
共同住居に
顔を出すようになった。
理由は、
特別なものではない。
「……工具が、
足りなくなって」
その言い訳に、
誰も笑わなかった。
夜。
記録官の報告書には、
短い一文が加えられた。
> サクラ共同体では、
居住の可否を
許可制としない。
> 代わりに、
“関係の濃度”が
自然発生的に
定着していく。
> これは、
統治としては
極めて不安定である。
> しかし――
住民の離脱率は、
異常なほど低い。
カグラは、
報告書を閉じ、
小さく呟いた。
「居場所は、
制度で作れません」
「ですが――」
灯りの増えた
共同体を見る。
「実感は、
嘘をつきません」
その夜、
また一つ。
“ここにいていい”という感覚が、
誰にも気づかれぬまま、
静かに増えていた。
朝の鐘が鳴った。
サクラ共同体の中央広場に、
人が集まり始めている。
理由は一つ――
新しい区画の整備だ。
「ここ、通路が狭いですね」
「水場はもう少し近いほうが……」
「日当たり、こっちは悪いな」
声は遠慮がちだが、
確実に“意見”だった。
以前なら、
与えられた場所に
黙って従っていた人々。
だが今は違う。
「……ずいぶん、
口が出るようになりましたね」
補佐官が、
半ば感心、半ば困惑した声で言う。
「ええ」
カグラは、
その様子を静かに見ていた。
「それでいいのです」
「でも、
全員の希望を聞いていたら……」
「聞きません」
きっぱり。
「反映できるものだけ、
拾えばいい」
「意見を言える、
という感覚が大切なのです」
昼前。
ひとつ、
問題が持ち上がった。
「共同住居の利用を、
断られました」
報告に、
カグラは顔を上げる。
「理由は?」
「……“自分の場所ではない気がする”と」
その言葉に、
カグラは少しだけ目を細めた。
(出ましたわね)
本人は、
中年の男性だった。
手先は器用だが、
人と距離を取る癖がある。
「なぜ、
そう思ったのです?」
カグラは、
直接尋ねた。
「……皆、
親切すぎるんです」
男は、
ぽつりと答えた。
「声をかけられて、
仕事を振られて、
居場所を用意されて……」
「でも、
俺が“ここにいたい”と
言った覚えはない」
周囲が、
息を呑む。
拒絶にも聞こえる言葉。
だが、
カグラは首を振った。
「違いますわね」
「……え?」
「それは、
拒絶ではありません」
「“実感が、
まだ追いついていない”だけ」
男は、
戸惑った表情をする。
「ここでは」
カグラは、
穏やかに続けた。
「居場所は、
与えられるものではありません」
「許可でも、
恩恵でもない」
「積み重ねて、
染み込ませるものです」
少し間を置いて。
「無理に、
住まなくていい」
「別の区画で、
小さな作業場を
持つのはどうです?」
「夜は、
一人で過ごしてもいい」
「必要になったら、
戻ってきてください」
男は、
しばらく黙っていた。
そして、
小さく頷いた。
「……それなら」
「やってみたい」
午後。
共同体の外れ。
誰も使っていなかった倉庫が、
簡単な作業場に変わり始める。
男は、
黙々と道具を並べた。
周囲は、
干渉しない。
ただ、
水と食事だけは
そっと置いていく。
夕方。
国王が、
少し呆れた顔で言った。
「随分、
手間のかかる国じゃな」
「ええ」
カグラは、
笑った。
「効率は、
とても悪いです」
「制度的には、
欠陥だらけ」
「ですが――」
遠くで、
倉庫の灯りが
一つ点る。
「人が、
勝手に根を張る」
「それだけで、
十分です」
数日後。
男は、
共同住居に
顔を出すようになった。
理由は、
特別なものではない。
「……工具が、
足りなくなって」
その言い訳に、
誰も笑わなかった。
夜。
記録官の報告書には、
短い一文が加えられた。
> サクラ共同体では、
居住の可否を
許可制としない。
> 代わりに、
“関係の濃度”が
自然発生的に
定着していく。
> これは、
統治としては
極めて不安定である。
> しかし――
住民の離脱率は、
異常なほど低い。
カグラは、
報告書を閉じ、
小さく呟いた。
「居場所は、
制度で作れません」
「ですが――」
灯りの増えた
共同体を見る。
「実感は、
嘘をつきません」
その夜、
また一つ。
“ここにいていい”という感覚が、
誰にも気づかれぬまま、
静かに増えていた。
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