派手にしない工房は、今日もちゃんと続いている

ふわふわ

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第十八話 中央広場の決着と、選ばれた未来

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第十八話 中央広場の決着と、選ばれた未来

 中央広場は、朝から異様な熱気に包まれていた。

 王都の中心に位置するこの場所は、祭りや式典のために使われることが多い。だが今日集まっている人々の表情は、浮かれたものではない。期待と緊張、そして好奇心が入り混じっている。

「……本当に、人が集まりましたわね」

 控えの天幕の中で、リリカは外の様子を眺めながら静かに言った。

「王都中の噂が、ここに集まってる」

 シオンは短く答えた。
 表情はいつもと変わらないが、その背筋はわずかに張り詰めている。

 裏通りの小さな菓子店と、王都一の高級菓子商会。
 その勝負の行方を、誰もが見届けようとしていた。

「緊張、してるか」

 不意に、シオンが問いかける。

「ええ」

 リリカは正直に頷いた。

「ですが、不安ではありません」

「……違いは」

「覚悟の有無ですわ」

 そう言って、彼女は小さく微笑んだ。

 やがて、合図の鐘が鳴り響く。
 勝負の舞台が、正式に始まった。

 広場の中央には二つの特設台が設けられている。
 一方は、ヴァレンティーヌ商会。豪奢な装飾、磨き上げられた台、華やかな衣装の店員たち。
 もう一方は、裏通りの菓子店。質素だが整った台、余計な装飾はなく、焼き菓子の香りだけが漂っている。

「……対照的だな」

「ええ。分かりやすいほどに」

 リリカは、静かに前へ進み出た。

 司会役の役人が、声を張り上げる。

「本日は、王都菓子商対決の最終結果を、ここに発表する!」

 どよめきが広場を包む。

「評価基準は三つ。売上、再訪率、そして市民からの評判!」

 まず発表されたのは、売上。

「期間中の総売上は――ヴァレンティーヌ商会が、わずかに上回る!」

 歓声が上がる。
 高級菓子店側の陣営が、安堵したように息を吐いた。

 だが、リリカは表情を変えない。

(想定内ですわ)

 次に、再訪率。

「一定期間内に、同じ店を再び利用した割合――こちらは!」

 司会が、少し言葉を区切る。

「裏通りの菓子店が、大きく上回った!」

 ざわめきが一気に広がる。

「やっぱり、通いやすいって大事だよな」

「毎日食べても、重くないし」

 ヴァレンティーヌ商会側に、わずかな動揺が走った。

 そして、最後の項目。

「市民からの評判――アンケートと聞き取りの結果を、総合的に判断した評価は……」

 一瞬、広場が静まり返る。

「裏通りの菓子店が、僅差で上回った!」

 その瞬間、どよめきは歓声へと変わった。

「勝者は――」

 司会が、はっきりと宣言する。

「裏通りの菓子店!」

 拍手と歓声が、広場を揺らした。

 シオンは、一瞬、現実を理解できずに立ち尽くしていた。

「……勝った、のか」

「ええ」

 リリカは、深く息を吐きながら答えた。

「私たちの勝ちです」

 ヴァレンティーヌ商会の代表として立っていたクラリスは、一歩前に出る。

 その表情には、悔しさと同時に、どこか清々しさがあった。

「……完敗、ですわね」

 彼女は、リリカに向かって頭を下げた。

「日常を、甘く見ていました」

「いいえ」

 リリカは、静かに首を振る。

「あなたの菓子が、多くの人にとって特別であることは変わりません」

 クラリスは一瞬驚いたように目を瞬かせ、やがて微笑んだ。

「……認めますわ。あなたの勝ちです」

 その言葉に、周囲から再び拍手が起こる。

 そして、場の視線が一斉に向けられた先――
 第二王子アルベルトが、静かに前へ進み出た。

「勝負は、明確な結果を出した」

 彼は、広場を見渡す。

「王女リリカが関わった店は、王都に利益と活気をもたらした」

 一瞬、リリカを見る。

「……これを、否定する理由はない」

 ざわめきが、さらに大きくなる。

「婚約の話は、白紙とする」

 はっきりとした宣言だった。

「代わりに」

 アルベルトは、続ける。

「王女リリカには、商業と民間経済を結ぶ正式な役職を用意する」

 リリカは、深く一礼した。

「ありがたく、お受けいたします」

 それは、逃げではない。
 勝ち取った選択だった。

 式典が終わり、人々が散っていく中。
 広場の片隅で、二人は並んで立っていた。

「……終わったな」

 シオンが、ぽつりと呟く。

「ええ」

 リリカは、穏やかに答えた。

「ですが、始まりでもあります」

 彼は、彼女を見る。

「これからは……どうなる」

「店は、形を変えます」

 リリカは正直に言った。

「今までのようには、続けられません」

「……それでも」

 シオンの声に、わずかな不安が滲む。

 リリカは、はっきりと彼を見た。

「あなたの菓子が、王都から消えることはありません」

 そして、少しだけ声を柔らかくする。

「それに――」

 彼女は、微笑んだ。

「一緒にやる、と言ってくださいましたでしょう?」

 シオンは、一瞬言葉を失い、やがて深く頷いた。

「ああ」

 その一言で、十分だった。

 裏通りの菓子店は、役目を終える。
 だが、そこで生まれた信頼と味は、形を変えて広がっていく。

 日常を甘くする力は、もう誰にも否定できない。

 中央広場で下された決着は、
 同時に、新しい未来への扉を開いていた。
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