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第二十四話 結果と、静かな逆転
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第二十四話 結果と、静かな逆転
監査結果が出るまでの数日間は、長いようで短かった。
工房では、相変わらず菓子が焼かれ、帳簿が付けられ、出荷が行われる。
誰かが騒ぎ立てることもなく、特別な演出もない。
ただ、いつも通りの日常が積み重ねられていった。
「……妙だな」
ある朝、シオンがぽつりと呟いた。
「何がですの?」
「圧が、弱まってる」
確かに、ここ数日は新たな監査官も来ていない。
取引停止を示唆するような連絡もなく、噂だけが静かに沈んでいく。
「ええ」
リリカは帳簿から顔を上げる。
「相手が引き際を測っています」
「……終わった、ってことか」
「いいえ」
彼女は、首を横に振った。
「終わる前が、一番危険です」
その言葉通り、昼前に王城からの正式な使者が訪れた。
「監査結果の通達です」
差し出された書状には、王城の公印が押されている。
工房の中に、わずかな緊張が走る。
リリカは、落ち着いた所作で封を切り、内容に目を通した。
「……不正行為なし」
その一言に、シオンが息を吐く。
「原材料、製造工程、流通、価格設定、すべて適正」
彼女は、静かに読み上げる。
「特記事項なし、以上」
あまりにも、淡々とした結論だった。
「……拍子抜けだな」
「ええ」
リリカは、書状を畳む。
「ですが、これが一番の結果です」
その日の午後、工房の前がにわかに騒がしくなった。
「……張り紙?」
扉の横に、新たな掲示が貼られている。
【監査終了のお知らせ
本工房は、王城の監査をすべてクリアし、問題がなかったことをここに報告いたします】
「……やることが、早いな」
「ええ」
リリカは、わずかに口角を上げた。
「こちらから、静かに示すだけです」
その効果は、予想以上に早く現れた。
「……契約、再開したい」
「うちもだ」
「むしろ、量を増やせないか?」
午後のうちに、取引再開の連絡が相次ぐ。
「……全部、戻ってきたな」
「ええ」
リリカは、冷静に整理する。
「ですが、以前と同じではありません」
「……どういう意味だ」
「選別されます」
彼女は、はっきりと言った。
「こちらが」
シオンは、少し驚いた顔をする。
「……選ぶ側、ってやつか」
「ええ」
その日の夕方。
王城の一室で、静かな会話が交わされていた。
「……結果は、想定通りだな」
「ええ。不正は出ませんでした」
「それで、工房は?」
「むしろ、評価が上がっています」
沈黙。
「……王女を止める理由が、なくなったな」
「ええ」
別の声が、淡々と続ける。
「ここで手を出せば、こちらが疑われます」
その事実が、何よりも重かった。
夜。
工房の作業が終わり、二人は並んで椅子に腰掛けていた。
「……逆転、したな」
シオンが、静かに言う。
「ええ」
リリカは頷く。
「大きな声を出さずに、静かに」
「派手じゃないな」
「派手にすると、反発されます」
彼女は、少しだけ微笑んだ。
「日常は、静かに守るものですから」
看板の前に立ち、シオンはそれを見上げる。
「……これ、まだ掛けないのか」
「もう少しだけ」
「理由は?」
リリカは、少し考えてから答えた。
「“結果が出たから”ではなく」
そして、彼を見た。
「“続いているから”掛けたいのです」
シオンは、しばらく黙り込み、やがて頷いた。
「……分かった」
工房は、守られた。
いや、守ったのだ。
誰かの権威ではなく、
誰かの圧力でもなく、
積み重ねた日常によって。
そして、この静かな逆転は――
次の段階への、合図でもあった。
甘い香りの中で、
新しい選択肢が、静かに芽吹いていることを。
リリカだけが、すでに理解していた。
監査結果が出るまでの数日間は、長いようで短かった。
工房では、相変わらず菓子が焼かれ、帳簿が付けられ、出荷が行われる。
誰かが騒ぎ立てることもなく、特別な演出もない。
ただ、いつも通りの日常が積み重ねられていった。
「……妙だな」
ある朝、シオンがぽつりと呟いた。
「何がですの?」
「圧が、弱まってる」
確かに、ここ数日は新たな監査官も来ていない。
取引停止を示唆するような連絡もなく、噂だけが静かに沈んでいく。
「ええ」
リリカは帳簿から顔を上げる。
「相手が引き際を測っています」
「……終わった、ってことか」
「いいえ」
彼女は、首を横に振った。
「終わる前が、一番危険です」
その言葉通り、昼前に王城からの正式な使者が訪れた。
「監査結果の通達です」
差し出された書状には、王城の公印が押されている。
工房の中に、わずかな緊張が走る。
リリカは、落ち着いた所作で封を切り、内容に目を通した。
「……不正行為なし」
その一言に、シオンが息を吐く。
「原材料、製造工程、流通、価格設定、すべて適正」
彼女は、静かに読み上げる。
「特記事項なし、以上」
あまりにも、淡々とした結論だった。
「……拍子抜けだな」
「ええ」
リリカは、書状を畳む。
「ですが、これが一番の結果です」
その日の午後、工房の前がにわかに騒がしくなった。
「……張り紙?」
扉の横に、新たな掲示が貼られている。
【監査終了のお知らせ
本工房は、王城の監査をすべてクリアし、問題がなかったことをここに報告いたします】
「……やることが、早いな」
「ええ」
リリカは、わずかに口角を上げた。
「こちらから、静かに示すだけです」
その効果は、予想以上に早く現れた。
「……契約、再開したい」
「うちもだ」
「むしろ、量を増やせないか?」
午後のうちに、取引再開の連絡が相次ぐ。
「……全部、戻ってきたな」
「ええ」
リリカは、冷静に整理する。
「ですが、以前と同じではありません」
「……どういう意味だ」
「選別されます」
彼女は、はっきりと言った。
「こちらが」
シオンは、少し驚いた顔をする。
「……選ぶ側、ってやつか」
「ええ」
その日の夕方。
王城の一室で、静かな会話が交わされていた。
「……結果は、想定通りだな」
「ええ。不正は出ませんでした」
「それで、工房は?」
「むしろ、評価が上がっています」
沈黙。
「……王女を止める理由が、なくなったな」
「ええ」
別の声が、淡々と続ける。
「ここで手を出せば、こちらが疑われます」
その事実が、何よりも重かった。
夜。
工房の作業が終わり、二人は並んで椅子に腰掛けていた。
「……逆転、したな」
シオンが、静かに言う。
「ええ」
リリカは頷く。
「大きな声を出さずに、静かに」
「派手じゃないな」
「派手にすると、反発されます」
彼女は、少しだけ微笑んだ。
「日常は、静かに守るものですから」
看板の前に立ち、シオンはそれを見上げる。
「……これ、まだ掛けないのか」
「もう少しだけ」
「理由は?」
リリカは、少し考えてから答えた。
「“結果が出たから”ではなく」
そして、彼を見た。
「“続いているから”掛けたいのです」
シオンは、しばらく黙り込み、やがて頷いた。
「……分かった」
工房は、守られた。
いや、守ったのだ。
誰かの権威ではなく、
誰かの圧力でもなく、
積み重ねた日常によって。
そして、この静かな逆転は――
次の段階への、合図でもあった。
甘い香りの中で、
新しい選択肢が、静かに芽吹いていることを。
リリカだけが、すでに理解していた。
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