婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

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第5話 広がる噂と、自由な朝

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王宮を離れて二日目の朝。
エレノアは、久しぶりに“アラームも侍女の呼び出しもない朝”を迎えた。

カーテン越しに差し込む陽光。
庭から聞こえる小鳥のさえずり。

(なんて素敵な朝でしょう……!
目覚めの時間を自分で決められるって、こんなにも幸せなのですの?)

完全に“解放された令嬢”の顔をしている。

そんなエレノアの元へ、侍女ミリアが慌てて駆け込んできた。

「お嬢様! 大変です!」

「まぁ、どうしましたの?」
エレノアは寝起きの髪をふわりとかき上げながら、紅茶を一口。

「噂が――噂がすごいことに!」

ミリアは新聞数部と手紙を抱えている。

─────────────────────

◆王都に渦巻く噂

ミリアが新聞を広げると、一面に大きな見出しが躍っていた。

『第一王子、平民少女に夢中!?
元婚約者エレノア様の涙に王都が揺れる』

エレノアは眉をひそめた。

(元婚約者って……ええ、まあ、その通りですけれども)

ミリアは続けて、別の新聞を見せる。

『王子殿下、慈善活動中の平民少女に寄り添う姿
“可憐な愛”に国中の注目集まる』

(慈善活動……昨日市場でパン配ってたあれですわね。
あのパン、誰が払うのかしら?)

ミリアは手紙も読み上げた。

「貴族夫人からの噂話なのですが……
“リリィ様が買い物の代金を払っていないらしい”とか、
“裏で何かの組織と繋がっているのでは”とか……」

エレノアは紅茶をくるりと回す。

(まぁ、早いところボロが出るでしょうね。
わざとらしい慈善行動、金銭の不透明さ、急な貴族入り……
あれでは長く保ちませんわ)

ミリアがさらに小声で続ける。

「それから……“王子殿下、エレノア様の価値が分からなかったのでは”という噂も……」

エレノアは一瞬キョトンとした。

(わたくしの価値? いえ、婚約破棄してくださって感謝してますけれど?)

だが世間は違うらしい。

婚約破棄の場で泣き崩れるエレノア(※演技)の姿が、人々の心を掴んだ結果――

「殿下が間違っている」
「エレノア様は健気で美しい」

という評価が、王都中に広がっていたのだ。

ミリアは苦笑いを浮かべる。

「お嬢様は優しい方だ、と皆が……。
……あの演技が、ここまで影響を与えるとは思いませんでした」

「演技……?」
エレノアは優雅に首をかしげる。

「わたくし、ただの感情表現をしただけですわよ?」

ミリア(※信じてない)

─────────────────────

◆王子側のイメージ、低下中

ミリアはさらに新しい情報を伝えた。

「王宮内でも混乱が起きていて……
殿下はリリィ様とばかり過ごして仕事が遅れ、
国王が激怒されているとか!」

エレノアは目をぱちぱち瞬かせた。

(え? 二日で?
ずいぶん早く火がつきましたわね)

侍女は続ける。

「側近たちも“リリィ様は何かを隠しているのでは”と疑い始めていて……」

(まぁ、当然ですわね。
あの人、見るからに“善行アピールが過剰”でしたし)

エレノアはため息をついた。

「皆さま大変ですわねぇ。
わたくしは、もう関係ありませんけれど」

心底晴れやかな声だった。

ミリアの表情がますます複雑になる。

(……いや、本当に関係ないって顔をしてますわ……
婚約破棄されたばかりの人間の顔ではない……)

─────────────────────

◆自由令嬢の午前

エレノアは紅茶を置き、立ち上がった。

「ミリア。今日は図書室にこもって読書して、
午後は焼き菓子を作りますわ。材料をお願いね」

「……はい、お嬢様。
(……お嬢様、貴族社会の中心人物なのですよ?)」

エレノアはくるりとスカートを揺らしながら微笑む。

「婚約破棄って、本当に素晴らしいですわね」

窓の外で、春風が心地よく吹き抜ける。

王都が大騒ぎしようと、
王子が混乱しようと、
リリィの裏の顔が見え始めようと――

エレノアの日常は、とてつもなく平和だった。

その平和が、
この先ある“出会い”によって大きく動き出すことを、
まだ彼女は知らない。
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