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第24話 “天使”リリィ、夜逃げする
しおりを挟む王宮の監査官に連行されたリリィは、その日のうちに王都の取調べ室へと移された。
尋問が始まる――はずだった。
だが翌朝。
「――リリィ嬢が、逃げました!!」
王都中に衝撃が走った。
◆ 夜明け前の脱走
見張りの兵士が報告する。
「昨夜、取調べ室にいたはずのリリィ嬢が……忽然と姿を消しまして……!」
「窓は?」
「小窓がひとつ。外側に降りた形跡が……」
「足跡は?」
「……裸足で逃げたようです。泥の跡が王都の外門まで続いています」
騎士たちは顔を青くした。
「あの女、どこまで浅ましいんだ……」
「いや、逆に執念がすごい……」
王都の民は朝市で大騒ぎだった。
「逃げたんだって!?」
「詐欺師の癖に王子の恋人面してたあの子ね!」
「王子様、もう何も信じられないんじゃ……」
そして王宮にも噂は即座に届く。
「陛下、リリィが逃亡したとのことです!」
「……はぁぁぁぁぁ……!!」
国王は眉間を押さえ、深く、深く、心底からため息を吐いた。
「愚息が詐欺師に騙され、今度はその詐欺師が逃げる……
これ以上の恥があるか……!」
王宮の空気は、地の底に沈むような重苦しさに包まれた。
◆ 王子の反応
アレクシオンは報告を受け、顔を真っ青にした。
「リ、リリィが……逃げた……?」
呆然と立ち尽くす彼。
「殿下……どうかお気を確かに……」
「なぜだ……なぜ逃げるんだ……?
私は……私は、あの子を……守るつもりだったのに……!」
彼の震える声を聞いた侍従たちは、誰一人として慰めることができなかった。
(殿下……同情はしますが、これは自業自得というものです……)
誰もが内心でそう思っていた。
◆ 一方そのころ、辺境のエレノアは……
公爵邸の広い庭園。
鳥の声が響き、暖かい陽射しが降り注いでいる。
侍女が最新の王都の噂を持って駆け込んだ。
「エレノア様! リリィ嬢が逃亡したそうです!」
「まぁ」
エレノアは紅茶を口にしながら、ぴくりとも動じなかった。
「驚かれませんの……?」
「いえ。むしろ少し遅いくらいかと思いましたわ」
「……というと?」
「詐欺を生業としている人は、捕まる前に逃げるのが常ですもの。
騒ぎが大きくなった今、王宮に残る理由はありませんわ」
あまりにも冷静、そして的確な判断。
侍女はぽかんと口を開けた。
(……やっぱり格が違うわ、このお方)
エレノアは軽くため息をついた。
「とはいえ、王宮は大変ですわね」
「ですがエレノア様は、もう関係ございません!」
「ええ。婚約破棄されて、本当に良かったですわ」
優雅に微笑むその姿は、まさに“勝ち組”そのもの。
王子と王宮が混乱へ沈む一方で、
エレノアは美しい庭園で、午後の紅茶をゆったり味わっていた。
◆ ◆ ◆
こうして――
リリィは逃亡、王子は絶望、王宮は崩壊寸前。
ただ一人エレノアだけが、平和そのものの生活を謳歌していた。
物語は、ついに王子の“復縁願望”へ進んでいく――。
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