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第35話 静かな選択
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第35話 静かな選択
春の気配が、
王都の石畳に
ゆっくりと染み込んでいく。
花屋の店先には
色とりどりの花が並び、
人々の足取りも
どこか軽い。
政治の季節は、
いつの間にか
過ぎ去っていた。
---
王宮・私室。
マリー・アウストラリスは、
机の上に広げられた
一通の書簡を
静かに見つめていた。
差出人は――
アルファルド公爵家。
内容は簡潔だ。
「当面、
王宮への定期訪問を
控えさせていただきます」
理由は書かれていない。
だが、
マリーには分かっていた。
(……もう、
支える必要が
なくなったのですわね)
国は安定し、
派閥は融解し、
誰かが“象徴”として
立つ必要もない。
それは、
シャウラ自身の
望みでもあった。
「……感謝、
しなければなりませんわね」
宰相に告げると、
彼は深く頷いた。
「はい。
アルファルド公爵令嬢は、
最後まで
“何もしない”という
役目を果たされました」
---
アルファルド公爵邸。
シャウラは、
庭のベンチに腰掛け、
紅茶を口にしていた。
「……今日は、
本当に静かですわ」
訪問客はない。
急な使者もない。
予定表は、
ほとんど白紙だ。
「ようやく、
元に戻りましたね」
侍女の言葉に、
シャウラは
小さく微笑む。
「ええ。
少し……
長すぎましたわ」
彼女は、
誰かに感謝されることも、
称えられることも
望んでいない。
ただ、
静かな日常が
戻ってきただけだ。
それで、
十分だった。
---
一方、
神殿。
ジャネットは、
孤児院を訪れていた。
聖女としての
新しい役目――
癒やしと祈り。
それは、
華やかなものではない。
だが、
目の前で
誰かが安らぐ。
その事実は、
確かに胸を満たした。
「……ありがとう」
小さな声。
それに、
彼女は
ただ頷く。
(……これで、
いいのよね)
政治の舞台から
降りたことで、
初めて
“自分の場所”が
見え始めていた。
---
夕刻。
王都の丘の上。
マリーは、
一人、
夕焼けを眺めていた。
王太子を立てなかった国。
聖女を祭り上げなかった王権。
派閥を解体せず、
溶かした選択。
それらはすべて、
危うさと隣り合わせだった。
(……でも)
「誰かを
犠牲にするよりは、
ずっといいですわ」
その言葉は、
誰に向けたものでもない。
だが、
きっとどこかで
シャウラにも
届いているだろう。
---
夜。
アルファルド公爵邸の
書斎。
シャウラは、
手紙を書いていた。
宛名はない。
下書きにもならない
独り言のような文章。
「今日も、
何事もありませんでした」
「それが、
とても嬉しいのです」
書き終えると、
紙を畳み、
引き出しにしまう。
誰かに
読ませるための
言葉ではない。
自分のための
確認だった。
---
この日、
国のどこにも
大きな出来事は起きなかった。
だが、
それこそが――
この物語が
辿り着いた
一つの答えだった。
婚約破棄から始まった
“ざまぁ”は、
誰かを踏み潰す形では
終わらない。
静かに、
それぞれが
本来の場所へ
戻っていく。
それが、
この国の選んだ
結末への道だった。
春の気配が、
王都の石畳に
ゆっくりと染み込んでいく。
花屋の店先には
色とりどりの花が並び、
人々の足取りも
どこか軽い。
政治の季節は、
いつの間にか
過ぎ去っていた。
---
王宮・私室。
マリー・アウストラリスは、
机の上に広げられた
一通の書簡を
静かに見つめていた。
差出人は――
アルファルド公爵家。
内容は簡潔だ。
「当面、
王宮への定期訪問を
控えさせていただきます」
理由は書かれていない。
だが、
マリーには分かっていた。
(……もう、
支える必要が
なくなったのですわね)
国は安定し、
派閥は融解し、
誰かが“象徴”として
立つ必要もない。
それは、
シャウラ自身の
望みでもあった。
「……感謝、
しなければなりませんわね」
宰相に告げると、
彼は深く頷いた。
「はい。
アルファルド公爵令嬢は、
最後まで
“何もしない”という
役目を果たされました」
---
アルファルド公爵邸。
シャウラは、
庭のベンチに腰掛け、
紅茶を口にしていた。
「……今日は、
本当に静かですわ」
訪問客はない。
急な使者もない。
予定表は、
ほとんど白紙だ。
「ようやく、
元に戻りましたね」
侍女の言葉に、
シャウラは
小さく微笑む。
「ええ。
少し……
長すぎましたわ」
彼女は、
誰かに感謝されることも、
称えられることも
望んでいない。
ただ、
静かな日常が
戻ってきただけだ。
それで、
十分だった。
---
一方、
神殿。
ジャネットは、
孤児院を訪れていた。
聖女としての
新しい役目――
癒やしと祈り。
それは、
華やかなものではない。
だが、
目の前で
誰かが安らぐ。
その事実は、
確かに胸を満たした。
「……ありがとう」
小さな声。
それに、
彼女は
ただ頷く。
(……これで、
いいのよね)
政治の舞台から
降りたことで、
初めて
“自分の場所”が
見え始めていた。
---
夕刻。
王都の丘の上。
マリーは、
一人、
夕焼けを眺めていた。
王太子を立てなかった国。
聖女を祭り上げなかった王権。
派閥を解体せず、
溶かした選択。
それらはすべて、
危うさと隣り合わせだった。
(……でも)
「誰かを
犠牲にするよりは、
ずっといいですわ」
その言葉は、
誰に向けたものでもない。
だが、
きっとどこかで
シャウラにも
届いているだろう。
---
夜。
アルファルド公爵邸の
書斎。
シャウラは、
手紙を書いていた。
宛名はない。
下書きにもならない
独り言のような文章。
「今日も、
何事もありませんでした」
「それが、
とても嬉しいのです」
書き終えると、
紙を畳み、
引き出しにしまう。
誰かに
読ませるための
言葉ではない。
自分のための
確認だった。
---
この日、
国のどこにも
大きな出来事は起きなかった。
だが、
それこそが――
この物語が
辿り着いた
一つの答えだった。
婚約破棄から始まった
“ざまぁ”は、
誰かを踏み潰す形では
終わらない。
静かに、
それぞれが
本来の場所へ
戻っていく。
それが、
この国の選んだ
結末への道だった。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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