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第二十話 義妹の暴言
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第二十話 義妹の暴言
王宮の回廊は、やけに静かだった。
以前なら、ミリアが通れば侍女たちは微笑み、貴族の夫人たちは優しく声をかけた。
――可哀想な妹様。 ――傷ついた被害者様。
だが今は違う。
視線は逸らされ、会釈は形式だけ。
囁きは、止まらない。
「聖女様、失敗なさったそうよ」 「王太子殿下の支出も問題になっているとか」 「公爵令嬢様は……動いているらしいわ」
ミリアは歯を噛みしめる。
どうして。
私は被害者なのに。
あの日、舞踏会で泣いたのは本当だ。 王太子に縋りついたのも本心。
けれど。
それが今、裏目に出ている。
王妃教育の講義室。
老女官が淡々と書物を閉じた。
「本日はここまでといたしましょう」
「待ってください!」
ミリアが立ち上がる。
「なぜ、最近は短いのですか? 私は王太子妃になるのですよ?」
室内の空気が冷える。
老女官は一瞬だけ目を細めた。
「……まだ、正式ではございません」
「何ですって?」
「廃嫡の噂が広がっておりますので」
その言葉が刃のように刺さる。
「嘘よ!」
ミリアの声が高くなる。
「お姉様が裏で何かしているのよ! あの女が!」
老女官の眉が動く。
「そのような言葉遣いは、王妃の器ではございません」
「私は間違っていないわ!」
椅子が倒れる。
講義室の扉が開き、廊下の侍女たちが驚いて振り向く。
ミリアは止まらない。
「全部あの女のせいよ! 奇跡だって! お金だって! お姉様が供給を止めたからでしょう!?」
沈黙。
その言葉が、決定的だった。
供給。
奇跡。
材料。
それは“演出”の存在を認める言葉。
老女官は静かに言う。
「それは……どういう意味でございましょう」
ミリアは口を押さえる。
言い過ぎた。
だが遅い。
その場にいた数名の侍女は、はっきりと聞いていた。
夕刻。
王宮内の噂は、嵐のように広がる。
「義妹様が奇跡の材料を知っていた?」 「つまり最初から……?」 「王太子妃候補が、演出を理解していた?」
信頼は、砂のように崩れる。
カイルベルトはミリアを呼び出した。
「何を言った?」
「わ、私は……」
「供給が止まったと言ったな?」
王太子の目は冷たい。
「それは、奇跡が作られていたと認めることだ」
「違うの! 私は……ただ……!」
涙がこぼれる。
だが今、涙は効かない。
「軽率だ」
その一言が重い。
「お前は、王妃の器ではない」
ミリアの顔が蒼白になる。
「……殿下?」
王太子は背を向ける。
かつては守ると誓った少女。
だが今、守る余裕はない。
自分の立場すら危ういのだから。
公爵邸。
私は報告を受け、目を伏せた。
「公の場で?」
「はい。複数の証言がございます」
アーヴィンの声は淡々としている。
「愚かですわね」
「焦りは、人を正直にします」
私は小さく微笑む。
義妹は演技に向いていた。
だが孤立には弱い。
守られている間は強い。 一人になると、崩れる。
王宮では、王妃教育が正式に停止された。
「調査終了まで保留」
それが公式理由。
だが実質的には――失格。
夜。
ミリアは一人、自室で鏡を見つめる。
「どうして……」
可哀想な妹。
その物語は終わった。
民は、奇跡の失敗を見た。 王家の借金を聞いた。 司祭の裏金を知った。
そして今、義妹の軽率な暴言。
物語は崩れた。
私は窓辺に立つ。
「自滅は、美しいですわね」
アーヴィンが静かに頷く。
「手を下す必要がございません」
「ええ」
義妹の暴言。
それは感情の爆発。
けれど、その一言が。
奇跡の正体と、教会の演出を繋ぐ鍵になった。
王太子殿下。
あなたが選んだ“可哀想な妹”は。
自ら、舞台装置を壊しました。
ざまぁは、さらに加速いたします。
王宮の回廊は、やけに静かだった。
以前なら、ミリアが通れば侍女たちは微笑み、貴族の夫人たちは優しく声をかけた。
――可哀想な妹様。 ――傷ついた被害者様。
だが今は違う。
視線は逸らされ、会釈は形式だけ。
囁きは、止まらない。
「聖女様、失敗なさったそうよ」 「王太子殿下の支出も問題になっているとか」 「公爵令嬢様は……動いているらしいわ」
ミリアは歯を噛みしめる。
どうして。
私は被害者なのに。
あの日、舞踏会で泣いたのは本当だ。 王太子に縋りついたのも本心。
けれど。
それが今、裏目に出ている。
王妃教育の講義室。
老女官が淡々と書物を閉じた。
「本日はここまでといたしましょう」
「待ってください!」
ミリアが立ち上がる。
「なぜ、最近は短いのですか? 私は王太子妃になるのですよ?」
室内の空気が冷える。
老女官は一瞬だけ目を細めた。
「……まだ、正式ではございません」
「何ですって?」
「廃嫡の噂が広がっておりますので」
その言葉が刃のように刺さる。
「嘘よ!」
ミリアの声が高くなる。
「お姉様が裏で何かしているのよ! あの女が!」
老女官の眉が動く。
「そのような言葉遣いは、王妃の器ではございません」
「私は間違っていないわ!」
椅子が倒れる。
講義室の扉が開き、廊下の侍女たちが驚いて振り向く。
ミリアは止まらない。
「全部あの女のせいよ! 奇跡だって! お金だって! お姉様が供給を止めたからでしょう!?」
沈黙。
その言葉が、決定的だった。
供給。
奇跡。
材料。
それは“演出”の存在を認める言葉。
老女官は静かに言う。
「それは……どういう意味でございましょう」
ミリアは口を押さえる。
言い過ぎた。
だが遅い。
その場にいた数名の侍女は、はっきりと聞いていた。
夕刻。
王宮内の噂は、嵐のように広がる。
「義妹様が奇跡の材料を知っていた?」 「つまり最初から……?」 「王太子妃候補が、演出を理解していた?」
信頼は、砂のように崩れる。
カイルベルトはミリアを呼び出した。
「何を言った?」
「わ、私は……」
「供給が止まったと言ったな?」
王太子の目は冷たい。
「それは、奇跡が作られていたと認めることだ」
「違うの! 私は……ただ……!」
涙がこぼれる。
だが今、涙は効かない。
「軽率だ」
その一言が重い。
「お前は、王妃の器ではない」
ミリアの顔が蒼白になる。
「……殿下?」
王太子は背を向ける。
かつては守ると誓った少女。
だが今、守る余裕はない。
自分の立場すら危ういのだから。
公爵邸。
私は報告を受け、目を伏せた。
「公の場で?」
「はい。複数の証言がございます」
アーヴィンの声は淡々としている。
「愚かですわね」
「焦りは、人を正直にします」
私は小さく微笑む。
義妹は演技に向いていた。
だが孤立には弱い。
守られている間は強い。 一人になると、崩れる。
王宮では、王妃教育が正式に停止された。
「調査終了まで保留」
それが公式理由。
だが実質的には――失格。
夜。
ミリアは一人、自室で鏡を見つめる。
「どうして……」
可哀想な妹。
その物語は終わった。
民は、奇跡の失敗を見た。 王家の借金を聞いた。 司祭の裏金を知った。
そして今、義妹の軽率な暴言。
物語は崩れた。
私は窓辺に立つ。
「自滅は、美しいですわね」
アーヴィンが静かに頷く。
「手を下す必要がございません」
「ええ」
義妹の暴言。
それは感情の爆発。
けれど、その一言が。
奇跡の正体と、教会の演出を繋ぐ鍵になった。
王太子殿下。
あなたが選んだ“可哀想な妹”は。
自ら、舞台装置を壊しました。
ざまぁは、さらに加速いたします。
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