婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第二話 最初の拒絶

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第二話 最初の拒絶

翌朝、王都は何事もなかったかのように動いていた。

市場は開き、馬車は行き交い、商人は声を張り上げる。

わたくしの婚約破棄など、王都全体から見れば一つの噂話に過ぎない。

けれど――噂は確実に広がっている。

「元王太子妃候補が商売を始めるらしい」

「没落の始まりだな」

「ギルドが黙っていまい」

侍女がそっと告げるたび、わたくしは紅茶を一口含むだけ。

動揺などない。

むしろ、好都合。

侮られているうちは、こちらが動きやすい。

「執事」

「はい、お嬢様」

「本日の予定を」

「午前は商業ギルド本部への訪問。午後は染色ギルド長との面談でございます」

完璧だ。

正攻法から入る。

まずは礼を尽くす。

それで拒絶されるなら、それもまた計算の内。

馬車に乗り、王都中央区へ向かう。

巨大な石造りの建物――商業ギルド本部。

王城にも劣らぬ威容。

ここが王都の“門”だ。

中へ通される。

応接室にはギルド長と数名の幹部。

年配の男が穏やかな笑みを浮かべる。

「これはこれは。お嬢様がこのような場所へ」

「ご無沙汰しておりますわ」

形式的な挨拶を交わし、本題へ。

「わたくし、新たな生活用品事業を立ち上げたいと考えておりますの」

沈黙。

幹部たちが視線を交わす。

「登録をご希望で?」

「ええ。規定通りの手続きを」

ギルド長は指を組む。

「誠に申し上げにくいのですが」

来た。

「現在、王都では同種の事業が飽和状態でして」

「飽和?」

「ええ。新規参入は市場安定を損なう恐れがございます」

穏やかな拒絶。

明確な否定ではない。

だが実質、拒否。

「品質保証も難しい。経験のない方が始めるには――」

経験のない方。

つまり、“元婚約者”。

わたくしは微笑む。

「なるほど。市場の安定を第一に」

「ご理解いただけますかな」

「もちろん」

立ち上がる。

幹部たちが安堵の息を漏らす。

――甘い。

ギルド本部を出た途端、わたくしは執事へ向き直る。

「予想通りですわね」

「はい。事前に手は回っておりました」

「王太子?」

「可能性は高うございます」

わたくしは馬車へ乗り込む。

「次」

午後。

染色ギルド。

こちらは若干若い組織。

しかし回答は同じ。

「原料供給は難しい」

「現行契約が優先」

「登録が通らなければ卸せない」

どこへ行っても同じ言葉。

拒絶の連鎖。

屋敷へ戻る頃には夕暮れ。

王都の灯りがまた一つ、また一つと点る。

「どうなさいますか」

執事が問う。

わたくしは窓辺へ歩く。

「彼らは“門番”のつもりですわ」

「はい」

「ですが」

振り返る。

「門そのものを作り替えればよろしい」

執事の目がわずかに細まる。

「具体的には」

「まず、地方産地を調べなさい」

「産地、でございますか」

「王都に原料を卸している全地域。契約内容。価格。輸送経路」

「……王都ギルドを通さずに?」

「ええ」

紅茶を置く。

「王都が中心だと、誰が決めましたの?」

王都ギルドが強い理由。

それは王都が“集約地”だから。

だが、産地は王都の外。

そこを押さえれば?

供給は逆流する。

「そして金融」

「銀行へ?」

「出資できる先を洗い出しなさい」

「商業銀行に食い込むおつもりで?」

「決済が止まれば商売は止まる」

ゆっくりと微笑む。

「ギルドが“登録”で縛るなら、わたくしは“信用”で縛りますわ」

沈黙。

やがて執事が深く一礼。

「畏まりました」

部屋に静寂が戻る。

わたくしは王都の夜景を眺める。

拒絶。

侮り。

嘲笑。

すべて、予定通り。

「正攻法など無意味」

小さく呟く。

「金と構造で動かすのですわ」

王太子殿下は思っているだろう。

婚約を切れば、わたくしは静かになると。

けれど違う。

王城から解放された今。

わたくしは、王都そのものへ手を伸ばせる。

「ギルドに従わなければ商売ができない?」

静かに笑う。

「ならば、ギルドが従うしかなくなる状況を作るだけですわ」

夜風がカーテンを揺らす。

王都の灯りは、まだ自由に瞬いている。

だがその光は、いずれ――

わたくしの許可のもとでしか灯らなくなる。

そう、必ず。
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